第42話 後ろ通ります
これを見ているアンタに一つ質問だ。仕事をする上で大事ものとはなんだろうか?
そう聞くとやりがいであったり、働きやすい環境と答える人が多いと思う。しかしもっと現実的な話になると一番大事なのは『給料』だと思う。
お金の話をするとたいていお金よりも大事なものがあると言ってくる人が一定数いる。それは間違いじゃないと思う。が、人間生きていくためにはお金が必要だ。愛だけでは生きていけないのと同じだ。と、話が変にそれてしまいそうになるのでこの話はここまでにしよう。
仕事というといろいろあって、その仕事の内容または立場によって支払われる賃金が決まってくる。あくまでこれはその地域や情勢によっても変わってくるもののため、同じ仕事であったとしても賃金の差は当然あるだろう。
ではもう一つ質問。もし同じ内容の仕事が目の前に二つあったとしよう。勤務先も仕事の内容も、勤務時間も全く同じ。唯一違うとすれば給料。一方が20万、もう一方が30万だとする。さて、アンタはどっちを選ぶ?
この場合、ほとんどの人が給料の多い方を選ぶと思う。そりゃそうだ。どちらも同じ条件同じ内容なら給料の高いほうを選ぶのは当たり前だと思う。その反面、何か裏があるんじゃないか? と勘ぐってしまうのも当然といえば当然だ。もしかしたら契約書の一番下に小さな文字で『注・最高で30万』と書いてあるかもしれない。
昔からうまい話には裏があると言われているが、やたら給料の高い仕事というのはたいてい怪しい仕事が多い。かなり前に週刊誌にバイト募集みたいな広告があって、その中に死神募集というのがあった。給料はまぁまぁ高かったが一体どんなことさせられるんだろうか。たとえ100万あげるからと言われてもやりたいとは思わない。
今回はそんなお仕事に関する怖いお話。以前にも何度か仕事にまつわる話をさせてもらったことがあると思うが、今回は警備員の仕事にまつわるお話。
この警備員さんというのはガソリンスタンドで勤務していた頃のお客さんでその方から教えてもらった実体験だった。説明するより話を聞いてもらったほうがいいかもしれない。それではどうぞ。
これは俺が働いていたガソリンスタンドのお客さんの話。その方は年配の方で警備員の仕事をしておられた。ちょっと前まで企業でサラリーマンとして勤務していたが、定年を迎えられてから第二の仕事としてビルの警備員として働くことになったのだとか。
その方が所属していた警備会社というのはいくつかのビルの警備または管理を任されていて、それぞれ担当が決まっているようだった。そのいくつかある担当場所のうちとあるビルを担当する人がすぐに辞めてしまうという事案があった。
そのビルは築年数はそれほど古いわけじゃなく、管理しているいくつかのビルの中では比較的新しい部類に入るところだった。なんでも古いビルだと不具合なんてものも多く、そういった対処をするのも仕事の一つらしく新しいビルの管理は割と楽なんだとか。それなのにそのビルを担当する人が次々と辞めてしまう、または担当を変えて欲しいと申請がくるらしい。
さすがにこれは何かあると思った警備会社はそのビルを担当する人に通常よりも多めの給料を出すことにした。それで最初のうちはそのビルを担当する希望者が増えたんだがそれもしばらくするとそれも意味のないものになってしまった。
ほとんどの人がそのビルの担当を嫌がるようになり、困り果てていたころに入社したのがその話をしてくれたお客さんというわけだ。お客さんというのも呼びにくいので田中さんとしておこう。
田中さんが入ってすぐに警備会社からそのビルの担当を任されることになった。基本的にビルの管理は一人で行っているそうで、入ったばかりの田中さんは戸惑った。しかし管理といっても管理室で監視カメラを眺めてたまにビル内を見て回るだけということで、拘束時間は長いもののそれほど忙しい仕事ではなかった。難点といえば話し相手がいないことくらいか。
ところでそのビル、夜勤の仕事にはちょっと変わった決まりごとがあるそうで、なんでも夜の勤務の際、誰かに話しかけられても返事をしてはいけない、または振り返ってはいけないのだとか。
田中さんも最初は不思議な決まりごとに首をかしげていたそうなんだが、夜勤の仕事を何度かするうちにその意味がわかったそうだ。
一人で管理室にいるとどこからともなく『後ろ通ります』と話しかけられた。思わず「あ、わかりました」と言いそうになったが、直後夜勤をする上での決まりごとを思い出して思いとどまった。すると急に背筋が寒くなり、もしかしてこれが返事をしてはいけない、振り返ってはいけないということかと理解したとか。
それからしばらくその部屋にいると妙な物音がしたり、気配を感じたそうだ。田中さんはその場から逃げ出したい衝動にかられたが、その部屋から出ることも出来ず早く朝になることを祈っていたそうだ。
ようやく朝になり交代する頃、日勤担当の人が「大丈夫でしたか?」と尋ねてきて「……大丈夫です」と搾り出すように答えるのが精一杯だったそうだ。そんな一夜を過ごした田中さんはその足で会社を辞めさせてくださいと言いに行ったそうだ。
なおその話をしてくれた頃にはまた別の警備会社に所属していて、そこではそんな変な目に遭ってないと笑いながら話してくれた。ちなみに場所は伏せるがそのビルは俺もよく知るビルで行ったこともある。そしてまだ現存しているところだ。
世の中なにがあるかわからない。くれぐれもうまい話にはご用心……。
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