第二章 異世界ギルド with おかん

01 いけすかないイケメン

 美味い食事とふかふかのベッドのおかげで、歩き通しの疲れも取れた翌日。


 俺とおかんはリーナに連れられ、ギルドに冒険者登録をしに行くことになった。


 おかんは質屋で飴ちゃんを売りたいようだったが、それはリーナに止めらた。

 リーナの言うとおり、救世主の証とも言える飴ちゃんを売り払うのは、悪用される恐れもあって確かにまずいだろう。


 幸い俺たちの生活費はパウバルマリ村の歳費から捻出してもらえることになったから、飴ちゃんを換金する必要はなくなったしな。



 ☆



 パウバルマリ村のギルドは、メインストリートに面した金物屋の二階にあった。


 薄暗い階段を上り、立派な装飾のついた厚いドアをリーナが開ける。


「おはようございます」


 リーナの挨拶に、その場にいた人達が一斉にこちらを向くが、リーナを知る人間は皆一様に嫌な顔をして眼を逸らした。


 やはりここでもリーナは嫌われ者なのか……。


 そんな矢先、「やあ、リーナじゃないか」とこちらに向けられた声が耳に届いた。


 待合スペースに置かれた長椅子から立ち上がったのは、長身痩躯の青年だ。

 金髪で碧眼、纏うマントもひと目で上質だとわかる、いやらしいほどにカッコイイ奴。


 そいつはこちらに歩み寄ってきたかと思うと、リーナの前で跪いた。

 右手を取られ、リーナが慌てて振りほどこうとするより早く、奴が手の甲にキスをする。


「レン、何をする!」


「リーナ、久しぶりに君に会えて嬉しいよ。相変わらずの美しさだ」


 憤慨するリーナを軽くいなすと、立ち上がったその男は俺とおかんに視線を移した。


「この男……と隣の半モンスターは一体? 君のクエストの成果がかい?」


 人を指差して “これ” 呼ばわりするとは、なんていけすかない野郎だ。


 確かに、今日のおかんは俺の制止もきかず、あのハルマイト族のケダモノファッションに身を包んでいる。

 ゆえに半モンスターに間違われても仕方ないのだが。


「二人とも私の友人だ。レンには関係ない」


 リーナがこれまで聞いたことのないような険のある声色でばっさりと斬り捨てる。


「へえ……。ですか。リーナがそんな奴らを連れてくるなんて珍しいな」


 爽やかなイケメンスマイルを浮かべながらも、レンが値踏みするように俺たちをめ回す。

 いちいち癇に障る奴だな。リーナが嫌うのも当然だ。


 これ以上こいつの相手をしたくないのか、リーナは何も答えずにつかつかとロングブーツのヒールを鳴らして奥へと進み、窓口の女性に声をかけた。


「クエストの成果報告と新規冒険者二名の登録手続きをしたいのだが」


「では、所定の用紙に必要事項をご記入くだささい」


 いかにも公的機関の事務員といった愛想のない女性が、数枚の紙をリーナに差し出す。


「そこに腰掛けて待っててくれ」と俺らに声をかけると、リーナは用紙記入用の作業台に移り、ペンを走らせ始めた。


 リーナに促されたので、俺とおかんも空いている長椅子に腰掛けて、周りを見回してみる。


 待合で座っているのはレンを含めて数人。

 事務手続きの順番を待っているようだ。

 受付窓口でギルド職員室とやり取りしているのが二人。

 その他、十人くらいの人間が入り口付近に張り出された大きな紙を見ながら何やら話している。


 屈強な体躯の男が多いが、中にはレンのようにマントを被った男や、女性冒険者の姿も混じっている。


「なあなあ、ユウ君」


 周囲を観察している俺に、隣に座るおかんが声を掛けてきた。


「ところで、ギルドて何? うちらはここで何するん?」


「ええっ!? おかん、ギルドが何かを知らないで着いてきたのか!?」


「何や面白そうやと思って着いてきたんやけどな。おかあちゃんみたいなアラフォー女子には場違いな気もしてきてん」


 アラフォーと自称するだけでは飽き足らず、 “女子” ってワードまでくっつけてきた!

 いいか、おかん。“アラフォー女子” って自称していいのは、深キョンみたいな美魔女だけだからな!


 だが、確かに冒険者という職業(?)柄、ここにいる連中は皆結構若そうだ。


「オカンさん、心配はいらない。冒険者の中にはもちろん経験豊富な熟年もいる」


 書類を提出したリーナが、おかんの言葉に受け答えた。


「ただ、経験を積んだ熟年の冒険者は、より多くの報酬を求めて別の地域のギルドに移ったり、一歩退いて後進の育成にあたる人が多いのだ。この辺境の村のギルドに登録している冒険者は、圧倒的に若者が多い。……もっとも、もしも魔王城が移転してきたら、ここも魔物の脅威に晒される村となり、クエストの内容も集まる冒険者の質も様変わりするだろうが」


 もしも魔王城が移転してきたら────


 それはつまり、俺たちがこの村の救世主になり得なかったとしたら────


「リーナさん、ユウトさん、オカンさん、二番窓口にお越しください」


 そんな仮の未来を想像する前に、窓口の職員が俺たちの名前を呼んだ。


 無事手続きが終了したことが告げられ、俺とおかんは晴れてこの世界の冒険者となったのだった。


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