09 いよいよグルメパーテー開幕!
「いや~、ぎょうさん
下ごしらえを済ませて肉塊となった吸血コウモリの山を見て、おかんが満足そうに汗を拭った。
俺達パーティ四人と、チンピラ達八人、合わせて十二人で、五百匹以上の吸血コウモリを下ごしらえしたのだ。
清水が湧き出て小川へと通じるスパニヤクの泉があったおかげもあり、頭や羽、内蔵を取り除き、血を洗い流したコウモリ肉は見違えるほど食材らしくなっている。
四角いトレーに三体くらい並べてラップをかければ、普通にスーパーで売っていそうなレベルだ。
「オカンさん、これだけの量のコウモリ肉を一体どうやって料理するつもりだ?」
コウモリを捌いた短剣を清水で洗い流したリーナが、水を切りつつおかんに尋ねる。
「ここやと調理器具も調味料もなければ、他の食材も揃わんからな。酒場の大将に頼んで、厨房を貸してもらお思てんねん」
おかんはそう答えると、レチムをつまみ食いしているチンピラ達に指図した。
「あんたら、もうひと仕事頼むで! このコウモリ肉と切り離した羽を、手分けして村まで運んでえな。酒場を借りてグルメパーテーや!」
「うおー!」
食材らしく変身した肉を前に食欲を取り戻したのか、チンピラ達が嬉しそうに雄叫びを上げる。
時計がないから正確な時間はわからないが、恐らくもう正午は過ぎているはずだ。
ひと仕事もふた仕事もした後だけに、さすがに俺達も腹が減っている。
リュックやら革袋やら脱いだ服やら、手持ちのものでめいめいが持てるだけの肉を運び、俺達はドゥブルフツカ村へと戻った。
☆
大量の肉を提供するから厨房を貸してほしいというおかんの交渉に、酒場の大将は快く応じてくれた。
しかも、酒場の大将はジビエ(こっちの世界では野生動物のほかにモンスター肉も含めてそう呼ぶらしいが)に興味があるとのことで、おかんのアシスタントとして調理の手伝いまでしてくれることになった。
「さあ、じゃんじゃん料理するで! リーナちゃん、レンちゃん、魔法の手伝い頼むな!」
「わかった、任せてくれ」
「ええー? 料理の手伝いごときに僕を使うなんて有り得ないよ。一流魔法は、冒険の危機のさなかにこそ見せ場があるんだからさ……」
快く引き受けるリーナとは対照的に、口を尖らせて渋るレン。
ほんと、こいつほど周りをイラッとさせるイケメンは見たことないぜ。
「おい、あんちゃん、他ならぬオカン姐さんの頼みを引き受けねえなんてことあるわけないよな?」
「何なら俺らが見せ場を作ってやってもいいんだぜ? ツラのいいおぼっちゃまが、イケメンの原型をとどめねえくらいボコられるっつー見せ場をよぉ」
「ひぃぃっ! よ、喜んでお手伝いさせていただきますッ」
男達に尻を叩かれたレンが逃げるように厨房へ駆け込み、コウモリ肉の調理が始まった。
☆
トントンと、リズミカルに聞こえてくる包丁の音。
ほどなくして、ジュワッと油のはじける音が聞こえてくる。
そのうち、肉を焼く香ばしい匂いが鼻腔をくすぐり出し、出汁のきいたスープの香りが酒場を満たしていく。
フルーツの甘く芳醇な香りが漂ってきたかと思うと、鋼の胴当てを外してエプロン姿になったリーナがボウルのような深く大きな木の器を運んできた。
「リーナ、そのエプロンはどうしたんだ?」
普段は凛とした雰囲気のリーナが随分と家庭的に見えて、いつもと違う可愛らしさに思わずドキッとしてしまう。
「こ、これは大将の娘さんが店を手伝う時に使っているというエプロンを借りたんだが……ユウト、頼むからそんな目で見ないでくれ」
「え? そ、そんな目って……?」
「新婚生活初日の夕食で、初めて新妻のエプロン姿を見た夫が、その後に控えた初夜に思いを馳せて興奮を抑えきれないような、そんな目だ」
「ちょ! さすがにそこまで嫌らしい目はしてないだろ!?」
頬を染めてもじもじと体をくねらせるリーナに思わずツッコミを入れる。
ってか、どんだけ新婚妄想激しいんだよ!?
「昨日採ってきた
「そんな目で見るなって言いながら、お前の方が乗り気じゃねえか!」
危ない危ない。
美人新妻風のリーナにほだされてうっかりその気になってしまいそうだが、おかん同伴の旅先でそんな展開にするわけにはいかない。
「それよか、そのボウルに入ってるのは何だ?」
俺達の間に流れる微妙な空気を変えようと話を振ると、リーナは抱えていたボウルをテーブルに置いた。
「これはオカンさん特製のフルーツサラダだ」
ボウルの中を覗くと、レタスをゴスロリ風にしたような、フリフリの白いレースみたいな葉っぱに囲まれて、角切りになった色とりどりのフルーツがどっさりと入っている。
「特製ソースで和えてあるさかい、そのまま皿に取って食べてや!」
次の料理を運んできたおかんが、そう言いながら大皿をドン! とテーブルに置いた。
「みんな大好き、おかあちゃん特製唐揚げ・異世界風やで!」
千キャベツ風の野菜が添えられた唐揚げは、見た目も香りもおかんがよく作る唐揚げそっくりだ。
ゲンコツみたいなゴツゴツした肉は下味を含んで色よく揚がり、白く粉を吹いている表面もカラリとして、めちゃくちゃ美味そうに見える。
この時点で、俺と一緒に料理を待っていたチンピラ達の喉がごくりと鳴る音が聞こえてきた。
「僕の火焔魔法を使ったグリルも出来上がったよ~!」
ドヤ顔のレンが運んできたのは、これまた良い具合に照りの出たコウモリ肉のグリルだ。
腹の部分に詰め物をしたのか丸々と膨らんでいて、こんがりと香ばしい匂いが鼻に届く。
「まだまだ料理は出るけど、ここいらで一旦乾杯しよか!」
「おおっ!!」
おかんがそう声を掛けると、食欲を猛烈に刺激されたチンピラ達が、待ちきれないとばかりに歓声を上げた。
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