第43話 ラジオ

 アンタは旅行は好きだろうか? かくいう俺は旅行というよりは、心霊スポット巡りが好きでよくいろんな心霊スポットに出向いたりしている。ただ最近はこんな状況だから、あまり出かけることができていないが。


 そんな話を友人たちにすると相変わらずの物好きと呼ばれる中で、何人かからは今はまだ大丈夫だけど変なものを連れてくることもあるからほどほどにしておきなよーと一応注意は受けている。


 というのも、俺自身は霊感はないと思っているものの、そういった場所に行ったり心霊写真と呼ばれるものを目にするとたまに鳥肌が全身を覆うことがある。そんな時は「あーここはまずかったかな」と思うのでそんな時はすぐに退散することにしている。けれどそんなことになるのはあまりなく、危険な心霊スポットと呼ばれているところのほとんどはあまり何も感じないことが多い(その反面ヤバそうなところは鳥肌だけでなく頭痛がしたり耳鳴りがしたりする)


 そんなことをしているからなのか俺の周りには霊感があるという人が多い。それ自体は結構なことなのだが、それを実際に証明することができないので本当のところはよくわからない。まぁ話を聞く限りいずれも本物っぽいので結構面白い話を聞けたりもする。


 さてそんなわけで今回は旅行に関するお話。これは俺の友人が会社の仲間たちと日本のとある旅館に泊まった時の話で、友人がその旅館で体験した身も凍るような思いを紹介したいと思う。ちなみにその友人もはっきりと感じるわけではないが、それなりに奇妙な体験をするタイプらしく、今回の話もハズレを引いたと話していた。というわけで前置が長くなる前に本題へ移ろう。それではどうぞ。



 これは俺の友人が今から数年前に体験した話だ。友人がその旅館に訪れたのは会社の行事がきっかけだったそうだ。その日の予定は会社を出発してから適当に観光地を巡り、チェックインの時間になったため旅館へと向かう至って普通の内容だったそう。もちろん巡った観光地も至って普通のところだった。ただ友人曰く、その旅館自体古いとかそういったことはなかったものの、中に入った時からちょっと嫌な感じがしたとかなんとか。


 旅館に着いてから部屋が割り振られ、それぞれ荷物を部屋に下ろしに向かった。友人たちの部屋は四人部屋だったそうで、最初は一人部屋が良かったと思っていた。しかし社会人になって誰かと集団で泊まることもなかったこともあり割と盛り上がったそうだ。


 荷物を部屋に下ろしてからそれぞれ温泉に入ったり、街並みを散策したり、まだ日が高いうちからアルコールを楽しんだりと自由に過ごしていた。


 夕食は宴会場でとり、そのあとはまた思い思いの時間を過ごしていた。友人の部屋のメンバーも温泉に入ったり部屋でおつまみ片手にビールを飲んだりしていたそうなんだが、ある一人が「こう言った旅館ってお札とかあるんかな」と言い出した。友人もさすがにそんなのないだろうと軽く考えていたものの、この旅館に来たとき嫌な感じがしたのを思い出した。そこでせっかくならお札がないかどうか調べてみようという話になり、部屋のあちこちを探してみることになった。


 とはいえ、旅館やホテルにお札が貼ってあるなんて話は都市伝説みたいなもので、いくら探してもお札など見つからなかった。何も出てこなかったことに安心すると同時に、じゃああの嫌な感じはなんだったんだろうと考えた。けれどそれもアルコールが入ってしまえばどうでもいい話になってしまい、そのうちそんなことすら忘れてしまっていた。


 それからしばらくして友人はふと目を覚ました。気がつけばすっかり眠りに落ちていたようで、その証拠に枕がわりにしていたテーブルに涎の水たまりが出来ていた。どうやら他の三人も眠ってしまったようで、部屋の明かりは点いたままになっていた。


 ぼんやりする頭で時間を見ようとしたものの、スマホが見当たらずそういえばバッグの中に入れっぱなしにしていたのを今更思い出した。それともう一つ気づいたこと。それは誰かの話し声だった。


