4 雪少女と人間少年

雪の降る夜、それは突然の来訪だった。

一晩泊めてほしい、と言ってきた少女は、どう見ても雪女と呼ばれる種族だった。凍死させられるか生命を吸われるか…身構えていると、少女は不思議そうに僕を見ている。僕が黙っていると、視線を窓の方に向けて話し始めた。

「ここ数年、天気がおかしいの。北の方で暖かい冬が来たり、南の方がそれ以上に冷えたり」

「異常気象、確かにずっと起きているね」

「今の私達はほとんど四季に適応してきたけど、伝承の残る特定の地域じゃないと生きられないご先祖さんは、そのうち消えてしまうんじゃないかって、怖くて」

「…」

かつての妖怪は、人間を脅かす恐ろしいものとして語り継がれてきた。しかし人間との間に子を成すようになり、妖怪としての脅威を失う代わりにその弱点を克服できるようになった。彼女もきっとその末裔なのだろう。現にこうして一緒に暖をとれているのも、雪女という種族の弱点を克服できているからだろう。

「最初私が来たとき、君、身構えていたよね。そうやって警戒してくれる人間も、今は減ってしまったの。そういった恐れもまた、妖怪の力の源なのに」

「…僕を、どうこうするつもりはないのかい?」

「人間を減らしても、もう意味がないもの。でも、ご先祖さんに会ったら、覚悟した方がいいと思う」

「大丈夫。その為に人間は、その恐れに打ち勝つ術を学んできたからね」

「うん。妖怪を滅ぼしてしまわない程度に…そうあってくれればよかったのに」

「そこほ僕1人じゃどうにもならないよ。なんなら、寝ている隙に凍らすなり何なりすればいいさ」

「じゃあ遠慮なく。死んじゃったりはしないけど、人間にも妖怪の味方でいようとしてくれる人がいるんだなって、忘れないために」

「それなら僕も、まだ恐ろしい妖怪は身近にいると忘れないために」

その約束は、翌朝僕の左手が凍らされていた事で果たされた。少女の姿はもうなかった。

凍らされた手は暖めたことでなんとかなったものの、自由に動かすにはまだ時間が必要そうだ。命が無事なだけまだましだろう。

少女は人間との混血だが、妖怪としての種族を全うしようとしている。

化狸…妖怪との混血でありながら人間として生きている僕とは正反対の生き方には、憧れと共に憐れにも感じた。

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