第7話 まあ、警戒するよね

さて、魔物の殲滅が終わった。戦闘内容の描写もあまり必要ないくらいに圧倒的に。しいて何かトラブルを挙げるとするならば、「ふっ…我が配下の魔物をこんなに圧倒する者共がいたとはな…。よかろう、我は魔王軍最高幹部の一人、『ゲ』ぎゃああああああ!!」って言いながら『神之怒メギド』に貫かれていたTHE・魔人みたいなやつがいたことくらいだろうか。


「なんか、ラノベとかでよくある『初めて生き物を殺す感覚に寒気がした』的なこともなかったですよね?」


死屍累々の中、全身が真っ赤に染まるほどの大量の返り血を浴びたユエが言う。


「いや…きつくないんですか?僕なんかはこう、血の匂いとか魔物が弾けるのを見るのとかまあまあキツくてちょっと戻しそうになってんですが…」


恐ろしいものを見るかのような目でつっこむザザにみんながうんうん、と肯定する。


「ユエさんはなんともないんですか?」

「え?ああうん、切り刻んだり焼いたり凍らせたり殴って頭部破裂させたりしたけど楽しいだけだったよ?」

「サイコパスじゃねえか!」

「いや、それ多分私だけじゃないよね!?ほら、みんなも楽しかったでしょ?」


急にサイコパス判定されて焦ったユエがみんなに同意を求める。


シノン:「いやー、私も楽しかったけどね…あんなに狂気に満ちた嗤い方してる人は流石にやべえって思うかな…」

リムル:「殺った数自体は多分同じくらいなんだろうけどねえ…随分楽しそうに殺しまわってるもんだから何回か魔物と間違えて『神之怒メギド』しそうになっちゃいましたよ…」

ヒースクリフ:「いや、見た目は可愛らしいユエなのに裏拳で魔物の頭消し飛ばしたり竜巻旋風脚みたいなことやってんだぜ?しかもハジメといちゃついてる時かってぐらいの満面の笑みでさ。恐怖でしかないわ」

ペテルギウス:「そもそも原作のユエもまあまあエグいことするけど比じゃないレベルで狂気に満ちた…いや、狂喜してましたもんね…。何があったらそんなにバイオレンスな性格になるのか…」


「みんなひどくない!?」


ずっと原作に忠実なキャラを保ってたペテルギウスの口調までもが変わるほどの衝撃だったらしい。


「ま、まあユエさんがヤバいのは前からですから今更言ってもしょうがないですよ。そんなことより今はこれをどうするかが問題かと…」


さり気に傷ついてるユエを尻目にシノンが指さしたのは周囲の死屍累々の魔物の残骸。


「正直グロいんで早くどうにかしたいんですが…」

「そうですか?でもこれなんか剥製で見たことあるような…」

「ユエさんは黙っててください」

「あっはい」


なんでもないかのように足元のグリフォンと思しき魔物の生首を持ち上げるユエをシノンが黙らせる。超血だらけなのによくもまあ女の子が素手でそんなもの持てるなあ…と何故か感心するシノン。


「やっぱり、仕様の問題なんじゃないですかね?」

「やっぱそうよねえ…」


実は、シノンやヒースクリフ、ザザが狩った魔物のすべては、あるものはドロップアイテムが、あるものは死体がそのまま(頭を吹っ飛ばされても何故かもとに戻った状態で)それぞれのアイテムボックスに入っていた。しかし、リムル、ペテルギウス、ユエが狩った魔物は死体がそのまま残っていた。

リムルは剣で真っ二つや『神之怒《メギド》』で瞬殺だからマシだが、ペテルギウスは基本的に『見えざる手』で圧殺だしユエが狩った魔物の死体なんかお察しで、原型をとどめている方が珍しいくらいだった。

ということで、戦場となった平原に残っていたのはほとんどが18禁のグロ死体。


つまり、SAO由来――インベントリを持つ者が倒した魔物は自動で収納されるが、そうでないものはそのまま残るらしい。

なんのための仕様だろうか。まあ、そんなことは気にしても仕方ない。


「そんなことよりですね、さっきの戦闘中に誰かに監視されてたみたいなんですよね」

「あ、それ私も思ってました」


リムルが思い出したように言うと、ユエがうんうんと同調する。


「監視?」

「ええ、シノン様。ただ、直接というよりは何か―――そう、魔道具?的なものを通して見られてたような感じがしたんですよ。…あっちの方かな?」


そう言ってリムルが指さしたのは、シエルが街があると言っていた方向。


「なるほど。魔物がいきなり湧いたから何事かと思ってこっちを見たらさっきの戦闘シーンも見ちゃったって感じかな?」

「まあ、そう考えるの妥当かな。で、問題は…」


「街に入れてもらえるかってことね」




「総員配置につけ!!絶対にやつらを通すな!命を懸けてこの門を守るんだ!」

「「「応ッッ!!」」」


完全武装し、物々しい雰囲気を漂わせる兵士たち。勿論、その原因は―――



「ま…魔物の大群が殲滅されただと…!?」


騎士団長の報告を受けた国王の言である。


「は、はい…。男女数名がものの数分で魔物共を殲滅してしまいました…。何やら不思議な武器で消し飛ばしたり最上級にあたる魔法を連発したりと…まさに一騎当千、鎧袖一触でありました」

「俄に信じられる話ではないが…。それで、その数名はどうしておる?」

「魔物殲滅後しばらく話し、こちらに向かってきているとのことです」

「ッ!早急に守りを固めろ!もし彼らが魔人であれば徹底抗戦、人間であれば穏便に話をして害意の有無を確認するせよ!」

「はっ!」


ガウェインがのびているロビンを引きずって執務室を出ていく。

残された宰相と国王は揃って頭を抱えた。


「魔王軍の復活に謎の集団…今日は厄日か?」




とまあ話はシノン達に戻って。一行はゆっくりと歩いて街の方に向かっていた。


「お!見えてきましたね〜!」

「おお!THE・ラノベって感じの街ですね!」


リムルがそう声を上げた通り、高くそびえる城壁に、遠くには城と思しき巨大な建物もある。

所謂城塞都市である。


そのまましばらく進むと、街の入り口らしき門が見えてきた。


「あれ、絶対僕たち狙いですよね?」

「ああ、多分そうでしょうね。だから?って感じですが」

「まあ、そうですよね」


そう。門の前には数名の騎士が超警戒して待っている。


「あれ?もっといっぱい待ち構えてるもんだと思ってたんですが…」

「待ち構えてますねぇ…」

「そうですねえ…」


ザザは有効な索敵系スキルを持っていないので分からないが、ユエとリムルは分かる。

あの門の後ろに、魔王軍と戦争でも始めるのかと言わんばかりの軍隊が待ち構えているのが。

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