05 相棒を探しに武器屋へ行く
「出発前にユウトの剣を見繕っておこう。クエストには、勇者の実地訓練の意味もあるからな」
エベリ婆さんの宿に戻る前に、リーナのアドバイスに従い、俺たちは武器屋に向かうことにした。
その道すがら、俺はさっきから気になっていることを思いきってリーナに尋ねてみた。
「なあ、リーナ。あのレンって奴は本当に信用できる奴なのか? 仲間に加えたりして、リーナは嫌な思いはしてないか?」
いくらパーティに魔道士がいた方がいいとは言え、仲間にしたのがレンで本当に良かったんだろうか。
一流魔道士と自称してるのも胡散臭いことこの上ないし、リーナはあいつに会ったときから嫌そうな顔をしていたからな。
「残念ながら、私とパーティを組んでもいいという物好きは、あのギルドにはレンくらいしかいないのだ。それに、ユウトやオカンさんのように不慣れな冒険者にとって、魔道士がパーティにいれば何かと心強いことは確かだ。ユウトが勇者として成長するためには、私の個人的な好き嫌いより、そういった客観的事実を考慮すべきだと思っている」
「そうか……」
「それに、レンだって、私が一方的に嫌っているだけで、実はそう悪い奴ではないのだ」
苦笑いを浮かべながら、リーナがそんな言葉を口にする。
俺に経験を積ませるために無理しているのなら申し訳ないと思ったが、長い付き合いのリーナから見れば、あんな奴でもやはり顔以外の長所があるということだろうか。
「俺の第一印象は、ナルシストで高慢ちきでヘタレでバカな男だけどな」
「その印象は概ね間違っていない。レンは根が悪い奴ではなく、根拠のない自信家で、自慢しいで、こちらの嫌味はまったく通じない愚鈍なところがあり、人の神経を逆撫でする嫌なポジティブさを持った男なのだ」
「それって良いところが一個もないってこと!?」
リーナの補足は、フォローどころかレンをさらに貶めただけじゃないか。
ここまでボロクソに言われるレンに、逆にちょっとだけ同情心が湧いてくる。
「まあ、若いうちは何だかんだで顔さえ良ければオールオッケーや。男も女も、三十路に入るとそうも言うてられんくなるけどな」
おかんが横で妙に含蓄のあることを呟く。
羽織っている毛皮のマントが大賢者の証だと聞いたせいか、なんだか的を得ているような気がしてくるな。
「なあ、リーナちゃん。ユウ君は剣を持つゆうことやけど、うちはどんな武器を持てばええんかな?」
そんなおかんが声を弾ませてリーナに尋ねると、リーナは困ったように微笑んだ。
「賢者というのは、通常は武器を持たない。パーティ内での賢者の役割は、クエストを効率的かつできるだけ安全に遂行するための策を練ったり、いざ戦いになった場合は前線に立つ仲間に戦略を授けて支援するというものだ」
「んー、なんやようわからんけど、おかあちゃん専用の武器がないんはつまらんなあ。“赤い彗星” みたいなカッコええ奴が欲しいんやけどなあ」
口を尖らせて不満を言うおかんだが、 “赤い彗星” ってのは武器の名前じゃないからな。
一体どこでそんなワードを仕入れてきたんだか。
エベリ婆さんの宿に向かう路地を越え、さらに朝市の買い物客で賑わうマーケットを越えて、石畳のメインストリートの一本裏の道へ入る。
すると、ひっそりとした飲み屋街らしき一角に武器屋があった。
「こんにちはー」
店に入ると、あるわあるわ。
剣や槍、盾、斧といったギラギラした定番の武器から、大弓、クロスボウといった飛び道具まで、さらに店の隅には大掛かりな投石器も置かれている。
新聞を読んでいたスキンヘッドの男は、俺たちが入ってきたのをちらと確認すると、何の挨拶もなくまた新聞に視線を戻した。
リーナは店の一角に陳列された剣の前に俺を
「勇者が持つ剣はこの辺りから選ぶといい」
「選ぶったって、どんなのがいいのかさっぱりわからん」
「まずは剣を手に取って軽く振ってみろ。剣には人との相性というものがある。相性の良い剣は手に馴染む感じがするし、振るった時にも自分の腕のように自在な感覚があるものだ」
リーナのアドバイスに従って、陳列台に置かれたものや壁に掛けられたものの中から色々と手に取って振ってみる。
手に馴染む感覚も、自分の腕のようだという感覚もいまいちピンと来ないんだが……
……と首を傾げつつ続けていたのだが。
「あれ……?」
何気なく手にした一本が、それまでの他のどの剣とも違う感覚がした。
握った時の感じといい、軽く振った時の重みの伝わり方といい、まるでずっと前から俺はそれを知っていたような、こいつが長年の相棒のような、そんな気がしたんだ。
「この剣……持った感じがこれまでのと全然違うぞ」
俺がそう呟くと、リーナが目を輝かせて歩み寄ってきた。
「ユウト、相棒を見つけたか! どんな剣だ?」
俺は握っていた剣をリーナに手渡した。
リーナは手にした剣の切っ先から柄まで視線を滑らせたが、落胆した様子でふるふると首を振った。
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