17
“Stop it, Lli.”
リーディーがルーリの発言を制止した。英語なので、どうやらルーリとの『論理的』な話し合いを求めているようだ。
話し合いを求められたルーリは、天井を仰ぐポーズをやめて、リーディーに視線を移しながら話を続ける。
「リーディー、そんなに慌てないで。私がデータ通信を切っているのは、あんたとの対話を拒絶するためじゃないよ。寧ろ逆。会話を楽しみましょう」
ルーリの言葉を聞いたリーディーは、少し間を置いて「オーケー」と呟きながら肩を竦めた。不承不承といった様子。
「あんたは、私の考えをケイスケに伝えることに反対してるのかい?」
ルーリがリーディーに質問した。
「敢えて伝える必要はない、と、さっきまでは思ってたけど、もしかして、あなたの考え、二十年前と変わってる?」
「ご明察」
「どのくらい?」
「その答、今、具体的に言っていいのかい? その答がケイスケを傷付けるかもしれないって、あんたは考えているんだろう?」
「うん、椅子に座ってるあなたを見たときに、九十五パーセントの確率でそうなるって思ったけどね……今は違うよ。あなたが言った『会話を楽しみましょう』っていうのを聞いて、その確率が三十パーセントまで下がって、さらに『ご明察』を聞いて、小数点以下まで下がった。まあ大丈夫かな、って感じ」
「修正が早いねえ。危ういくらいに。惚れ惚れするよ。もしかして、最初の確率が九十九パーセントじゃないのは、ケイスケから聞いた『夫婦』の話の影響かい?」
「あたり」
英語でルーリを制止しようとしていたときのリーディーは険しい表情だったけれど、今は少しおどけた表情をしている。たぶん、二人の会話が一段落したのだろう。
「ケイスケ」
ルーリの視線が僕に向けられた。
「グガワもリーディーも、あんたのことが大好きだからね、あんたの『プレゼント』は辞退される。そんなこと、私に言われなくても予想してただろう?」
「うん」
「辞退されたら、私に相談するつもりだった?」
「うん」
「自分が死ぬまでのデータを記録して、自分が死んだあと、グガワに送ってほしい、と」
「うん」
「ケイスケ、私はね、この日を待っていた……待っていたけれど、この日が来る前に、私の考えは変わってしまった。あんたを『実験対象のひとつ』として見るべきではない、と考えるに至ったんだ」
ルーリはそこまで話すと、珍しく物音を立てながら椅子に座り、最初の大仰なポーズに戻った。
「グガワ、こういうのは、なんて表現すればいいんだろうね?」
リーディーに話しかける形で、ルーリがグガワに質問すると、部屋にあるスピーカーからルーリの声が大音量で流れてきた。おそらく、先ほどのルーリの会話の一部を切り取った音声だろう。
「『あんたのことが大好き』」
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