第3話 犯罪者奴隷
俺がここで目覚めてからおよそ十年、目覚めた時に比べると、様々なものに変化が訪れていた。
目覚めた時は大人の太もも程度だった俺の背丈は成長期に入り、順調に周りの大人達の背丈に追いつきつつある。
異世界特有ともいえる緋色の髪は一度も切る機会がなく、顔を覆うほどに伸びており、その髪色に見合った紅の瞳を隠した。
環境のせいか子供ながら口元には薄らと髭も生えてきている。
まともな食事をしたことがないため、体の肉付きは骨と皮だけだが、十年間朝から晩までひたすら鉱石を掘り続けたり、重い岩を運び続けたこともあって、力は見た目と違ってかなりついている。
そして背中には長年の鞭と暴力によりできた無数の痣があった。
変わったのは俺だけではない。奴隷の管理をする兵士達も数年おきに外からくる兵士と入れ替わる。
この場所は人里離れた孤島だ。管理者の兵士と言っても俺たちに比べれば優雅だが、外の暮らしと比べれば決していい暮らしとはいえないだろう。
その事もあってか、あまりやる気のない兵士も中にいたりもする。
……まあ逆に人を痛めつけるのが趣味みたいな仕事熱心な奴もいるがな。
そしてここ最近は、奴隷の質にも変化がみられていた。
この十年間、俺は毎日のように周りの奴隷達が死んでは補充されるのを見てきた。
今まではここに連れてこられた奴隷は、老人や亜人、やせ細った中年というのが多かったが、最近の奴隷達は何故かガタイのいい厳つい男達が目立つようになってきている。
以前外から来た奴隷達から聞いた話によれば、どうやらこの世界で奴隷になるものにはどうやら二通りのパターンがあるらしい。
一つは貧乏がゆえに借金や、食い扶持を繋ぐために家族に売られてなった合法的な奴隷、そしてもう一つが盗賊や人攫いなどに拐われ、非合法な取引で売られる奴隷だ。
一応合法、非合法で分けられているが、実際は奴隷市場に並んでしまえば確認する方法がなくなるのでどちらも合法のようなものらしい。
そしてどちらの奴隷もほとんどが老人や亜人、そして女子供が中心となっている。
理由としては老いて動けなくなった老人は、家族の中でも切り捨てられやすく、女子供は力が弱い上に価値が高いので拐われやすいと言うこと。
そして亜人は人間よりも数が遥かに少ない事から希少価値が高く、人攫いや奴隷商人達の格好の餌食となっている。
それだけにここ最近の奴隷達はどれも条件に合わないのが多い。
屈強な男達はここで働かせるには確かに適任だが何故、ここに来てそんな奴隷が増えたのか、それが疑問だった。
――
「そいつらは、恐らく犯罪者奴隷っスね。」
「犯罪者奴隷?」
そう聞き返すと、向かい側で胡坐をかいて座る狐目の男はコクリと頷く。
「ええ、以前から他国ではあった捕まえた罪人を奴隷にする犯罪者奴隷制度と言うものが、この国でも最近導入され、その奴隷達の事を一般的に犯罪者奴隷と言うっス。罪人という事もあってあまり価値はないっスが、買えば安く、自分達で捕まえた罪人ならばタダで奴隷が手に入るのでどこの領主も積極的に使ってるっスね。」
成程な、つまり悪人面の奴隷が目立つのは、本物の悪人どもって事か。
確かに奴隷を使い捨てするこの場所にはうってつけの人材だな。
「ただ、この制度を利用して、罪なき人を罪人に仕立て上げ、奴隷にする領主もいたりと色々問題もあるっスけどね。」
「成程……なかなか難儀な問題だな。で、お前はそういった数ある理由の中では珍しい若い成人の男ながら拐われてきたという奴隷ということだな?マーカス。」
そう尋ねると、キツネ目の男が遜りながら頷く。
「へへえ、そういうことでさぁ、アニキ。あっしも元は健全な情報屋だったんスが、悪党に捕まり泣く泣く奴隷に……」
「健全ねぇ……」
どうだか……
