03 吸血コウモリの巣穴を発見
三人組が遠く離れたのを見計らい、俺達は急いで踵を返すと、南に伸びる小道を目指して来た道を戻った。
「レン、次に立ち止まったら今度こそ置いていくからな!」
厳しい口調でそう告げると、レンはゆすいだ口元を小綺麗なハンカチで拭いながら「わかったよ……」と情けない声を出す。
今はレンが吐いて足止めを食ったおかげでライバルを出し抜くことができたけれど、それをこいつのファインプレーだとは、俺は絶対に認めない。
ってか、ライバルを振り切った今、こいつはマジで足でまとい以外の何者でもないからな!
「さっきの案内板の手前まで戻ったら、分岐を右に折れて南を目指す。六百メトレンほど奥に行けば、スパヤニスクの泉とレチム群生地が見えてくるはずだ」
走りながら畳んで胸にしまってあった案内図を広げ、リーナが道案内をする。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。こんなに走ったら、また吐き気が襲ってきそうだよ」
「あかん、アラフォーのおかあちゃんも息が切れてきたわ……。うちとレンちゃんは後から行くさかい、二人は先に行っといてえな」
しばらくすると、レンとおかんの二人が息も切れ切れにそう訴えてきた。
二日酔いのレンと断じてアラフォーではないおかんにとって、走り続けるのは確かにきついだろう。
足でまといのポジションを揺るぎないものにしているレンにはムカつくが、さっきは二人のコンビネーションでライバルを出し抜けたわけだし、今はとにかく急がねば。
今度は俺とリーナが頑張る番だ。
「わかった! 俺とリーナは先に行ってるから、二人は後から来てくれ!」
そう言い残し、俺達二人で先を急いだのだった。
☆
「ユウト、レチムの群生地が見えてきたぞ、もうすぐだ!」
前を走るリーナの声で、俺は前方に視線を飛ばした。
雑木林の続く先に、周囲の木々とは葉の色合いの少し違う茂みが見えてくる。
人の背丈よりも少し高いくらいの木に、星型に近いギザギザした濃緑の葉が茂っていて、その間にまさに鈴なり……っていうか、ほぼ鈴みたいな形の実がめっちゃついてる。
「これがレチムか?」
「ああ。食べてみるか? これなんかは完熟していて甘そうだ」
ビロードみたいな表皮に覆われた深紅の実を手渡され、リーナの真似をして皮の上からかぶりついた。
「あっま……!」
食感と味は極甘のミニトマトをさらに甘くしたような感じで、の中心部にあるゼリー部分にほんの少しだけ酸味がある。
ビロードみたいな表皮はとても薄くて、思ったよりも口に残らず、まるごと食べられる。
「レチムはフルーツの王様と呼ばれるほど人気のあるフルーツだ。ただ、今年は吸血コウモリの影響で、ここまで獲りに来る観光客はいないようだな」
「案内図だと、この群生地の奥にスパヤニスクの泉があるはずだよな。泉に抜ける小道がどこかにあるのかな」
乾いた喉を完熟レチムで潤しつつ、俺とリーナはレチムの茂みの周囲をうかがった。
硬くて尖った葉がギチギチに茂っていて、奥へと進めそうな小道は見つからない。
しかし、茂みの外側を裏側に近いところまでぐるりと回り込むと、俺とリーナは「あっ!」と声を上げた。
レチムの茂みが、人が一人通れるくらいの幅に薙ぎ倒され、奥へと進めるようになっているのだ。
「枝の切り口がまだ新しい……。誰かが奥へ行くために、ここを切り開いたんだ」
「ってことは、誰かが俺達よりも先に来て、ここを分け行ったってことだな?」
「まずい、さっきの奴らとはまた別のライバルに先を越されたかもしれないっ!」
焦る俺とリーナは、何者かが茂みを切り開いた場所を辿り、レチム群生地の奥へと進んだ。
すると、突如視界が開け、神秘的なほどに澄んだ水をたたえる泉のほとりに出た。
「これがスパヤニスクの泉か」
「見ろ、ユウト。あの奥に洞穴がある。吸血コウモリの巣はおそらくあそこだろう」
リーナが指さした方を見ると、レチムに囲まれた小さな岩山があり、そこにぽっかりと穴が開いている。
大人が少し屈めば奥へと入れそうな大きさだ。
「周りに誰もいないところを見ると、ライバルは既にあの洞穴へ──」
リーナがそう言いかけた時だった。
「キキキキキ……!!」
「ぎゃああああっっ……!!」
軋むような多量の高音と、同時に上がる悲鳴。
剣の束に思わず手をかけ身構えた俺達の目に映ったのは──
「うあああああっっ!!」
「痛えぇ……っ!!」
その洞穴から争うように転び出てきた二人の男だった。
しかも血だらけで。
数百匹の吸血コウモリに一斉に襲われたのか、腕や顔、首などの無数の傷口から流血している。
さらに、二人の体には数匹ずつのコウモリに齧りついたままだったが、明るい所へ出てくると、コウモリ達は「キキッ」と鳴いて離れ、巣穴へと戻っていった。
「…………っ!!」
突然のことに絶句する俺とリーナ。
だが、先に洞穴に入っていた男達は、そんな俺達すら目に入らないほどパニックだったのだろう。
血だらけの二人は、
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