15 日本人はモンスターを常食しません
「ユーベ!」という言葉でもう一度乾杯し直した後、掲げたヴィーネを口に含む。
ヴィーネは、ワインと葡萄ジュースの中間くらいの味わいの微炭酸の果実酒だ。
葡萄よりもむしろ桃に近い甘さかな。アルコール度数も高くなさそうだし、これは女性に受ける味だろう。
食前酒か、デザート代わりに飲んでもいい感じだ。
ヴィーネを一気に飲み干してから、食事の方に手をつける。
素材の色や形、食感は食べ慣れない感じが若干あるものの、味つけにはほとんど違和感がなく、安心して口に運べる。
エベリ婆さん、伊達に数千年(推定)生きてるわけじゃないな。
サラダも根菜のスープも魚のソテーもすごく美味い。
唯一、パンが餅のようにみょーんと伸びたのには、ちょっと驚いたけれど。
「エベリはん、このスープに入ってる根菜はなんて言いますのん?」
「ああ、スープかの。それはポワソームという魚の出汁にソルタムとハーブを入れて煮込むんじゃよ」
「ほな、味つけはどんな調味料を使いますのん?」
「入っとる根菜は、カロンとポンテ、サルミシーじゃよ」
料理好きなおかんは、エベリ婆さんに食材や調理法をあれこれと聞きたいようで、噛み合わない会話の中でも卒なく情報を聞き出している。
久しぶりの家庭料理に舌鼓を打っていると、向かいに座るリーナが俺に話しかけてきた。
「ユウト、パウバルマリ村の食事は口に合うか?」
「ああ。食べ慣れてる味に似ていて、すごく美味しいよ」
「そうか。モンスターを常食にしてるニホン人には口に合わないのではないかと、少し心配だったのだ」
「いやそれめっちゃ誤解だから! 日本にはそもそもモンスターなんていないし!」
森の中を歩いている間、サバイバル料理に長けたおかんが食べられそうなモンスターを見つけてはリーナに狩ってもらい、それを調理していたからな。
誤解されるのは仕方ないかもしれないが、モンスターを調理できる日本人なんて、全国津々浦々探してもおかんぐらいなもんだろう。
一通りの味を楽しんだところで、今度はセルシーバのグラスに口をつける。
ビアムという穀物から作られたという酒だが、白濁していてどぶろくみたいな感じかと思いきや、意外とすっきりした辛口の酒だ。
アルコール度数もそこそこありそうだから、飲み過ぎに気をつけよう。
☆
食後の焼き菓子とエベリ婆さんが入れてくれたシビ茶をいただきながら、リーナが今後の予定について切り出した。
「今日村長から、ユウトの通う勇者養成学校の入学手続き書類を預かってきた。ユウトもオカンさんも、ショーナ文字は読み書きできないようだから、私が手続きを代行する。入学は随時だから、手続きさえ済めばすぐに通えるようになるだろう」
「わかった。よろしく頼む。ただ、文字の読み書きができないのに学校なんか通えるだろうか。まずはリーナにそこから教わった方がいいんじゃないか?」
異世界に飛ばされた俺たちは、何故かこの世界の人々と不自由なく言葉を交わすことができている。
俺は日本語を使っているつもりだし、リーナ達の話す言葉も日本語に聞こえるのだが、もしかしたらそれは俺の脳が勝手に変換しているだけなのかもしれない。
ただ、文字に関しては視覚的な変換をしてくれないようで、ショーナ文字と呼ばれるものを見てもまったく読むことができない。
「勇者養成学校に入れば、読み書きから教えてくれるから心配ない。なぜなら、勇者たる資質を備えた者ならば、その出自を問わないからだ。読み書きのできない貧しい山村の子や、遠い異国から来た者のために、学校ではショーナ文字の読み書きの特別補講がある。一年後の魔王城移転に間に合わせるのであれば、出来るだけ早く入学して、文字の読み書きは並行して教わるのがいいと思うのだ。もちろん、私も家で学習のサポートするから、心配はいらない」
「そうか。わかった」
「学校では魔法学や魔生物学、心理学や戦術など、勇者に必要な幅広い知識を教わるが、ほとんどが座学だ。そのため、実地訓練としてギルドに登録し、クエストをこなして経験値を上げる必要がある」
リーナの説明で、彼女が森で俺たちと遭遇した理由を思い出した。
リーナはクエストを遂行し、村へ戻る途中で
「ちょうど私も今回の旅で遂行したクエストの成果報告にギルドに赴く予定があるのだ。明日ユウトをギルドに連れて行くから、そこで登録を済ませよう」
「了解」
「へえー。ギルドってなんやおもろそうやな! アラフォーのうちでも登録できるんかな?」
俺とリーナの打ち合わせに、すかさずおかんが入り込んできた。
「アラフォー? その言葉はよくわからんが、ギルドの冒険者には誰でも登録可能だ」
「ほな決まりや。リーナちゃん、明日はうちもギルドに連れてってな!」
この期に及んでまだ
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