俺はこの白々しく泣き真似をしている男、マーカスに白い目を向ける。
マーカスは最近連れてこられた奴隷で、元々は『健全な』情報屋をやっていたらしいがある日、自分達の情報を流したことにより逆上した冒険者に捕まり、奴隷として売られたらしい。
年は二十代で俺より上だが、奴隷歴十年と言うことでアニキ呼ばわりされている。
情報屋をやっていただけにいろいろなことを知っているので、こいつの存在は非常に大きかった。
「ほ、本当っスよ!うちはクリーンな情報屋で売ってたんです!」
……と、何度も言ってるがいまいち信用できない。
「ま、どっちでもいいさ。」
俺にとっては健全でも不健全でも関係ないからな。
それよりも、だ。
改めて周囲の奴隷達を見回す。
犯罪者奴隷と思われる奴らは、屈強なガタいをしているだけあってタフなようで作業終了後もすぐに眠らず俺たちと同じように複数人で集まり不満と愚痴をこぼしている。
雰囲気を見るからして、こいつらは元々顔見知りの様だな。
そして、会話の内容を聞く限り、こいつらは俺と同じくここから脱出したいと考えているようだ。
「……こいつらは使えそうだな。」
――翌日
「さあ、時間だ奴隷ども!さっさと持ち場にいけぇ!」
今日も鞭の合図とともに一日が始まる。
まだここに来て日の浅い奴隷達は未だに反抗的で、兵士たちに目を付けられているようだ。
それに比べて俺はもう慣れた動きで現場に向かいそして今日も鉱石を掘り、岩を運ぶ。
ここに来た時は、自分の体重程度だった運んでいた岩も、この虐めのような環境で徐々に上乗せされていき、今では自分の何倍もの重さと大きさを誇る岩を運ばされている。
こんな岩、以前の世界では決して一人で持つことなど無理だったが、この世界では持つことができるのはやはりこの世界は以前いた世界とは違うのだろう。
人一倍鉱石を掘り、岩を運ぶ俺は仕事に関してで鞭が飛ぶ事はないが、その悠々とした態度が気に入らないらしく結局難癖をつけられ今日も鞭が飛ぶ。
しかし、まるで痛みを感じない。
この十年、叩かれ続けたせいで今ではこの痛みにもすっかり耐性が付いていた。
「ぜぇ……ぜぇ……こ、こいつ!」
全く無反応な俺に対し鞭を奮い続けた男の方が息切れをし始めている。
なんとも軟弱な奴だ、恐らくここ最近来た奴だな。
新入りの兵士が俺に苦戦しているともう一人鞭を持った男が現れる。
ここに来て三年目くらいのベテランの領域に入りつつある兵士だ。
「おい、そいつは少々特別な奴隷でな、普通の鞭では効かんのだ、だから……」
男は刺々しい鞭を引っ張りピシ!と音を立てる
「このモンスター討伐用に作られた鞭を使うんだよ!」
そして手慣れた動きで俺の背中に太く刺々しい鞭を奮うと、その鞭はパシーン!と、それはとても綺麗で大きく、そして痛々しい音を現場に響かせた。
……だが、生憎そろそろこれにも慣れてきた。
「き、貴様!」
先輩面吹かせていたところ悪いが、余り痛みも感じない。
俺が平然としていると、それが屈辱だったのか兵士は逆上し、とうとう腰につけた剣に手をかける。
「ま、待て!こいつは他の奴隷よりも働く奴だ。これほどの労働力のある奴隷を殺してしまうのは、流石に不味い!」
その状況を偶々見ていた他の兵士達が慌てて駆けつけ、斬りかかろうとする兵士を宥める。
俺は騒ぐ兵士たちを無視して持ち場に戻っていく。
日頃の行いもあってなんとかなったが、それでもそろそろ限界のようだ。
俺は、横目で他の奴隷達を見る、やはり犯罪者奴隷達は他の奴隷よりもひどく鞭を打たれているようだ。
今はまだ元気なようだが、あと数日もすればそんな元気もなくなり抵抗する気すらなくなるだろう。
そろそろ頃合いか……
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