04 はじめてのクエストはグルメツアーの予感
「うちの正体を見破るなんて、さすが一流の魔道士やな、レンちゃん」
長い牙をもつサーベルベアーに頭からかぶりつかれているかのようなおかんが不敵に笑う。
いや、レンが本当に一流の魔道士なら、おかんがパーティの意味すら知らないド素人って見抜けると思うんだけど。
「やはりな。ギルドに入ってきた時から、オカンさんにはただならぬ風格を感じていたのだ。しかし、なぜ大賢者がこの辺境の村で冒険者登録を?」
「うちとユウ君は、魔王を蹴散らしてリーナちゃんを助けるためにここにおんねん。レンちゃんこそ、一流ゆうたらもっと大きな街で活躍したらええんちゃう?」
おかんの鋭いツッコミに、レンがぎくりと肩を揺らす。
「もっ、もちろん、僕ほど一流になると、王都のギルドでも十分通用するんだけどね! まあ、たまにはこういう田舎の村でのんびりとクエストをこなすのも悪くないかなって……」
「この村から出たことがないくせに、よくまあそんなことが言えるな」
リーナが呆れたように横槍を入れると、レンはぎくぎくっとさらに肩を揺らした。
「はは、まあ、細かいことはいいじゃないか! それよりもせっかくパーティを結成したんだ。早速クエストにとりかかるとしよう」
レンはすかした顔を引き攣らせながら、クエストの一覧が書かれた紙の前にそそくさと移動した。
「俺らはまだショーナ文字が読めないし、初陣でどんなクエストがいいかもわからない。リーナとレンで決めてくれよ」
俺がそう言うと、リーナとレンは頷いて、一覧にくまなく目を通していった。
「できるだけ旨そうなモンスターが出る場所にしてやー」
おかんのその言葉に、レンがぎょっとしてこちらを振り向く。
「大賢者はモンスターを食すのか!?」
「ああ。森の中は食材の宝庫なのだと私もオカンさんに教えられたのだ。おかげで日数を要するクエストでも、携帯する食糧は最低限ですむ」
リーナの言葉に感心したように頷いたレンは、一覧に視線を戻すとひとつの項目を指さした。
「ではこのクエストはどうだ? 難易度は星二つ。ドゥブルフツカの谷に最近大量繁殖している吸血コウモリの群れを駆除するというものだ」
「うえ……吸血コウモリの駆除かよ」
レンの選んだクエストに血の気がさあっと引いていく。
群れで襲われたりしたら、生きて帰れんのかな。これで難易度が星二つって、星三つ以上のクエストはどれだけ危険なんだよ。
リーナがクエストの詳細を読みつつ、うむ、と頷いた。
「推奨構成員は勇者、魔道士、賢者となっているが、私がユウトをフォローできるだろう。初陣にはちょうどいいかもしれないな」
不安はあるが、リーナが大丈夫だと判断するなら大丈夫なのだろう。
しかし、この選択に異論を唱えたのはおかんだった。
「吸血コウモリはあんまり食指が動かんなあ。東南アジアのジャングルで仲良うなった原住民に、コウモリの丸焼きを振る舞われたことがあったんやけど、食べれるとこ少なかったしなあ。それに、吸血しとったら血の臭みが増し増しになっていそうや」
おかんはコウモリを食べたことあるのか。
ジャングルの原住民のフレンズがいることといい、おかんのサバイバル能力を知っている身としては今さら驚かないが。
そんなオカンの反応に、レンが立てた人差し指をチッチと左右に振った。
そんなキザったらしいリアクション、実際にする奴を初めて見たぞ。
「オカンさん、なぜ吸血コウモリがドゥブルフツカの谷に大量繁殖したかわかりますか? そこに彼らの食餌となるモンスターや動物が数多く棲息しているからです。加えて、この谷を囲む森は、甘くて美味しい果物が豊富に実ることで有名だ。果実を採取しに森に入った近隣住民が吸血コウモリに襲われる事件が多発してるために、討伐依頼があったと書いてあります」
「ほな、その谷の周辺には食糧になりそうなもんがぎょうさんあるゆうことやな! パーテーにぴったりや!」
モンスターもおかんの手にかかれば絶品アウトドア料理に変身するし、フルーツも豊富にあるなんて、食の面ではなかなか期待できそうなクエストだ。
……まあ、俺らが吸血コウモリの餌食にならなければの話だが。
かくして、俺たちの挑戦する初めてのクエストは、吸血コウモリの駆除ということになった。
リーナが申請書を記入して窓口に提出し、待合室に戻ってきた。
「事務員の話では、今朝同じクエストを申請した別のパーティが他に二組いるらしい。彼らに先を越されないよう、今日の午後にでも出発した方が良さそうだ」
「了解。それじゃ、各自旅支度をして、“蜜蜂の時間” に村の入口に集合だ。旅程は三日ほど見込んでおこう」
ギルドの下でレンと別れ、俺たちはエベリ婆さんの宿に戻ることにした。
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