05 さすがおかん、考えつくことがえげつない
俺達パーティの目的────
それは、ドゥブルフツカの谷で大量繁殖してしまった吸血コウモリの駆除だったはずだ。
しかし、
“意外とイける吸血コウモリでグルメパーティを催すのだ!”
と──
「せやから、吸血コウモリが黒焦げになるような魔法を使うのは厳禁や。いい感じに焼くのはアリやけど、火の加減が難しいし、いっぺん焼いてしもたら、煮たり蒸したりゆう他の調理ができひん」
吸血コウモリの下ごしらえについて、いつになく真剣に考えるおかん。
「それじゃ、やっぱり剣で斬るか? 洞穴の外におびき出して、俺とリーナで斬っていくとか?」
「私が斬るのは構わないが、問題は数百匹の吸血コウモリをどうやって外におびき出すかだな」
「そんなの簡単だろ。レンが囮役になって洞穴に侵入し、襲ってきたコウモリを巣穴の外に誘導すればいい」
「はあっ!? ユウト、君は何てことを言うんだっ」
「だって、火焔魔法を使わないなら、お前の利用価値なんてそれくらいしかないじゃないか」
「確かに、このままではレンをパーティに加わらせた利点がないどころか、マイナスだからな。せめて囮役くらい頑張ってもらわなくては」
「ちょっ、リーナまでなに真顔で言ってんの!? 一流魔道士のそんな使い方は前代未聞だよっ」
半分冗談、半分本気のそんなやり取りを俺達が続けている間、おかんはバイブルに掲載された特集ページ『知らなきゃ損! 意外とイける害獣グルメ、とっておき十一選』を眺めながら考え事をしていたようだったが、突然「せや!」と声を上げた。
「二人がかりで数百匹のコウモリを斬り捨てるのもしんどいし、せっかくの食材に大きな傷がついてまうやろ。ほなら、 “
「燻す……?」
「洞窟内に煙を充満させて、吸血コウモリを駆除するねん。一酸化炭素中毒にさすゆうことやな」
さすがおかん。
考えつくことがえげつないぜ。
だが、確かに食べることを前提とすれば、毒の類は使えない。
火焔魔法で丸焼きするのが確かに手っ取り早そうだが、数百匹のコウモリを食すなら、色んな調理法を試した方が飽きが来なくていいかもしれない。
リーナもレンも、若干引き気味のリアクションではあるものの、反対の意を唱えるつもりはないようだ。
かくして、吸血コウモリの駆除方法は巣穴を燻すことに決まったのだった。
☆
おかんの指示で、俺とリーナが剣を使ってレチムの枝を切り、洞穴へと運ぶ。
それをある程度の量に積み上げてから、泉のほとりの湿った土で洞穴の入口を塞ぐ。
吸血コウモリ達は洞穴の奥の方を
「ほな、いよいよレンちゃんの出番やで。このレチムの枝に小さな炎をつけてえな」
洞穴の入口を塞いだ土壁には小さな穴がいくつか開けてあって、レチムの枝を数時間燻せるくらいの酸素量が供給できるようになっている。
おかんの指示に、体育座りで俺達の作業をぼけっと見ていたレンがのろのろと立ち上がった。
「一流魔道士の僕がパーティに加わったというのに、僕の仕事が小さな炎を出すだけなんて。なんだかモチベーションが上がらないなあ」
「土壁作りだって立派な仕事のうちなのに、高級ブランドの服が汚れるから嫌だとごねたのはどこのどいつだよ」
俺がレンの身勝手ぶりを非難すると、リーナも俺に加勢した。
「レチムの枝を燃やすフレイモンの魔法なら私だって使える。今回お前が同行した意義はまるっきりなかったな!」
「リーナまでひどいなあ。吸血コウモリを食べるなんてことにならなければ、華麗でド派手な火焔魔法を使いこなす僕のカッコ良さに、君もきっと惚れ直したと思うのに」
「惚れたことなどただの一度もないどころか、お前のことは幼い頃から嫌っている記憶しかないがな」
リーナが歯に衣着せぬ言葉を返しても、レンは「相変わらずの照れ屋さんだなあ」とニヤニヤしている。
その折れない心、ある意味尊敬するぜ。
ただ、吸血コウモリを燻すことになったおかげでこいつを活躍させることにならなかったことには内心ホッとしている。
万が一にも活躍させてしまったら、ドヤ顔で威張り散らすことは間違いないからな。
レンは洞穴を塞ぐ土壁の前へ行くと、レチムの枝を積んだあたりの穴に手を入れて、「フレイモン」と唱えた。
エベリ婆さんが風呂を沸かす時に使っていた、基本的な魔法ってやつだ。
しばらくすると、土壁の穴から白い煙が出始めて、もくもくと細く長く立ち上っていく。
「ほな、燻し終わるまでフルーツ狩りでも楽しんどくかー。この茂みにも美味そうな実がぎょうさん着いとるけど、その辺を出たとこにも何や別のフルーツがなっとったで」
おかんはそう言うと、半モンスターの出で立ちに紛れて存在感の薄いあの四次元ポシェットから、くるくるに丸まったエコバッグを取り出して広げた。
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