16
今までに僕が作った『グガワに感謝を伝えるための物』は全部、屋内工場の一室に集められている。グガワが、その場所に置いてほしいと指定してきたのだ。
グガワに対するお礼の言葉だったり、ダンスや演劇のようなパフォーマンスだったり、そういう『物以外のもの』も、もしかしたら、屋内工場のどこかにデータとして保存されているかもしれないけれど、そのことをグガワに質問したことはない。自分が贈ったものが今どこにあるかなんて、僕にとってはどうでもいいことだ。相手が必要ないと感じれば、捨ててもらって構わない。そういう気持ちで感謝を伝えている。こういう僕みたいな奴のことを、『自己中心的』と呼ぶのだろうか。
僕も、AIから何かをもらうことがあるけれど、もらったものが今どこにあるのか、AIに訊かれたことは一度もない。このあいだアルコルフに押し付けられた水着だってそうだ。自宅の庭の木の横に突き立ててあるなんてことは口が裂けても言えないけれど、もしも、そのことをアルコルフに伝えても、豪快に笑い飛ばすに違いない。
僕とリーディーを乗せたスクーターの自動運転に身を任せてボーッとしているうちに、目的の部屋の前に到着した。僕の贈り物が集められている部屋だ。
スクーターが停車すると同時に、扉が自動で開く。
スクーターから降りて、開いた扉に向かっている途中で、部屋の中の様子がいつもと違っていることに気付いた。
部屋の中央。
僕が作った椅子に。
ルーリだ。
ルーリが座っている。
足を組み、腕を組みながら。
「ルーリ、どうしたの?」
この部屋の中で一度も見たことがない人物が大仰に僕を待っている光景に驚いて、感嘆詞のような質問をしてしまった。
「そろそろかな、と思ってね」
ルーリは淡々と抑揚なく返答した。言外に込められている強い感情が僕の肌に直接伝わってくるような気がした。
「ほんと、こういう予測はすごいね、敵わないよ」
後ろにいるリーディーが溜息を漏らしながら言った。どうやらリーディーは、ルーリの意図を理解したらしい。AI同士の会話になると、どうしても僕は置いてきぼりになってしまう。
そんな僕の様子を観察しながら、ルーリが話を続ける。
「ケイスケ、あんたが今日グガワに贈るのは、あんた自身、だろ?」
「うん」
「グガワに感謝を伝える方法が、もう思い付かない」
「うん」
「だから、グガワに自分の体を解析させて、オルブで生きる人間の貴重なデータを『プレゼント』しようと考えた」
「うん」
「ケイスケ、私はね——」
そこで言葉を切ったルーリは、しなやかに、軽やかに、踊るように、椅子から立ち上がりながら両手を広げた。視線は、柔らかなオレンジ色の光に照らされている天井に向けられている。その姿勢のまま、ルーリは、明瞭な声でゆっくりと囁いた。
「この日を待っていたんだよ」
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