第13話 適性検査

女神との取引が終わった朝、俺は宿の一階でレクター一家に混じって朝食をとっていた。

 朝食はエルザが他の人達の分を作ることを条件に宿の厨房を借りて作ったスープと、宿が朝食用として出しているパンが一つ。


 軽食なだけあって昨日の夜飯よりは受け付けやすく、そしてスープは少し薬のような苦みがした。

 それに気づいたマリーがエルザに尋ねたところ、朝からお腹の調子が悪いから胃に優しい薬味を入れておいたとのこと。


 エルザの様子をみる限り、そんな風には見えない。 恐らく昨日の俺を見て察してくれたのだろう、俺がエルザの方を見ていると不意に目が合う、彼女はそんな俺に対しニコリとほほ笑んだ。


 また一つ、この家族に借りができてしまった。


「そういえばこれからティアはどうするの?」


 マリーは行儀よく、食べる手を止めてから尋ねてくる。

 

「もちろん働く、あんた達に借りた金は返さないといけないしな。」

「そんな、別にいいですよ。これは助けてもらったお礼ですし。」

「いや、ダメだ、こういうのはしっかりしておかないと、俺の気が済まない!」


 昨日の事はあくまで借りとして頼んだことだからな、借りたものは必ず返すものだ。

 そう訴えるように力強く言うと、何故かジェームスはまた謝ってきた。 

 

 ……というより何故この男は娘と同じくらいの歳の子供にさん付けで敬語なんだ。

 この男はどうもお人好しだけではなく、気が弱すぎる気がする。


「で、働くってどこで働くの?」

「ああ、とりあえず今日はギルドってところに行ってみようと思う。」


 ギルドは脱走の船の中でマーカスに勧められた仕事だ。

 話によればいわゆる何でも屋で、ギルドに送られてくる依頼を自分で選び、それをこなして内容に応じた金額がその場で支給されるらしい。

 依頼はランク制でランクが高い程報酬も多いが、今日から始める予定の俺は勿論一番下からだから報酬も少ないだろう。

 この家族がこの町にいつまで滞在するかは知らないができるだけこの町にいる間に返しておきたいし、今日からできる限り依頼をこなそう。


 ……と言っても実際のところ行ってみないとなにもわからんからな。

 まあ、この世界ではメジャーな職業の様だし信用性とかは大丈夫だとは思うが、何故かそう告げると三人は渋い顔を見せる。


「どうした?」

「いや、別にいいんですが……」


 ジェームスは何か言いたげな顔をする。


「私達は最近ギルドでひどい目にあったばかりだから。」


 そして変わるようにマリーが告げた。


「酷い目?ギルドにか?」

「まあ、ギルドというよりはギルドに所属する冒険者なんだけどね、私達の前いた町と今いる町、カザールとは少しばかり距離もあって、町の外にはモンスターや盗賊で危険も多いからギルドに依頼して護衛を雇ったの、そしたらやってきたのは最低な人達で仕事はサボるは、お母さんや私に色目を使うわ、挙げ句の果てにはモンスターにビビって私達を囮にして逃げたのよ!」


 話している途中でその時の事を思い出し始めたのか、マリーの口調はどんどん強くなっていく。


「道もまだ半ばで放り出された私達は仕方なく前に進んでなんかとか街までたどり着いたの、ホント、思い出すだけですごく腹が立つわ。それにティアがいなかったら今頃どうなってたか。」

「なるほど、それで俺達と遭遇した時は護衛がいなかったのか。」

 

 確かエッジの奴らも護衛がいなかったことで大喜びしていたようだからな。

 まさか護衛が逃げ出すとは思ってもみなかったのだろう。


「しかも、前金も払っていたのよねぇ。」


 エルザが怒りの火種を更に上乗せする、落ち着いた口調で話しているが、この人も相当イラついてるようだな。


「ま、まあ、一応ギルドには違反報告は出しておいたからもう依頼は受けられないと思うけどね。」


 少しヒートアップした二人を宥めるようにジェームスはフォローを入れる。


 「とにかく、今回の様な事は滅多にないと思うんだけど、やっぱり今後もギルドにはお世話になると思うけど、同じような事が起こるんじゃないかと不安になるのよね、こちらも命懸けだから。」


 そう言ってマリーが愚痴を零す。


 この世界はこの世界で色々とあるようだ。


 食事を済ませると、俺はとりあえずそのギルドとやらに向かう。登録するかは別として、どんなところかは見ておきたいからな。


 マリーがギルドまでの案内に名乗り出たが、先程の話を聞いたら今は近づけないほうがいいと判断し、一人で行くことにした。


 昨日のとは違い、今日は町中を一人堂々と歩く。

 昨日はあまり見れてなかったが、町を歩く殆どの人間に武装が目立つ、やはりこの世界では戦闘というのが日常になっているのだろう。


 そしてしばらく町を観察しながら歩き、奥へ進んでいくと、町の中でも一際大きな建物を発見する。


 『冒険者ギルドカザール支部』と書かれてある。

……というより何故俺はこの世界の文字が読めるのか?これも女神によるものなのか?


と言うより何故冒険者なんだ?


