第6章 真実
第1話 親子の邂逅
俺の顔を見て、面影があるとサツマ父は言った。
似ているではなく。
「もう15年以上会っていないから、今のあいつと君が似ているのかは分からないのだ」
真顔で言い訳をされた。家族と断絶状態にあるのはサツマ様から聞いていたので、俺は曖昧に頷くしかなかった。
「シラナミ大佐は憲兵として、長らくご活躍なさっておられます。都でのシラナミ師団長のお噂に心を痛めていらっしゃる」
背後から、ソコロフが解説し、俺にもソファに掛けるよう勧めた。気が進まないが、サツマ父の正面に腰を下ろす。
「君は俺……お父さんとの仲はどうなんだ?」
クソ親父のふざけた顔が頭に浮かんだ。イラつくけれど、嫌いではない。
こういうことを言うとクソ親父は調子に乗ってうざいので、絶対言いたくないけれど、俺にとってあいつは一つの目標みたいなものだ。
男としても剣道の師匠としても。
まるまる素直に言うのはしゃくだったので、控えめに言葉を選びながら伝えると、サツマ父は渋柿を含んだみたいな面持ちで俯いた。
今にも「誠に遺憾です」なんて言いそうな顔だ。
こちらの親父も息子と同じくクソ真面目で不器用なのだろう。
だから二人とも分かり合えない。
「サツマは君の世界でうまくやっていけていたのか?」
「最初からうまくやっていけてたとは言えませんが、徐々に適応はしていました。仕事も見つけましたし」
社会でうまくやっていけているという状態の基準をどこに置くかで違うけどな。
俗に言う陽キャレベルを求められたら多分俺もうまくやってるとは言い難い。
けど、自分と社会の折り合いをつけて、法に触れず普通の社会人として生活するくらいはできている。
サツマ様は全然まだそのレベルには達していないけれど、時間が解決してくれる気はしていた。
「そうか。あいつがな。こちらの世界ですら社会不適合者だったのに」
サツマ父は感慨深げに呟いた。
「お言葉ですが、親子関係に関してのみではないのですか? 昨日、近衛師団の本部に行った時、随分な数の側近に歓迎されてましたよ。気持ち悪いくらいに。それに王女のお気に入りなのですよね、あれでも」
サツマ父はいよいよ陰気な表情を見せ、片手で額を押さえた。
代わりに壁に寄りかかって立ったままのソコロフが答える。
「気持ち悪いというあなたの感覚は正しいです。シラナミ師団長の支持基盤は貧しい農村出身の兵士たちです。彼らの鬱憤を独善的で過激な言動で発散させ、自らの支持者に引き込むのが彼のやり方です。そして、自分や王家に逆らう者には無慈悲な死をもたらす。多くの弱者は彼を讃えるしか生きる道はないと思い込んでしまう」
断絶しているとはいえ、実の親の前で随分辛辣な評価だったが、サツマ父は瞑目して首肯していた。
人類の黒歴史と呼ぶのにはあまりに悲惨で嘆かわしい歴史を刻んだ過去の独裁者の面々とサツマ様が同じ。
いや、確かにあの熱狂ぶりは自由主義社会に育った俺には異様に見えたし、ミサイルを飛ばすどっかの国を連想しなかったとは言わないけれど、でもさ。
「あいつ、バカじゃないですか。独裁者とかって、飴と鞭を使い分けて民衆の心を掴むという点では頭良くないと無理だと思うし、そもそもそんな大層な器じゃないと思うのですけど」
ただの思い込みの激しいヤンデレストーカーバカロン毛じゃん、あんなの。
「ええ、バカです。けど、バカが不幸な偶然が重なって祭り上げられ、調子に乗って権力をふるっているのが我が国の現状なのです。早いところバカを取り除かないと国が破綻します」
「俺の育て方が悪かった……」
この世界でもあいつのポジションはバカなんだ。
俺とサツマ様は全く別の人格であるはずなのに、軽く傷ついた。
「このままでは、シラナミ師団長を取り除くには非人道的な手段を使わざるを得なくなります。そういう事態は王女も避けたいと強く望まれているのです」
サツマ父が刮目した。
すげえ、戦国武将みたいなオーラ出てる。
親父と同じ見た目のくせに、この威厳の差はどこから来るのだろう。
「サツマと違って賢い君を見込んで頼みたい。あのバカを君の暮らす世界に連れ帰ってくれないか。もう俺たちの手には負えないのだ」
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