02 おかんはパリピにでもなるつもりだろうか

「おめでとう。これでユウトもオカンさんも冒険者としてクエストに参加できるようになった」


 リーナに祝福の言葉を向けられ、俺はとりあえず「ありがとう」とだけ返した。


「おめでとう」って言われても、いまいちピンと来ないよな。

 もしかしたら、異世界では冒険者になって初めて一人前になったという認識なのかもしれない。


「こない簡単に冒険者になれるもんなんやなー」


 あまりの実感のなさに、小指で鼻クソでもほじり出しそうなおかん。

 だが、リーナはそんなおかんの反応に頷くと、壁に貼られた大きな紙を指さした。


「確かに、冒険者になるのは簡単だ。だが、そこからステップアップしていくのはなかなか大変だぞ。あそこに日々掲示されるクエストを地道にこなし、経験を積んで実力を磨く必要があるからな」


 リーナに導かれ、俺たちもクエストのリストの前に立つ。

 ショーナ文字だから何が書かれているのかはさっぱりわからない。

 ただ、各行の特定の欄に、星マークが一つから五つまで書き込まれている。

 それがクエストの難易度を示しているんだろうということは見当がついた。


「リーナ、この欄に書かれている絵はどういう意味だ? 剣や弓矢、杖、本のように見えるが……」


「まさにその通りだ。これは各クエストの遂行に推奨されるパーティの構成員のジョブを示している。剣は勇者、弓矢は戦士、杖は魔道士、本は賢者、司祭帽は聖職者を表すのだ」


「へえ……。じゃあ、たとえばこのクエストは、星が三つだから難易度は中程度、クエスト遂行に推奨されるパーティの構成員は勇者と魔道士、賢者ということか?」


「ユウトは飲み込みが早いな。まさにその通りだ。あとはここにクエストの内容、目的地、提出すべき成果物、そして報酬が書かれている。これを判断材料にして自分の遂行したいクエストを選び、窓口に申請するのが手順だ。一つのクエストに複数のパーティが申請できるが、報酬を得られるのは一番早くギルドに成果物を提出したパーティだけだ。クエストを複数同時に申請したりもできるが、寄り道をする分ほかのパーティに先を越される可能性があることも加味しなければならない」


「ほえー。要は目的地でクエストっちゅうモンスターを狩って、その肉でパーテーするんは早い者勝ちゆうことやな」


 リーナの説明を全く理解していないおかんがほんとに小指で鼻をほじり出した!

 クエストやパーティを何だと思ってんだよ!


 ……まあ、RPGにもラノベにも縁のないおかんだからな。

 クエストの何たるかを理解できていないのは当然か。

 そんなんで冒険者になって大丈夫なんだろうか……って思いかけたが、いつものようにきっと何とかなるんだろう。

 何たってうちのおかんだし。


「ちなみに、リーナはいつもどんなクエストをこなしてるんだ?」


 俺がそう尋ねると、リーナはクエストのリストに目を移し、指をさした。


「私はいつも一人でクエストをこなしているから……星が三つ以下で、戦士一人だけでも遂行できそうなものを探している。さらに言うと、魔族に遭遇する可能性の極めて低いものを選ぶようにしている」


 そうか……。村の連中はリーナのダークエルフ化を警戒してるから、彼女とパーティを組みたがらないのか。

 こないだみたいな人里離れた森の中まで入って独りでクエストをこなすなんて、女の子なのに怖くないんだろうか。


「リーナちゃん、牛ゴリラを秒で仕留めるくらいに強いのに、星四つとか星五つには挑戦せんの?」


 鼻くそをほじり終えたおかんは少し理解が進んだのか、リーナにそう尋ねる。

 リーナはおかんのその問いに、肩をすくめてみせた。


「星四つや星五つのクエストは、パーティを組まねば遂行できないものがほとんどだ。いくら腕に自信があったとしても、一人でこなせるものには限界がある」


「ほな、リーナちゃんはうちらとパーテーすればええんちゃう? 三人でやった方がパーテーも賑やかで楽しいやろ?」


「おかん、異世界でパリピにでもなるつもりかよ!?」


 うん、おかんやっぱり全っっ然理解できてなかったわ。

 ほんと何にも考えずに鼻クソほじってたんだな、あれ。


 しかし、そんなおかんの言葉に、リーナは満面の笑みを浮かべた。


「そうだな……! ユウトとオカンさんと組めば、きっと楽しいし私にも良い経験になる。まずは星一つのクエストから始めて、ユウトやオカンさんの経験値を積んでいこう」


 リーナの笑顔を見ていたら、俺の心もなんだか奮い立ってきた。


「よし、三人でガンガン経験積んで、一年でいけるとこまで行ってみるか!」


「おお、頼もしいな、勇者ユウト。よろしく頼むぞ!」


 リーナが俺の肩をぽん! と叩いたその時。


 微笑みあったその背後から、


「なかなか楽しそうなパーティじゃないか。一流魔道士の僕が、君たちを手助けしてやろうか?」


 上から目線のそんな一言が聞こえてきた。


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