第7話 リーダー
新しく仕切ることになったエッジに従いついて行くと、俺たちは森の中へと入っていた。
話によればエッジは元々奴隷になる前は他の犯罪者奴隷達と一緒に盗賊をしていたらしく、野外での生活はお手の物らしい。エッジは森の中をしばらく歩き少し広い場所を見つけると、横に倒れている大木に腰をかける。
「よし、お前ら、今日はここいらで飯探しだ!土地勘のあるやつらに聞けばここいらの魔物は基本弱い奴らばかりらしいからつるはしがあれば十分狩れるだろう。そして手に入れた食材はまず俺のところへ持ってこい!いいな?」
そう指示を出すとそれぞれが何人かと組んで森の中を探索しに行く。
そして、残ったのは俺と大木に座り込むエッジだけだった。
「ん、なんだ?お前も早く行けよ」
「いや、あんたは行かないのかと思ってな。」
この場所は今エッジが座っている大木が良い目印になるから、待つ人がいなくても忘れることはないだろう。
「あん?俺はリーダーだぞ?指示を出して待つのが俺の仕事だ。」
「今のいる連中達はまだお互いのことを何も知らない寄せ集まりの集団だ。こういう時こそ、上が先頭に立って皆を引っ張った方がいいと思うがな?」
「……何がいいてえ?」
「別に、俺からの簡単な助言だ。さて、俺も狩りに行ってくるよ、リーダーさん。」
皮肉交じりでそう呼び、エッジに背中を向けて歩き出すと、後ろから小さな舌打ちが聞こえてきた。
――
さて、どれを狩ろうか。
俺は森のあちこちにいる食材になりそうな動物を片っ端から観察していく。
兎、鹿、これは狐か?
どれも前の世界で見たことあるようでない動物ばかりだ。見た目はただの動物なんだが、所々角が生えたり牙を持っていたりする。
恐らくこれが魔物という奴だろう。
しかし、小物ばかりで大物がいないな。
あれだけの大人数だ、こんな小物ばかり捕っていても全然足らないだろう。
どうせならあいつら全員に行き渡るほどの大きさの魔物に出会いたいものだ、あと食えそうな魔物だな。
俺は何か大きな食材を求めさらに奥地を、進んでいく。
「……でかいな。」
そして見つけたのは巨大なイノシシのような魔物だ。
見た目はイノシシだが、体格は日本のイノシシの倍以上で、口からはみ出ている二本の牙は完全な凶器といえる長さだ。
このくらいなら十分だろう。
俺はイノシシの前に立つ。
デカいイノシシは、今にも俺に向かって突進しようと鼻を鳴らしながら足で地面を引っ掻き始める。
前の世界だったらイノシシ相手にこんな無謀なことはしないがここは異世界、今の俺は前の世界では考えられないほどの力を身につけている。
そしてそれを確かめるにはちょうど良い相手だ、今の俺なら止められる自信はある。
俺は腰を落としてイノシシの突撃を受け止める態勢をとる。
『ブモオオオオ!』
イノシシが、吠えながら突進してくると俺はそれを両手で受け止める!
