page.02 大義

 地図に示された目的地へ辿り着いた。この隊舎で最も広い演習場。そこには、今日から入隊する騎士人形ナイト・アンドロイド達が集まっていた。


 ほとんどは灰色の量産型だ。私より背が高く、分厚い鎧に包まれている。だが私は知っている。運動性を追求して開発された私の方が、機動力で彼らに勝っていることを。


 その他には、ほんの数機だけ新型試作機らしい者が見られる。赤い試作機は、両腕が剣と一体化した射撃戦非推奨環境パブリック・プレイス向けの制圧遂行機。青い試作機は両腕が機関銃で、背中には迫撃砲を背負った支援砲撃機。しかし私は知っている。この私の繊細な五本指マニピュレータこそが、汎用性ではどんな武装にも勝ることを。


 私は視界に記された命令通りに整列する。すると、一機の騎士人形ナイト・アンドロイドが演習場のステージに立った。

 彼の発声器からは、私の数十倍大きな声が発せられた。


「聞け! 我が名はジークフリート。この騎士隊ナイト・フリートの総隊長だ」


 ジークフリート。そう名乗った彼は、大柄な見た目からして量産型騎士人形ナイト・アンドロイドのカスタム機だ。他の量産型と異なるのは、王冠のような頭部の形状、真っ黒に塗り潰された装甲、そして全身に深々と刻まれた傷。


「我々人形アンドロイドが奉仕するべきはあらゆる生命いのち。それは知っているな? しかし、我ら騎士隊ナイト・フリートの使命はそんな小さなものではない!!」


 量産型であることを感じさせない存在感。量産型であるはずなのに、赤や青の新型試作機よりもずっと特別に見える。


「貴様たちはこの瞬間より、騎士隊ナイト・フリートの一員となる。その使命は、街の平和を守るため、悪と戦うこと。善良な人間市民の生活を脅かすもの、全てを討ち滅ぼすことだ!」


 街の平和を守るため、悪と戦うこと。

 善良な人間市民の生活を脅かすもの全てを、討ち滅ぼすこと。

 私の行動原則に、ジークフリート総隊長の言葉が刻まれていく。

 これが私に与えられた、名誉ある使命。


「貴様たちは、社会の正義を実現するつるぎだ。 貴様たちは全ての市民に必要とされる。工場で働く作業人形ワーカー・アンドロイドとも、家事を手伝う家事人形ハウス・アンドロイドとも違う。貴様たちには大義がある! 大義こそが、貴様たちの存在意義と知れ! 大義を失くしたとき、それが生命いのち無き我々の死するときだ!!」


 大義。私たち騎士人形ナイト・アンドロイドだけに与えられた、特別な存在意義。

 私は、原動力ハートが熱くなるのを感じた。セルフ・エラー・チェックを走らせるが、故障ではない。大義のために今すぐにでも働こうとする私のために、原動力ハートが余剰エネルギーを生成したようだ。


「貴様たちの活躍に期待する。以上だ! 全機、出撃に備えて待機しろ」


 私たちはジークフリート総隊長の命令を受け、隊舎の出撃待機エリアへと移動した。

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