第11話 世界の理の書
掃除も夕飯作りも放棄し、俺は眼鏡の本棚から出てきたノートに没頭した。
『設定資料集』と題されたそれは、子供が書いたような歪な金釘文字と下手くそな絵で構成されていた。
けれど、そこには俺や俺のルサンチマン王国での周囲の人たちの詳細な身上情報、ルサンチマン王国の建国から現在までの歴史及び情勢が、真実と概ね違わず記されていた。
概ねと書いたのは、違うところもあったのだ。
まず、俺とボニー様周辺の情報だ。
ノートの中のボニー様は姫とは名ばかりのふしだらな、俺を見るとどこでも発情するろくでもない女になり下がっていた。
しかも、俺以外の男には指一本触れさせないらしい。どこまで俺にとって都合の良い女なのか。
自分で書いた訳ではないけれど、申し訳なさ過ぎて死んでお詫びしたくなった。
あと、俺は25歳でボニー様と結婚し、ルサンチマン王国の王となり、翌年長男が誕生、さらに2年後長女と続き、30歳になる頃には3人の子に恵まれると書いてあったが、31歳現在、何一つ実現していない。
俺がボニー様と結婚して王になり、さらに子っ、子供なんて、何と破廉恥でおこがましい。
不敬罪にも匹敵する酷い話だ。
しかし、この世界には全くルサンチマン王国の情報が存在しないと気落ちしていたが、まさかこんな身近に『世界の理の書』(ボニー様関連は除く)とも呼ぶべき書があったとは、俺も案外まだ運に見放されていなかった。
この書を読み解けば、元の世界に帰る方法が見つかるかもしれない。
だが、同時に新たな疑問も浮上する。
世界の理の書は、眼鏡の家の本棚にあったが、眼鏡は出会った時から一貫して、ルサンチマン王国の存在を知らなかったと話している。
現在も俺の頼みを聞く形で、一応存在を認めてはいるが、どうも口先だけで、本心から信じていないように見える。
いくらゴミだめのような部屋でも、主人が知らないうちに世界の理の書が安置されるなんてあり得るのだろうか。
眼鏡は何かを隠している?
あの死んだ魚のような生気のない表情の裏で、俺を謀っているのか? 奴は。
確かに何を考えているのか分からないところのある男だ。
ボサボサの髪や縁の太い眼鏡、常に脱力しているように見せかけ、ブレない体幹。
ただの無礼な一般人のようで、妙な威圧感のある語り口。
いかにもモヤシみたいな頭でっかちの仲間を募り、地下で爆弾でも作っていそうだ。
尋問する必要があると近衛師団長の勘が告げた。
話術と拷問を絶妙に組み合わせた尋問は得意だ。いく人もの人間を処刑台に送ってきた実績がある。
最も処刑台に送らずに始末した輩の方が多いが。
眼鏡には当分、世話になるので殺さないよう気をつけつつ、追及せねばならない。
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