第2章 ハミルトン家の家事人形
page.12 新しい仕事場
輸送トラックの揺れの中、私は拘束具に縛られた状態で転がっていた。
隊舎から運び出されて2時間、
これからゆく先で私が何をするか? 全てがもう、どうでもいい。そこに大義がないことだけが確かなのだ。
あぁ、ジーク。私はなってしまう。大義なき
トラックの揺れが止まった。男が私を乱暴な手つきで荷台から降ろし、地面に転がす。私の
そこは、コンクリートによる
「悪いが、酔狂な老夫婦に会うのも、危険な
そう言うと、男は輸送トラックへ乗り込む。私を置きざりにして、去っていく。勝手にしろ。
私は拘束具に包まれたまま、去っていく男と反対側を見上げる。
私はどうやら、門の前に転がされたようだ。門の向こうに見えるのは、背の低い
ここが私の、新しい仕事場か。
……。
門の前に捨てられて、かなり経った。夕日が沈みかけ、空は紫色だ。
あの男、本当に家主に連絡したのか? あるいは、私の新しい
ふん、別に構わない。このままずっと転がされていたとして、騎士隊舎で棒立ちでいるのと何も変わらない。いっそのこと、放っておいてほしいくらいだ。
そう思った、そのとき。クリーム色のドアが開かれる。その扉を開いたのは、柔らかい明かりに照らされている、腰の曲がったひとりの老人。
それは、私のもとまで歩いてくる。スピードは非常に遅いが、妙に体が揺れている。
やっと側まで辿り着いた。転がっている私を覗き込んだのは、髪が白く染まったご婦人だった。
「あら、まあ」
ひどく短い距離をゆっくりと歩いた彼女は、しかし肩で息をしていた。
「ごめんなさいね。待たせてしまったみたい」
ご婦人は、私を起こそうと拘束具の紐を引っ張る。
よせ。恐らく貴女の体重と筋力では不可能だ。そう伝えてやりたいが、私は今、発声器の使用も許されていない。
マニュアルを参照し、ごく簡単な
私は、唯一許されたメイン・カメラの動きで
「あら、なぁに? ぱちぱちして、
違う、
「ああ……これ? このご本が読みたいのね?」
私が読みたいのではなく、貴女が読むのだ。ええい、じれったい。
しかし、なんとか注意は
ご婦人は、よろめきながらそれを拾うと、何かいいことでもあったかのように笑った。
「ふふ、ごめんなさい。老眼鏡を取りに戻るわね」
もうしばらく、ここで横になるはめになりそうだ。
屋敷の門の前で転がっていると、一台の車が屋敷の前に停まった。旧式のガソリン車だが、よく磨かれていて
そこから降りてきたきたのは、ひとりの男性だ。仕立ての良い茶色のスーツを着て、背筋をしゃんと伸ばしている。だが、白く染まった髪と髭は彼が老人であることを示していた。刻まれた
「おや、君はひょっとして、私たちの新しい家族ではないかな?」
そう言うと、紳士は私を助け起こし、抱き上げた。年齢あたりの筋力は、かなり高いように思える。
「すまなかったね。エヴェリンは、君に気付いてないのかな」
紳士が私を抱いて、門をくぐる。庭の中を玄関へ向けて歩いていると、ちょうどドアが開く。出てきたのは、老眼鏡をかけたご婦人。
「まあ、アルバート! おかえりなさい」
「ただいま、ハニー。私たちの大切な彼を、あんなところに転がしておいてはだめだろう?」
「老眼鏡をとりに戻ってたのよ。この子がね、このご本を読んでほしいと言うから」
「君はもう、彼と話したんだね。君は草木と話すのも、私よりずっと得意だものな。では、温かい部屋で読んでやろう」
そして、私はついにクリーム色の扉の向こう側へ招かれたのだ。
「ようこそ、私たちの新しい家族。今日からここが、君の
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