 友人が目を覚ますきっかけとなったのが、部屋の中で聞こえたテレビの音声だ。元々友人は眠りが浅いそうで、ちょっとした物音でも目を覚ましてしまうらしく、今回も誰かがテレビをつけたまま寝てしまったのだろうと思っていた。が、部屋にあるテレビの画面は真っ暗なままでだった。じゃあラジオかなにかか? そう思って部屋の中を見渡すが、寝ている他の三人がラジオを聞いているわけもなく、これも違うと思った。


 気のせいか。と思って、部屋の電気を消してから布団の敷いてある寝室へ向かいもう一度眠りにつく。するとゴニョゴニョと何を言ってるのかよくわからないが、声がした。友人はゆっくり体を起こして他の三人がいる部屋の方へ視線を向ける。やっぱり三人とも寝ていて起きている様子はない。それなのに聞こえてくる声。さすがに気味悪く感じた友人は一旦部屋から出ようとした時だった。


「あっはっはっはっは!」


 突然の笑い声だった。


 あまりのことに体を硬直させていると、その声に驚いたのか寝ていた同僚の一人が飛び起きた。友人はその時が一番驚いたそうだ。


 起きた同僚に友人が体験したこと、今もラジオの声が聞こえていることを話すと、二人の気配に寝ていたもう一人も起きてきた。その同僚にも今起きていることを話すと「なぁそれってさ、本当にラジオか?」という言葉が返ってきた。


 なぜなら今この部屋にいるのは友人を含めて4人。そのうち三人が起きている。ラジオを聞いているとしたら今寝ているもう一人ということになるが、見る限りそんな様子はない。もしかしたら友人の気のせいなんじゃないか? と言われるが、二番目に起きた同僚は誰かの笑い声をきいているからそれはないと反論した。


 じゃあラジオを流してるやつって誰なんだよと言うと、また話し声が聞こえた。起きている三人がハッキリと聞いたことで友人が言っていることが間違いでないと証明されたものの、三人は戦慄した。


 ゴニョゴニョ、ゴニョゴニョ。まるで電波の悪いラジオのような話し声がどこからか聞こえる。その発生源を辿っていくと、それは寝ている同僚の口から発せられていた。


 ……なんだよ。こいつの寝言か。三人がそう思ったのも束の間、寝ていたはずの同僚が急に起き上がると此方を向いて「あっははははははは! 許さない! お前らは許さない!」と叫んでバタンと倒れてしまった。


 あまりの出来事呆然としていた友人たちだったが、すぐに寝ている同僚を叩き起こした。すると同僚は眠そうにしながら目を覚ました。そこで今あったことを話すと「なにそれ?」とまるでついさっきあったことを一切覚えていない様子だった。


 薄気味悪くなった一同はその部屋から出て旅館のロビーで一夜を明かしたそうだ。


 翌朝、旅館の従業員の方にそれとなくあの部屋で何か事件的なものがなかった尋ねたが、それが本当かどうかわからないが、そんな曰くは創業以来一度もないとハッキリ言われてしまったそうだ。ただ、あまり触れ回らないでほしいとの条件で教えてくたことがある。


 この旅館そのものに事件が起きたなどの曰くはないがどういうわけか友人たちが泊まった部屋だけでなく、他の部屋でも不可解なことが起きることがあるらしい。友人たちが経験したラジオの音というのもクレームとして過去にあったらしく、ラジオの原因を調べても詳細はわからなかったそうだ。


 その後寝ていた同僚になにかあったということもなく、何事もなく慰安旅行を楽しんだらしい。ちなみにその旅館の場所などは伏せるが、友人が言うにはお札などがなくても何かしら起きる時は起きるから気をつけたほうがいいと話してこの話を終えた。


 この話を聞いて俺には思い当たる節がある。俺も寝ているとどこからかラジオのような声が聞こえてくることがあるんだが、これは俺の寝言なのかそれとも……。いや、これ以上深く考えるのはやめにしておこう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る