飛んでりゃ攻撃当たりませーんっ!

松田勝平

第1話 『空駆け』


 …暗い街中。


 冷たい風が、吹き荒れる。


 屋上に、二人の人影。


 …高層ビルの明かりだけが唯一の光源であるこの世界で、今───。



 ───彼らは、戦っている…!




「《雷光砲》ッ!」


 一人は、忍びの物かと思われる鉢金を身につけた銀髪の男。

 彼が掌より放った、人一人軽く飲み込んでしまいそうな"雷光"は、敵対者をたちまちに飲み込んでしまうだろう…。


「───《空駆け》。」


 しかし、敵対者たる青年の一言で、その状況はひっくり返された。

 黒いフードを纏った青年は、神速で不可避であろう、"雷"を、あろうことか、"見てから避けた"のである。


 ───尋常な事では無い。


 …そのまま、はるか上空へと逃走を図るフードの男、だが───。


「───ちぃッ!外したか…コノエ!」


「はいっ!主人様っ!」


 白髪の男は華奢な少女を印の入った札より召喚し、そして───。


「投げるぞぉぉッ!!」


 投擲。


 渾身の力を込めて放たれたその砲撃は、容易くフードの男を捉える。


「───めちゃくちゃ、だな。」


 フードの男はそう言ってから、"空を蹴り"、方向転換。


 弾丸少女の軌道から外れ、そのまま逃走へ───。



「───っ!逃しっ、ませんっ!」


 …だが、しかし…。

 砲弾として飛んできた以上、少女の方だって、常識では測れやしない。

 なら、何故安堵できようか、実際に彼女は───。


解放リンクッ!【時限爆弾】っ!」


 爆弾を起爆したときの風圧による方向転換によって、此方を追おうとしているのだから…!


「さぁぁぁぁぁ!!堪忍してくださぁぁぁぁぁぁいっ!!!」



 …そのまま直線状に突っ込んでくる銀髪の少女。


「───…あほらし。」


 しかし、そこから、空中での軌道に制御などかけられるわけも無く…。


「…空飛んでりゃあ───。」


 『空駆け』は、無慈悲に"空を蹴って"軌道を変える。


「───攻撃なんて、当たりませんよ。」


 そして、哀れに涙を流しながら落ちていく少女を眺めながら、彼は上空へと飛び立った。

















「…いやぁ、凄い景色だ。」


 雲海を超え、満月の下、彼は"都市"を俯瞰した。


「"一年前"から、世界は、変わった。」


 自分のすぐ横をゆっくりと通り抜けていく、自身の背丈の二〇倍はあるだろう巨大な人型戦闘機。


「価値ある物を、取りこぼしてしまった。」


 眼下に広がる、"国主"の争い。


「…手に入れて、失った。」


 彼の手の中に握られているのは、一枚の、"カード"。


 …フードを脱ぎ、彼はその素顔を月の光の中、あらわにする。


「…俺一人で、"過去"を取り戻したとしても───。」

「世界は、その過去を、認めやしないだろう。」


 彼の瞳は、涙を流さない…。


 自分が死ぬ、その時までは。






 …『空駆け』。


 全世界中で、指名手配中。

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