第2話 子供を追放したい親

「はい?」


 言われていることの意味が分からず、聞き返した。

 相変わらずの威厳に満ち満ちた態度でサツマ父は続けた。


「愚息を君の暮らす世界に連れて帰り、そっちに移住させてしまって欲しい。もう15年も会っていないが、あいつが命を落とすのは見たくない。無責任に思えるだろうが、親として最後にしてやれるのがこれなんだ」


「命を落とすって……」


 随分物騒な話だ。

 ソコロフが顔色も変えずに付け足す。


「陸軍内の一部では、シラナミ師団長を内々に処理するしかないとの意見も出てきているのです。そして、そう唱える人数は無視できない数はいます。父親であるシラナミ大佐はもちろん、僕も暗殺には反対です。平時の殺人なんて、インパクトもあり、人々に違和感は残るし、最悪の選択だ」


 ちょ、待てよ、と思わず言ってしまう。決して某レジェンドなイケメンを意識した訳ではない。


「サツマ様があんたらにとって都合の悪い存在なのは分かったけど、国民や王家はどうなんですか? 勝手に危険視して、排除しようとするのは、それもまた独善でしょう」


 みんなが危険だと言うなら殺して良いという考え自体が、民主的な法治国家で育った俺には受け入れ難たいけれど、絶対王政の国で異議を唱えるのはナンセンスなのであえて触れない。


「王家の方々も我々と同じ意見だ。国民も近衛師団の暴走に怯えている。だからこそ、異世界追放が一番角が立たず、最大多数の幸福が保てる選択肢だと私たちは判断したのだ」


 判断したのだって、俺たちの世界の都合は一切無視かよ。すげえ勝手だな。さすがサツマ父。


 そりゃさあ、世の中には色んな家族があって、全ての親が子供のやることなすこと全責任を負うってのは理想論だってことは俺もわかる。

 成人した子については、捨てる権利だって親にはあるのだ。

 親だから子だから、兄弟だからと全責任を負うべきと信じている人は幸福な人だと思う。

 警察官になって多くの崩壊した家族を目のあたりにし、痛感している。


 でもさあ、歩く核弾頭扱いの息子、異世界に捨てようって酷いよね。


 色々ツッコミどころ満載だが、とりあえず、前提から確認したい。


「信じられないなら、王のサイン入りの密命書を見せても良い」


「いや、そういうのじゃなくて」


 ゴソゴソと懐をまさぐり始めたサツマ父を俺は制した。


「俺たちの世界にあいつを不法投棄しようって考えも大分酷いし、ツッコミどころ満載なのですが、その前にあなたたち、俺の生きている世界と行き来する方法を知っているのですか?」


 えらく軽く言うけど、俺とサツマ様はその方法が見つからなかったせいで、数か月も同じ屋根の下に暮らす羽目になったのだ。


「もちろん知っている。簡単だ。シラナミ家の当主のみに受け継がれるものだから、サツマは知らないがな」


 え、マジで?


 ソコロフがイケボで付け足した。


「シラナミ家は代々異世界との門を守る役目を負っているのです。門は本来、当主のみが出現させ、出入りが許されるのですが、まれに当主以外の人間も条件が揃うと門を開いてしまうことがあるのです。そういう時は、無自覚ゆえに力を制御できないため、今回のシラナミ師団長のように異世界転移したまま、帰り方が分からず往生するような事故が発生してしまうのです」


 厨二臭い設定だけど、俺はこんな設定考えていない。

 ちょいちょい俺の設定資料集と違うのはどうしてなんだろうな。


「条件って何だ?」


 エルフのごとき美青年の白皙に壮絶な笑みが広がった。


「深い絶望と転移先の自分の命の危機です」

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