page.09 大義の代償

 戦闘を終え市民が営みを再開したその直後。

 凄まじいスピードで走る一台のトラックが突っ込んできた。

 その行く先には、老夫婦が一組。


「ジーク!」

「ハルジオン!」

 

 ジークがトラックへ体当たりをし、軌道を逸らす。ジークとトラックは近くの建物の壁と衝突。潰れたトラックから、大量の破片が飛び散る。


 私は即座に老夫婦の前へ急行し、シールドレーザー・ブレードを構える。

 小さな破片を盾で防ぎ、飛んできた大きな部品を剣で切り裂く。


「ご無事か!?」


 返事がない。慌てて振り返ると、老夫婦は抱き合って震えていた。無事だ。

 ジークは? トラックは?


「ジーク、貴方も無事ですか!?」

「騒ぐな、無傷だ」

「いったいこのトラックは……」


 そのとき、トラックの荷台から、一機の人形アンドロイドが現れた。


「タ……タタタッ、助けてください。ワタシは、ワルイ人形アンドロイドではナイのでス」


 エラー・ノイズが混ざり、カタコトのような妙なイントネーションで話している。これは……何か不正な改造を施されている?


 その人形アンドロイドの両手には、複数の手榴弾フラグ・グレネード。安全ピンは――全て抜かれている!


「ジーク! 逃げて!」

「貴様はその市民を守れ!」


 言うなりジークは手榴弾フラグ・グレネードを持つ人形アンドロイドを押し倒す。そして、おおかぶさる。


 今、私ならば。あの人形アンドロイドの両腕をレーザー・ブレード切り落とせる。その腕の上にシールドを覆い被せられる。爆発の衝撃を殺し、ジークを救える。私の演算機構は、その動作が可能だというシミュレーション結果を返している。


 ただし、それが爆発までに間に合うことが保障されていない。あの手榴弾フラグ・グレネードの安全ピンがいつ抜かれたのか、分からないのだ。画像認識によると、あのタイプの手榴弾フラグ・グレネードの効果半径は約15メートル。


 私の対処が爆発に間に合わなければ、私の後ろで震えている老夫婦は負傷する。高確率で、死亡する。だが間に合えば、ジークを救える……!

 ここで盾を構えてとどまるべきか。

 剣を振るい踏み出すべきか。


「私は――!」

「大義を果たせ!ハルジオン!!」


 2年前の私は、踏み出した。ジークを救うために。

 しかし、あれから今日このときまでに、ジークが私に見せてきた大義への忠誠。それが、私の足をここに釘付けにした。

 私は、シールドを構える。


 その数瞬で、他の市民の前にもジークフリート隊の騎士人形ナイト・アンドロイド達が身体を盾にして立ち塞がっていた。


 ――爆発。

 ジークの腹の下からあふれたいくつかの金属片フラグが、周囲に飛び散る。


 私のシールドにも数十の破片が突き刺さる。左腕の骨格フレームが軋む。わずかに後退する。

 これを至近距離で、しかも大量に食らったジークの損傷。シミュレーションするまでもない。


 ジークの元へ駆け寄ろうとしたところへ、通信が入る。


『……エクスカリバー、ハルジオン、聞こえるか!? 聞こえていたら公共放送のαアルファチャンネルを確認しろ!』

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