第10話 国王との謁見2
「何故…効かぬ…?」
「はあ…神に等しい力を持っている私と最強の大魔王たるリムル様にこんな低レベルの魔道具が効くわけ無いでしょう。ねえ、リムル様?」
「え?ああ、うんそうだね」
実際はリムルはそんな魔道具が使われていることなんて気付いておらずシエルが勝手に無効化していただけだったのだが…。
「魔道具の効果は…対象への敬意を高めること、ですかね?」
「ッ!見ただけで効果が分かるのか!?」
「え?まあ…なんとなくですが」
辛気臭そうな表情を初めて崩してメチャクチャ驚くマグナさん。
「じー…」
『マスター、どうされましたか?」
唐突に目を細めてマグナが取り出した魔道具を凝視するリムル。
一応沈黙を貫いていたシエルが不思議そうに問う。
――いや、アレから出てる魔力の波長とかからわかんないかな〜って思って見てたんだけど…
『あの形式の魔道具は、魔力の放出が最低限に抑えられ、魔道具の効果が相手にバレないような構造をしているようです。私でもアレがどんな効果を持っているかは分かりません。恐らく彼女は、発動時の微量の魔力の放出とそれに対する皆さんの反応で効果を予想したものと思われます』
――つまり、ハッタリだと?
『そういうことになります』
――でも、何故この場面でそんなハッタリを?
『それは、これからの彼女の交渉を見ていれば分かるでしょう』
これからの交渉、か…。心なしか、シエルの声が上機嫌のようにも聞こえる。
「さて、アレス王。マグナさんの行動に関しての弁解はありますか?」
「待て!陛下は関係ない!私の独断だ!」
「ええ、そうでしょうね。私には陛下がここまで愚か者だとは思えません」
「なら…!」
「もういいマグナ。お前はもう少ししっかり考えてから話せ」
「…くっ、失礼しました…」
「さて、お主が言いたいのは、儂がマグナに指示を出していた可能性も否めない、ということだろう?」
「さすがは陛下。では、これから私がしたいことも分かりますね?」
「…。マグナの独断であるにせよ、その責任は上司たる私にある。つまり、ふっかけるつもりだろう?」
「そのとおりでございます!ではシノン様、先ほどの要求を突きつけてやってください」
ユエが、恭しい動作で後ろに下がりながらシノンに交渉役を譲る。
「…。わかりました」
――なるほど。相手の落ち度を明らかにして有利に交渉を進めるため、か。
『更にシノン様が、あのような複雑な魔道具の解析ができるユエさんよりも上の立場、上の実力であると思わせることによって、更に有利に進めようとしているようですね』
――どんな前世だったのかがすっごく気になるんだけど。
「改めましてアレス王。まずは先ほどの部下の非礼をお詫びさせてください。私の名はシノン。我々――――『Laughing Coffin』のリーダーを務めております」
まるで大手取引先の社長と商談をするときのような美しい言葉で自己紹介をするシノン。
どうやら、ユエの思惑を汲み取ったようで、全く臆した様子はない。
「リーダー。つまり、先ほどの―――ユエとやらよりも高い実力を備えていると?」
「ええ、まあ。ユエさんくらいなら片手でひねり潰せますからね」
――いや、シノン様もすげえな!なんで二人して国王相手にあんなにハッタリかませんだよ!
「……。なるほど。ではそちらの要求を聞こうじゃないか」
「はい。かしこまりました。こちらの貴方がたに対する要求としましては、『この国の国民と同じように扱っていただくこと』。もちろん税金を納めろと言うなら納めますし、労働の義務があるなら働きますよ。そして、『基本的に敵対しないこと』。まあ要するに、貴方がたの息のかかった連中に襲われでもしたら乗り込んできます、ってことです。あ、冒険者だとか傭兵だとかを雇っても自白させますからね」
そこで言葉を切るシノン様。
「ふむ。その二点なら問題ない。マグナ、わかったな」
「え!?あ、もちろんでございます」
「「「「………」」」」
広間の全員のジト目がマグナさんにぶっ刺さる。
「…はあ…。あとで儂の方からしっかりと釘を刺しておく」
「それは重畳。では、その二点よろしくお願いしますね」
「…は?以上か?」
「ええ、そうですよ」
「もっと、『国王譲れ』とか『城に住ませろ』とか『金よこせ』とか『宝物差し出せ』とか言うのかと言うのかと思っておったのだが…」
「一つ考えを訂正させていただきます。我々は基本的にはこの国で平和に楽しく暮らしたいだけで、征服とかは一切考えてないんですよ?友好な関係を望んでる相手にふっかけるほど馬鹿じゃありませんよ」
「…ユエとやらの交渉の仕方は明らかに国を乗っ取るときのソレだったのだが?」
「………。しっかりと言い聞かせておきます」
二人のジト目がユエに突き刺さる。本人は気にしていないようだが。
「さて、かなり時間も経ってしまったことだしここらでお開きにしよう。こちらからお主らにしてほしいこともいくつかあるのだがそれはまたの機会にでも。…そういえば、この国で何がしたいのか聞いていなかったな」
「何がしたいか…ですか。我々は基本的に楽しく過ごせればそれでいいんですが、そのためには…」
「テンプレの巡回、ですね」
ユエが言葉を引き継ぐ。
「てんぷれ…がなんのことかは分からんが、迷惑をかけないならそれでいい。一応法律は守るようにな」
「もちろんですよ。この国の国民として扱ってくれるとおっしゃってるんですから当然、守ります。では、我々はこれで」
シノンがそう言うと、一行は踵を返して部屋を出ていく。
そんなシノンの背中に向かって、アレスは問いかけた。
「そういえば…『らふぃんこふぃん』とはどういう意味なのだ?聞いたこともないが…」
するとシノンは軽く微笑んで、
「我々の故郷の言葉ですからね。聞いたことなくて当然かと」
そして振り返ってフワリと笑い、言う。
「その意味は―――『笑う棺桶』」
「――。なんと不吉な。こんなことを訊くのもなんだが、何故そのような名前を?」
すると、シノンはキョトンとした表情をして――
「かっこいいからですよ」
と、だけ答えた。
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