第2話魔王軍大将に成り代わる。
俺にはスキル「報恩」というものがある。
これは俺に、捧げたものに見合うだけのスキルを俺からその対象に譲渡できるというものだ。
先ほどのミラに関しては彼女が俺にファーストキスを捧げた対価として「索敵」というスキルを譲渡している。
そんな俺は現在、次期魔王軍大将クラウスの屋敷へと潜入していた。
スキル「潜伏」で他者に気付かれずに屋敷の中を進み、スキル「千里眼」でクラウスの部屋での様子を見ているのだ。
部屋では丁度、屋敷の主クラウスと、執事マイクが話をしていた。
「マイク。それで魔王様は何と言っている?」
「帝国軍に敗れて死んだお父様に代わりあなたに魔王軍大将を継げというお達しです」
それを聞いてクラウスはため息をついた。
「全く。血統主義も考え物だな。一度も戦に出た事のない俺がいきなり大将か。それで。就任式はいつだ?」
「恐らく一年後です。」
「正確な日付が分かるか?」
「今調べてまいります」
そしてマイクは一旦、部屋を出た。
クラウスは紅茶を飲みながらため息をついた。
「全く。世も末だな。魔王軍はもう100年も侵攻を行なっていないというのに逆に帝国の方が度々侵攻を行なってくるとは」
魔王軍大将になるのは一年後か。
それ位は準備期間が合ってもいいだろう。
俺は、扉を空けると中に入り、「潜伏」スキルを解除した。
するとクラウスはそれを見て叫んだ。
「貴様は誰だ。どうやってここに入った?」
俺は言った。
「これが大将とは魔王軍も終わりだな。聞いて教えると本気で思っているのか?」
クラウスは俺の言葉に警戒心を強め刀を抜いた。
しかし、俺はスキル「瞬歩」でクラウスが視認出来ない速さで動くと、クラウスの刀を弾き、クラウスに馬乗りになった。
「気をつけろよ。お前があまりにも物分りが悪いようならお前も殺すぞ」
クラウスは俺を見て言った。
「この強さに、この見た目。さてはお前。転生した勇者だな」
俺は答えた。
「勇者か。違うな。俺は水野宏樹。転生した人間だ。いや。だった。というのが正確か」
「どういう意味だ?」
「水野宏樹は過去の名前だからだ。俺の新しい名はマキシマム・クラウス。魔王軍貴族13家の筆頭にして、魔王軍大将となる者だ。」
それを聞くとクラウスは驚いて言った。
「どういう意味だ?なぜお前が俺になる。」
俺はスキル「洗脳」にかかりつつあるクラウスに止めを刺す様に言った。
「俺はお前になる。ならお前は俺だろ」
俺は虚ろな目になったクラウスにさらに畳み掛けた。
「良いか。お前は水野宏樹だ。お前は最愛の妹を帝国に殺された。だから強く憎んでいる」
「帝国をか?」
「いや。世界をだ。善良で前向きで天使のようだった妹が殺されざるを得なかったことを。それに抗い妹を守る強さをその身に与えなかった事を。」
そうだ。
水野宏樹はそうでなくてはならない。
その男の憎しみは、生半可な復讐では晴らすことはできないのだ。
クラウスは俺の言葉に虚ろな目で頷いていった。
「そうだ。俺は水野宏樹。全てが憎い。殺したい。殺したい。殺したい。」
完璧だ。
俺はスキル「改変」で俺とクラウスの顔を入れ替えた。
体格はもとより似ていたから変える必要はないだろう。
これから俺はクラウスであり、奴は水野宏樹だ。
俺の目的のひとつは果たせたといえる。
次だ。
クラウスは俺に人生のすべてを捧げた。
それに報いる恩恵は果てしなく大きなものになるはずだ。
俺は言った。。
「良い目だ。そんなお前に武器をやろう」
そう言うとクラウスは喜んだ様子で言った。
「武器?殺せる。欲しい。」
俺は言った。
「お前に与えるスキルは「銃魂」だ。その名のとおり、魂を込めた銃であり、撃てばすべての防御を破り、相手方を確実に殺すことが出来る。だが一発撃つごとに寿命を50年程失う。まあ撃てて2発だろうな」
俺は更に言った。
「じゃあ眠れ。目覚めたらお前は地下牢に居るだろう。暴れても良いが脱獄だけはするなよ。俺が助けに行くまで待っていろ」
クラウスは頷き眠りに落ちた。
さて、あとは適当な理由をつけてクラウスを牢に入れておけばいい。
いや。
違うか。
牢に入れるのは水野宏樹だ。
クラウスは俺なのだからな。
俺はこれから起きる事に思いを馳せながら、クラウスとしての生活を開始したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます