03 ちょっと不本意なパーティ結成
いけすかない声の主を振り返ると、やはりそれはあのいけすかないイケメン、レンだった。
リーナが露骨に嫌そうな顔をするが、恐らく俺もまったく同じ表情をしているだろう。
「お前の手助けなど必要ない。一流の魔道士を気取るなら、もっと強いパーティに加わればいいじゃないか」
リーナが嫌味を言うが、レンは金髪を掻き上げて爽やかに微笑んだ。
「もちろん、一流魔道士の僕は上級者パーティからも引く手あまたさ。このビジュアルだから、女性冒険者からの誘いも多いしね。ただ、僕はリーナの幼なじみのよしみで、僕にとっては何のメリットもないようなパーティに加わってあげると言っているんだよ」
うっわー、こいつマジでムカつく!
顔だけはやたらといいだけに、初対面なのに殺意すら覚えるぜ!
リーナの口から罵声を浴びせるのもこいつにはもったいねえ。
口を開きかけたリーナを庇うように、俺はすっと前に出て、レンを睨みつけた。
「余計なお世話だと言ってるだろう。ヘタレ魔道士だかなんだか知らねえが、リーナが迷惑してるのがわかんねえのかよ」
「なんだと!? 誰がヘタレ魔道士だ!」
「まあまあ、二人とも落ち着きやー」
互いに噛みつきそうな勢いで顔を突き合わせる俺たちの間に、サーベルタイガーみたいな牙をもつ熊の頭がずいっと割り込んできた。
「ひいぃっ!?」
毛皮マントのフードをかぶったおかんに俺も一瞬たじろくが、レンは甲高い叫び声を上げて尻もちをついた。
やっぱりこいつはヘタレで間違いない。
「この子が助けてくれるゆうんなら、助けてもろたらええやないの」
「何言ってんだよ、おかん! こんな高慢ちきで嫌味な奴とパーティなんて組めるかよ!」
「おかあちゃん面食いやし、レンちゃんが仲間に入るのは大歓迎やで。パーテーはイケメンがいた方が盛り上がるしな」
「父ちゃんと結婚したくせによく言うよ! それにリーナだって嫌がってるだろ!?」
「でも、レンちゃんの方はリーナちゃんのこと悪う思ってないみたいやで」
おかんの言葉で、血が上っていた俺の頭が冷静さを取り戻す。
そうだ。
村の連中はリーナのことを避けてるけど、こいつは違う。
幼なじみだって言ってるし、俺たちに協力するというのは、本気でリーナのことを気遣っているのかもしれな───
「それに、魔道士て何や便利そうやん。利用できるうちはさんざんこき
「……っておかん! そういう心の声はそいつのいないところでダダ漏らせよ!」
まあ、こんな奴にそんな気を遣う必要もないかもしれないが。
現に、おかんが毒を吐いたにもかかわらず、レンの方は「そうだぞ! 魔道士がいないパーティなんて、ポナレットの入っていないレシューみたいなものだ」と胸を張っている。
その
リーナは眉をしかめたままだったが、パーティにおける魔道士の重要性をよく知っているのだろう。
面白くなさそうに視線を床に留めたまま、「オカンさんとユウトが必要だと言うのなら……」と小さな声で呟いた。
俺としては、こいつと仲間として上手くやっていける自信は全くないが、一流魔道士と自称する奴を利用するということであれば、試しにパーティメンバーに加えてみるのもありかもしれない。
何せ、俺とおかんは超ビギナーの冒険者だからな。
リーナ一人では、俺たちのフォローも何かと大変だろうし。
「……まあ、おかんの言う通り、こいつの力を利用できるのなら、俺たちのパーティに入れてやってもいいが……」
「うちは元より歓迎や。パーテーでイケメンをはべらしてブイブイ言わせたるでー!」
俺が渋々承諾する傍らで、おかんは拳を高く突き出し、鼻息荒く決意表明する。
かくして、俺とおかん、リーナ、そしてレンの四人はパーティメンバーとして協力してクエストをこなすことになった。
ギルドの待合室の椅子に座り、改めて自己紹介をする。
「俺はユウト。ニホンから来たばかりだ。これから学校に通って勇者を目指すことになっている。こっちは俺のおかんだ」
「俺はレン。ショーナ地方で一番大きな魔道具問屋の息子だ。つまりはいいとこのお坊ちゃんってことだ。リーナとは幼なじみであり、友達以上恋人未満の間柄でもある」
「友達未満、知り合い以下の間違いだろう」
ツッコミを入れるのも面倒だと言いたげなリーナが吐き捨てるように訂正した。
これだけ嫌われているのに全然へこたれずに爽やかイケメンスマイルを振りまくレンは、ある意味すごいメンタルの持ち主なのかもしれない。バカだけど。
「ユウトが勇者、リーナが戦士、僕が一流魔道士、そしてオカンさんが賢者か。ユウトが足でまといではあるが、バランス的にはなかなかいいパーティになるんじゃないか」
「足でまといって何だよ! それに、おかんがいつ賢者になったんだよ!」
「オカンさんはハルマイト族に認められた大賢者なのだろう? その証拠に、大賢者として認められた者のみが許されるサーベルベアーのマントを羽織っているじゃないか」
レンがそう言いながら、おかんのかぶった熊の頭部付きの毛皮を指さす。
え? これって単なる趣味ってだけで着ちゃいけないものだったのか?
リーナもそれは知らなかったようで、「何だって!?」と目をみはっている。
驚愕する俺とリーナだったが、大賢者のマントを羽織ったおかんは、そんな俺たちを見回し、にやりと口の端を上げた。
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