page.15 留守番

 アルバートとエヴェリンが買い物へ出かけ、私はひとり庭の手入れをしていた。頼み込んで手に入れた、私の仕事だ。


「私も、庭は歩く」


 そう言って、アルバートから譲ってもらった、私の仕事だ。


 花壇に水をき、芝を刈り、枝を切る。庭の手入れと自室の掃除だけが、この家での私の仕事だ。


 特に、枝を切るのは楽しい。騎士隊ナイト・フリート愛剣レーザー・ブレードを振り回していた頃を思い出す。あのときは、枝ではなく機関銃を斬り捨てていたのだが。


 枝を切りながら、ふとがきの外を見る。するとそこに、背伸びをしてこちらをじっと見ている少年がいた。わずか十世帯ほどしかないこの村の、住人の一人だ。話すのははじめてだが……。


「何か、用か?」

「なんで人形アンドロイドがいんだよ!」

「この家の、人形アンドロイドだからだ」

家事人形ハウス・アンドロイド?」

「……そういうことになる」

「爆発するんだろ?」


 これが、騎士隊わたしたちが戦った果ての認識か。こんな辺境の村までも、伝わるのは人形アンドロイドの悪評ばかり。


「私は、しない」

「絶対嘘だよ!」

「絶対、しない」


「なにしてるの!」


 悲鳴のような声をあげて現れたのは、ひとりの女性。


「ママ! こいつ、爆発するよね?」

「馬鹿なことを言わないの! その……すみません。この子が失礼なことを言って。ハミルトンのご夫妻にはお世話になっているのに」

「いいえ、気にしません。ただ、彼の人形アンドロイドに対する認識には誤りがある」

「……ええ、そうですよね。その……それで、申し訳ないんですけれど」


 女性は、少年の肩を掴みながら後退あとずさる。少年がふらつき、転びそうになる。


「どう、されました?」

「……二度と、この子と話さないでください。……私たちに、近づかないで!」


 子を抱き上げ、背を向け、走り去る女性。


「……貴女の認識も、誤っている」


 切りかけの枝をそのままに、私は屋敷へと戻った。家事人形ハウス・アンドロイドとして、ひどく情けない話だ。しかし、アルバートとエヴェリンをこの村でまで非難の目にさらすわけにはいかない。


 庭はもう、歩くまい。


 なにもしないこと。もしかしたら、それがこの家で私に求められていることなのかも知れない。


 そしてそれが、この星で、人形アンドロイドに求められていることでもある。そんな気がした。


 私は、誰もいないダイニング・テーブルでひとり席につく。妙に感傷的になる自我に対してセルフ・エラー・チェックを走らせながら、問いを繰り返した。


「アルバート、エヴェリン。貴方たちは何故、私をここへ呼んだのだ」

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