 色々と疑問は増える。

 とりあえず中に入ってみる、するとそこには屈強な体の男達や仮装にも見えるような奇妙な格好をした奴等が掲示板に群がったり、この施設と繋がっている隣の酒場で騒いだりと沢山の人間で賑わっていた。


 俺はそのままギルドの受け付け嬢の座るカウンターへと向かう。


「こんにちは、冒険者ギルド、カザール支部へようこそ、本日はいかがなさいましたか?」


 受付嬢が満面の笑みで出迎える。


「とりあえずこの施設について聞きたい。」

「ギルドについてですか?わかりました、では一から説明させていただきますね。」


 そう言うと受付嬢は嫌な顔一つせず丁寧に教えてくれる。


 内容はおおよそマーカスから聞いた通りで、あらかじめ聞いていた分、よりわかりやすく感じた。


「説明は以上です、何か質問はありますか?」


 俺は疑問に思っていた事を尋ねる。


「何故冒険者なんだ?冒険者というのは世界中を旅をするようなイメージがあるが、今の説明を聞くにそんな奴は一握りで、大体どこかに拠点を置いてあまり動いていていない気がするんだが……」

「はい、それにはこのギルドができた成り立ちが関係しています。昔はこのような依頼はは全て街からの陳情として国に依頼を行っていたのですが、長い歴史の中で魔王復活などでモンスターが増加し、それにより国だけでは手に負えない状況になったのです。そしてその際国に対応してもらえない街の人達は代わりに街を訪れていた冒険者達に依頼するようになり、その中の一人の冒険者が、ならばそう言う組織を作ろうと作ったのがギルドです。それにちなんでギルドに登録している人達は冒険者って言われるようになったのです。」


 なるほどな、そういう歴史があったのか、やはり何かを知るなら歴史からだな。

 と言うより魔王とかもいたのか……


「他に質問はございませんか?」

「いや、助かった。それでこのまま登録を行いたいんだが。」


 今までの丁寧な対応を見る限り少なくともこの町の施設は信用できそうだ。


「冒険者登録ですね、かしこまりました。ではここに名前と年齢、そして誓約書の記入をお願いします。」


 そう言って一枚の紙を渡される。


 名前か……とりあえず下の名前は、まあティアでいいだろう、初めは慣れなかったが自分の今の顔を見てから違和感も感じなくなってしまった、それに流石にティアラは嫌だからこのままティアで通しておこう。


 問題は名字はどうするか。

 流石にあの家族の名字を使う訳にはいかないからな。

 まあ、昨日丁度本名を知ったところだから名字は本来のを使ってもいいんだが、どうでもいいと思っていただけに、知ってすぐで使うのは少し抵抗がある。


……ま、と言っても他にないからな。少し癪だが使うか

 

 ティア・マット……と。


 そして次に年齢だが……そういえば年齢制限はあるのだろうか?

 そのことについて聞いてみる。


「あ、勿論ありますよ。冒険者登録可能年齢は12歳からですね。」

「思った以上に若いな。」

「ええ、才能ある子はこのくらいの年齢になれば十分戦力にもなりますからね。まあ、大体の人は成人である十五歳から始める方が多いですが」


 なるほど。この世界での成人は十五歳からか、そう考えると十二歳で働くのもおかしくはないか、

 俺も前世では十五の時には自分で稼いでたからな。

 俺は自分の実年齢を書きそして最後に命の責任に関する誓約書にサインをして提出する。


「では、ご確認させていただきます……へえ、ティア・マットさんというのですか、名付けた人はなかなか思い切った名前にしましたね。」


 何が思い切った名前なのか。


「ちなみにあんたの名前は」

「リアム・ノーマです。」


 お前もキラキラネームじゃねえか、俺からしたら大して変わらんぞ。


「さて、では次にジョブの適性検査に移ります。」

「……ジョブ?」


 また聞き慣れない単語が出てくる。


「はい、ジョブと言うのはいわゆる戦闘に置いての役割のことで、戦闘が必須となる冒険者には必ずついてもらう職業の事です。ジョブには剣士、魔法使い、槍使い、治癒術師などなど様々なまジョブあり、ジョブ検査は、その多すぎるジョブの中からどれを選べばいいのかわからない人や、どれが自分に向いているかがわからず決めかねている人のために適性を調べる検査の事です。適性検査はその人の持つスキルや魔法からどのジョブに向いているかを調べます。もちろん、あくまで参考なので適正が低いジョブでも大丈夫ですが、やっぱり自分の得意分野で活躍したいという人が多いので大抵の人が適正の高いジョブを選びますね。」


 なるほど……自分の持つスキルと魔法……か……


「ちなみにどの職にも向いてなければどうなるんだ?」

「ふふ、ご安心ください。適性検査で使われる水晶玉は例えどのスキルが低くても、必ず最適なジョブを示してくれますのでご心配なく。」


 そのスキルや使える魔法が自体がないんだがな。そういう前に俺の前にその水晶玉が出される。


「ではここに手を置いてください。」

「……」


 俺は無言でそのまま言われた通りに手を伸ばす。


 実はあったりするのではと密かな期待がないと言えば嘘になる。

しかし水晶は一斉の反応を見せない。


「あれ?おかしいですね。故障かな?」


ノーマは試しに自分の手を置いてみるが水晶玉はしっかりと反応を見せる。

どうやらノーマの適正ジョブは魔法使いらしい。


「あれ?しっかり動いてる?マットさん、どこかで封印の呪いをかけられたりしましたか?」

「いや、ただ魔法もスキルも使えないだけだ。」

「へえ……魔法もスキルも……ってそれはつまり無能!――」


 とっ、大声を出しかけたところでノーマは慌てて自分の口を手で塞いだ。

 俺自身は特に気にしていなかったから別によかったのだが、どうやらノーマは気にしていたようだ。


主にここにいる奴らに……


 気がつけば酒場を含めたここにいる冒険者達全員がこっちに視線を向けていた。

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