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「やあケイスケ久しぶりだねって話してる余裕がなさそうだ。今の僕はオルブからちょっと離れたところにいて会話にラグができちゃうから一方的に喋るよ、ごめんね。いいかい? まずは、ちゃんとアルコルフとタンデムを組むこと。ダイブするタイミングはリーディーに任せて。次に、そっちの3人はシステムの修正に全力を注いで会話ができなくなってしまうからね。必要以上に不安にならないように。そして、最後に……」


 そこでニュークの言葉が途切れた。しばらく待ったけど、何も聞こえない。通信障害かな、と思っていたら、隣のリーディーがボソッと呟いた。


「ニューク、ちょ——」

「ケイスケ、誕生日おめでとう」


 タンジョービオメデトウ

 って何語だっけ?

 ニュークが突然発したあまりにも場違いな祝福の言葉。

 僕は、一瞬、日本語と認識できないくらいだった。


 ニュークの言葉を聞いたリーディーは、心なしか笑っているようだった。


「ニュークのヤツ……こんな状況で抜け駆けする? フツー」


 リーディーはそう言いながら僕の手を離して座席から立ち上がると、僕と向かい合って、両腕を僕の背中に回してきた。

 力強いハグ。


「雲を抜けるまではこのまま。システムダウンで緩衝装置が働かないから、けっこう揺れるよ。踏ん張って」


 窓の外の青空が見えなくなった。

 一面の灰色に。


 しばらくすると、リーディーの言葉どおり、上下左右に体が激しく揺さぶられるようになった。座席とリーディーに何度も押し付けられる。シートベルトが体に喰い込み痛みを感じる。リーディーのハグで固定されていなければ、もっと鋭い痛みになっていたに違いない。


「さすがニューク」

 シルフの呟きと同時に、轟音。


 僕をハグしているリーディーも、僕の耳元で呟き始めたけれど、機内に轟く音が邪魔をして、何を言っているのか聞き取れない。

 だけど、なんとなく分かる。

 ジェットエンジンが復旧したのだ。

 轟音が音圧を増していく。

 鼓膜が破られそうだ。

 だけど、なんて素晴らしい気分だろう。

 今までにないくらい、『生きている』気がする。


 突然、アルコルフが「ほれ」と言いながら僕の頭にイヤーマフ兼ヘッドホンを被せた。


「こんな素晴らしい機体なのに、みんな安全運転しすぎなんだよね」

 ヘッドホンからニュークの声。

「ケイスケ! ここからは僕の誕生日プレゼントだよ! 存分に味わって!」


 高らかに宣言したニュークの合図と同時に、とてつもない加速感と下向きの加重。僕は笑いながら、叫んでいた。

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