第8話 入国
「そこのお前ら!止まれ!」
無警戒に近づいてきた一向に、後ろに数名の騎士を従えた偉そうな騎士が声をかける。
「わっ!あれ、騎士ってやつだよね!かっこいい!」
「ホントですね。厨二心をくすぐられるなあ…。あとで着せてもられるように交渉しようかな…」
「ユエさん、リムルさん、ちょっと静かにしてもらえませんか?なんで態々相手を怒らせるようなことを…」
話し合いの結果交渉役を担ったシノンがちょっと怒った風に二人を窘める。
「おい、お前らの目的はなんだ!」
「目的…?街に入る目的ですか?」
「そうだ」
「そりゃ、野宿するわけにもいきませんし…。ほら、血塗れの子もいるんでシャワー浴びたいですしね」
シノンがユエを指さしながら言う。今のユエは、白い服の殆どの部分が真っ赤に染まり、自慢の美しい金髪も色んなところに血や肉片がくっついたりしている。控えめに言って恐怖の対象でしか無い。
「ていうか」
と一度言葉を切ってシノンが続ける。
「あなたたちの目的ってそんな下らないことを訊くことじゃないですよね?」
シノンが軽く殺気を放ちながら言う。
「ッ!総員――」
「あー、そういうのいいです。こっちに害意はないしそっちの被害が増えるだけだからやめてくれませんか?ほら、壁の後ろでやる気満々の人たちも」
「…気づいてたのか?」
「そりゃ、あんだけ殺気ビンビンだったら誰でも気付きますよ…」
ユエとリムルの索敵魔法で知ったとは言えない…と思いながら飄々とした態度を貫くシノン。
「気付いててこの余裕…この程度物の数ではないということか?」
「さあ…?さすがに私だけならわかりませんが、みんなでかかれば秒…っていうかこの金髪の女の子か水色の髪の…男の子…かな?が本気出せば1秒も経たずに壊滅ですからねー」
「俄に信じられる話ではないが…分かった。我々は、貴殿らが魔物を殲滅するところを見て、この国の脅威となる力を持っていると判断したためこのような警戒態勢を取らせてもらっている。もう一度訊くが、この国に危害を加えるつもりはないな?」
「ええ、もちろんですよ」
「あっでもなんかされたら流石に反撃しますけどね」
「ユエさんは一回黙ってて!」
「ぎゃっ!」
ぽつりと零したユエの言葉に、絶対に過剰防衛するだろ…といった風に騎士さんが表情を変えたのでシノンがすかさずユエの頭にゲンコツを落とす。
「えーと…あなたがこの集団のリーダーということでよろしいですか?」
少し困惑したような様子を見せながらシノンに向かって問う。
「ええ…一応は。シノンといいます。よろしくお願いします」
「はあ…あなたも中々苦労してらっしゃるようですね…まあ良いでしょう。貴方がたに敵対の意思がなければ謁見に来てもらうようにと国王陛下に仰せつかっておりますので、王城までついてきていただけますか?」
「ええ、もちろん。ですが…こんな血塗れの服だと失礼に当たるのではありませんか?」
「普段ならそうですが、早急に会いたいので一切の無礼は黙認するとのことです」
随分と良い王様のようだ、と各々納得してガウェインを名乗った騎士について門をくぐって中に入る。
そこには、ガッチガチの重装備でピリピリした雰囲気を漂わせている百名ほどの騎士がこちらに疑念と敵意を半分ずつにしたような目を向けていた。
ちょっと失礼、と前置きしてガウェインが騎士達の方を見る。
「お前ら!この方々は敵対の意思はないそうだ!間違っても喧嘩をふっかけようなんて思うんじゃねえぞ!まあ、死にたいなら別だがな!よし、時間を取らせて悪かった。もとの持ち場に戻って仕事に励んでくれ!」
「「「「「はい!!」」」」」
随分と元気よく…というか嬉しそうな返事だ。
「ねえ、ガウェインさんって偉い人なの?あれだけたくさんの騎士を従えるって…騎士団長的な?」
「え、ええ。この国の騎士団長をやっていますがそれが何か?」
興味なさげに訊いたユエに不思議そうに答えるガウェイン。
「ああ、イメージ的にね、騎士団長って脳筋イメージあるからその敬語とかも結構無理してんじゃないかと思って。さっきあの人たちに指示出したときのほうが素みたいな感じ出てたし敬語ところどころおかしいギャッ!!」
ペラペラとメチャクチャ失礼なことを言うユエに再びシノンがゲンコツを落とす。
「ホントにもう…!すいませんうちの子が失礼なことばっかり言って…」
「あんたは親か」
ゲンコツの威力とその後の言葉からしてシノンが本気で怒っているわけではないと判断し、ユエが軽くツッコミを入れる。
どうやらユエとシノンは行動や言葉の端々からガウェインが得体の知れない集団に接触しているこの状況に緊張しているのを見抜いてその緊張をほぐそうと軽口を言ったようだ。
「まあ冗談はこれくらいにして、別に敬語なんてあなたも私達も疲れるだけなんでやめてくださいね?」
それに対してガウェインもフフッと軽く笑って、
「本当に良い人たちみたいだな。それに、その力に溺れているわけでもない。本当に、何故あんた達が今まで有名にならなかったのかが不思議なくらいだよ。だが、疲れるとかいいながら、なんであんたは敬語なんだ?どこかで文官でもやっていたのか?」
「これは…癖みたいなもんですね…。多分ですけど、ザザさんは多分学生だからいいとして、他の皆さんは元社会人なので敬語が染み付いてる…はず…」
メンバーを見渡したシノンの目線がある一人に向けたところでピタリと止まる。
「えーっと、ユエさん…敬語って喋れます?」
「何を失礼なッ!?いくら私でも敬語の一つや二つ喋れるに決まってるじゃないですか!っていうかシノン様と話す時はいつもしっかり敬語で話してますよね!?」
「私にじゃなくて、初対面の人とかに舐めてかかってるでしょう。あれでしょ?尊敬してない人には敬語で話さないみたいな」
「くっ…否定できない…!」
「そこは否定してほしかったな!!」
シノンのツッコミに、ガウェイン含めみんな笑っている。打ち解けられたようでなによりだ。
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