7 スライム少女と霊媒少女

それは突然の事だった。

いつものようにお風呂に入っただけなのに、何かがおかしい。お湯が意思を持っているかのように、不自然な波が起きている。霊障の類を疑って上がろうとした瞬間、そのお湯だと思っていたものが絡みついてきた。慌てて祓おうと意識を集中させると、絡み付いていたものは離れていった。

「…おかしいな。霊の類なら“視える”はずなのに」

私には、霊を視て、その言葉を聞く力がある。話の通じない相手には多少強引な手段を取ることはあるけど、基本的には対話で問題を解決してきた。今回のようなケースは水死した霊が引き起こす事はあるけど、この家にそんな曰くを聞いた覚えはない。

「れいって、なに?」

不意にそんな声が聞こえた。辺りを見渡すと、お湯だと思っている液体が人のような形をしていた。その姿は幼い少女のようだ。

「死者の魂の事だよ。貴方は違うの?」

「うーん、たぶんちがう、のかな?わたしは、スライムって、よばれてる」

「スライム…?…なるほど、人外ね」

この世界にはいつからか、人外と呼ばれる者達が現れるようになった。ほとんどが人間と同様の知能を持ち、独自の文化で生きている。

「ねてたら、ここについたの。ここ、どこ?」

「私の家の風呂場だよ。液体になったまま、流されちゃったんだね」

「そっかー。ひとはだぬくぬくだったから、だきついてただけなんだけど、おこってたみたいだったから」

「あぁ…さっきはそれで…。てっきり沈めようとしてるのかと思ってたから、なんだかごめんね」

「きにしないで。…そのままだと、ひえちゃうよ?」

そう言うと、スライムの少女は先ほどのように絡み付いて、私をお風呂に浸からせた。出ていた間に冷えつつあった体が再び暖まる。

「そういえば霊はよく見たり話したりするけど、こうして人外と話すのは滅多にないな。貴方は人間とよく話したりするの?」

「ちがい、よくわからない。はなしてるのがどっちかわからないけど、はなしはすき」

「確かに、端から見て分からないのもいるもんね」

「うーん…わたしはどんなすがたにもなれるから、どっちがどっちって、きにしないの」

「それもそっか。でもその価値観こそ人間とはやっぱり違うものがあると思うよ。私はどうにも、そうやって区別しないと落ち着かないみたい」

「にんげんって、おもしろいね。ねぇ、これからもここにいていい?たくさんおはなししたい」

「もちろんそれは構わないけど…移動とかどうするの?そのままだと多分びしょ濡れになるよね…」

「…バケツとかある?そこにはいればだいじょうぶ!」

「バケツか、ちょっと待ってね」

風呂から上がって体を拭いて部屋着になる。そして物置を見たら、ちょうど1つのバケツがそこにあった。風呂場に戻ってバケツを見せると、スライムの少女は擬態を解いて液体になり、ちょうどよくバケツに収まった。水面から擬態した少女の顔が覗く。

「うん。ちょうどいい!ありがとう」

「でもこれはちょっと狭すぎるかなぁ、他にも考えておくよ」

「えー?このままでもいいのに」

「そうなの?貴方がそれでいいなら…いいのかなぁ?」

ちょっと納得できない部分はあるけど、本人?がそう言うならいいのだろう。


こうして、1人で暮らしていた私の家は少し賑やかになった。スライムの少女は他の擬態を知らないようで、ずっとあの姿のまま。いつか外を一緒に歩けたら、と思いつつ、今日も私は霊媒に務めるのだった。

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人外小噺~消えない絆~ 璃蘭 @riranandruri

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