まるでトラックに突撃されたかのような衝撃が体に伝わるが、俺は腰に力を入れ、踏ん張りイノシシの突撃を受け止める。
「よし!」
イノシシは受け止められてもなお突っ込んで来るが、一度勢いを止めて仕舞えばそれほど脅威ではない。
俺はイノシシの牙を脇で抱えると、その巨体を真上に持ち上げ、そのままバックドロップで背中から地面に叩き落とす。
強い衝撃を受けたイノシシは、そのままピクピクと痙攣しながら動かなくなった。
「まさか、本当に素手でイノシシを倒せる日が来るとはな。」
しかもこんな骨と皮だけの体でだ。
この勢いで是非熊にも挑戦したいところだが、生憎今はそこまでの余裕はない。
とりあえず今はこいつを持ち帰るとしよう。
俺はイノシシの足を持ち、そのまま引きずりながら初めの場所まで戻っていった。
――
それからしばらくして俺がイノシシを持って戻ると、ちょっとした騒ぎとなる。
「こ、ここ、これって、デビルボアじゃねえッスか!」
俺の持ち帰った巨大なイノシシを見てマーカスがなかなかいいリアクションを見せてくれる。
「美味いのか?」
「いや、美味いより強いんスよ!普通素人が一人で、しかも素手で倒せるもんじゃあないっスよ!」
「そうなのか?」
そいつは朗報だ、ならば俺はこの世界でもそれなりの実力を持つと言うことになる。
「こ、これ一人で倒したのか?」
「ああ。」
「ま、まさか、無能一人でこんなことできるわけが……」
「その無能と一緒に行動を共にしようと考えた奴がここにいるか?」
そう尋ねると全員が黙りこく。
「ケッどうせ木にでも頭ぶつけて死んでたやつを持って来たんだろ?無能は俺たちよりも若干ステータスが高いらしいからな。」
俺に話題を持っていかれているのがつまらないのか、話を聞いていた、エッジが大木の上で横に寝転がりながら難癖をつけてくる。
「フッ、仮にもしそうだとしても、それは自分の足で歩いて起こした結果でもある。それで?俺とは違ってスキルを持ち、腰には立派な剣を付けたお前はその間ここで何をしていたんだ?」
「そ、それはここでリーダーらしく皆の帰りを待って――」
そこまで言うと、エッジは周りの奴隷達から冷たい視線を向けられていることに気づく。
「な、なんだ?お前ら?文句あるのか⁉︎俺はリーダーなんだぞ?」
「い、いや……別に……」
「でも、デビルボアが出るなんて聞かされてなかったしな」
エッジにビビって強くは言えないようだが、先程エッジが動いていなかった事と、弱い魔物しかいないと言っておきながらデビルボアがいた事により他の奴隷達はエッジに少し不信感を抱き始める。
「リーダーってのは自らが名乗るもんじゃねぇ、周りが認めてなるもんだ。少なくとも俺は合理的だと判断したから従っただけであって、まだお前をリーダーとは認めてはいない。そして、今ではついてきたことすら間違いとすら感じている。」
「なんだと⁉︎」
流石のエッジもその言葉に怒りを見せ、立ち上がるとこちらに顔を近づけ一触即発の状態となる。
どちらも瞬きもしないままの睨み合いが続き、他の奴らは只この状況を委縮しながら見ているだけだ。
そして、痺れを切らしたエッジが動きを見せようとしたところでタイミングがいいのか悪いのか、遠くから声が聞こえてきた。
「頭!大変だ!」
その声の主はエッジの元々部下だった犯罪者奴隷達で、なにやら慌ててかけてくる。
部下の声に水を刺された形になったエッジは未だに怒りが収まらず歯ぎしりをするも、一度小さく舌打ちして不機嫌そうに大木に座りなおす。
「クソッ……で、どうした?」
「は、はい。今、あっちの方に荷積みを乗せた馬車が来てます。」
「そうか商人が来たんだろう、この森を抜ければ町があるらしいからな。それで、なにが大変なんだ?」
「ああ、実はそいつら、護衛をつけていないんですよ!」
「なにぃ!」
その言葉を聞いた瞬間、エッジが再び立ち上がり部下の話に食いつく。
「恐らくここまでくる途中で魔物にでも襲われて護衛をやられたんでしょう、しかも家族で旅をしてるのか女連れですぜ。」
「それは朗報じゃねえか!おい、無能、てめえの件は後回しだ。まずはその馬車を襲うぞ!」
「「へい」」
そう言うと、エッジは先ほどまでの怒りを忘れ、大急ぎで部下たちについて走っていく。
……ま、とりあえず俺も向かうか……
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