第4章 紫さん、受け入れる
第24話 さいかい
太陽が西へと沈んでいくオレンジ色の世界の中。
今日は良い1日だったなぁと、私にしては多分いつもより上機嫌に最寄り駅からの帰路へと着いた。
「えへっ、えへへっ、へっ」
口から思わずこぼれる笑い声とともに、肩にかけるトートバッグの外側をポンポンと叩く。
素晴らしい
今日は示し合わせたようにお金を持っていそうな、経営マンっぽい人間が私の前に現れる1日だったのだ。
しかも総じてみんなスキが大きい。クラッチバッグを網棚の上に置くなんて、何を考えているのやら。私に『盗ってください』と言っているものではないか。
万引きなどで鍛えられたのか、最近は人の視線に怖気づかなくなってきた。
うまい具合に人目のスキをついて、しかし堂々と人の荷物に手を伸ばせることが多くなってきた。
良いこと……ではないけれど、それでも私が生きていくためにはしょうがないことなんだから、それが上手くなってきたということは喜ばしいことのはずだ。
結果として過去例のないほどの収入を得た私は浮かれていた。
次の休みは思い切ってあかりちゃんを誘って自室で焼肉パーティーでも開こうかな、なんてそんなことを考えていた時。
「――ぅわッ!!」
急に、腰の辺りにすさまじい衝撃が襲い、私は路上に倒れ込んでしまう。
まさか、ひったくり!? そう思って振り返ると、
「いててて……!!」と、私に折り重なるようにして倒れる、見覚えのある少女の姿があった。
「あ、あ、あなた……!!」
「ん? ――あーーーっ!! あんた、あのときのっ!!」
少女の方も私を指さして声を上げた。
そう。この少女は見知った仲――と言っていいのかはわからないが、ともに万引きをした間柄。私が初めて万引きに挑戦した時に、私のトートバッグへと人目も気にせず無理やり菓子パンを突っ込んで『堂々としていれば意外とバレない』と教えてくれた少女だった。
「え、え、えっと、なに、な、なんの――」
私がどもりながらも私にぶつかって来た理由を問おうとした声は、しかし「どこ行ったあのガキッ!!」という怒声に掻き消された。
私は突然の大音量に肩を跳ね上げたのだが、しかし少女は「やべっ」とさほどヤバくもなさそうに立ち上がると私の手を取った。
「……へ?」
手を引っ張られたので、引っ張られるままに私も立ち上がる。
「よしっ! にげるよ!」
「え、な、なっ!? な、な、なん――」
「――せつめいはあと!! とにかく今はにげるのっ!!」
そう言って走り出す少女に、手を握られた私もつられて駆け出した。
いったい何で私まで逃げなくちゃいけないのか、さっぱりわからないまま私は手を引かれるのだった。
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