第37話 立ち入り禁止

 一つクイズを出そう。


 どこにでもあって、誰でも知っているはずなのに、誰にも見えないものとはなんだろうか?


 答えは『空気』


 まぁこれは少し考えたらすぐにわかってしまう問題だろう。


 では、問題を変えよう。


 どこにでもあって、誰でも知っているはずなのに、誰にも気付かれない場所とはなんだろうか?


 こうなると答えはわからなくなる。というより人によって答えが違ってくると思うが、今回に関しては『神社』が正解だ。


 神社というのはどこにでもあって、誰でも知っているそんな場所のはずなのに、実はそこに神社があったことを知らなかったということが案外多い。土地にもよるのだろう、きっとこれを見ているアンタの家の近くにもあると思う。かくいう俺の家の半径1キロ以内には神社が3つある。


 神社と聞くと大体の人は出雲大社だったり、伏見稲荷などの大きな神社を思い浮かべると思う。しかし神社といっても大きなものから小さなものまで規模は様々。それぞれ神社のランクなんてものもあるが、長くなるので割愛。


 大きな官社だとひっきりなしに人が訪れるが、村社のような小さな神社だと人が訪れることはほとんどなく、知らない間に廃神社のようになってしまうこともある。ところでこの村社。全国に約11万社あるといわれる神社のうち、約4割強の4万5千社が村社ということだ。


 村社は古くから人々の暮らしに根付いた場所であり、季節ごとに行われる五穀豊穣であったり、疫病退散を願う場所でもありながら、ことどもたちの遊び場としても存在してきた。しかし時代が流れるにつれ、村社の役割というのも変化していった。


 今では村社にお参りをするという人もあまりいなくなってしまったが、基本的に初詣というのは自宅の神棚にご挨拶した後、地域の氏神様にご挨拶に向かいその後で大きな神社に初詣に行くというのが流れだ。それらを重視する人もほとんどいなくなってしまった今、失われていく村社はこれからますます増えるだろう。


 さて、今回はそんな神社に関するお話。友人が地元の神社で体験した不思議で怖くてちょっと笑える体験。それをお話したいと思う。それではどうぞ。



 俺の友人の地元には立ち入り禁止の神社がある。なんでも友人が子供の頃からその場所は立ち入り禁止の看板が立っているそうで、大人からあそこに行ってはダメだとキツく言い聞かされていたそうだ。


 ちなみに俺もその場所に行ったことがあるんだが、外から見た感じだと至って普通の神社。ただ道路と面している参道の入り口に大きく立ち入り禁止の看板が立っており、たしかに入れなくなっていた。といっても人1人くらい入れる隙間はあったので、入ろうと思えば入れるそんなところだった。そんな場所に友人が高校生の頃、夏に地元の仲間たちと肝試しに行ったんだ。


 この地域に住んでいる子供なら誰でもその神社の存在は知っていて、小さな頃から「あそこにだけは行ってはダメだ」といわれていた。どうして行ってはダメなのか、その理由まで教えてもらっていなかった。小さな子供にとって大人の言うことは正しいと思っているところがあったせいか、当時はみんないいつけを守って近づくことすらしなかった。


 だが、今は若さあふれる時期の彼ら。そんな大人の言うことなんて、ましてや老人の言うことなんて聞くわけもなく、その場の勢いでその立ち入り禁止の神社の中で肝試しを始めた。


 初めて入る神社の中は思ったより広くなく、こじんまりしていたそうだ。かなり古びた神社だったらしく、決して朽ち果てているわけではないが確かに立ち入り禁止の場所らしくあまり手入れはされている様子はなかったとか。


 なかなか雰囲気のある神社だったそうで、不気味さと恐怖も相まって彼らのテンションはどんどん上がっていった。


 最初は大人しく神社の中を見て回っていたが、次第にはしゃぎだしとうとう神社の外だけでは飽き足らず、拝殿の中の方にまで手を伸ばしてしまった。


 拝殿は鍵がかかっておらず、簡単な造りの引き戸はすんなり開いたそうだ。中は当然明かりなんてものはなく、ただただ真っ暗だった。


 懐中電灯で中を照らすと、がらんとした中には彼らが思っていたような面白そうなものはなく、室内の奥に祭壇、壁際には長机と座布団が重ねて置いてあったそうだ。


 それでも普段立ち入ることのできない場所。それに加えてその中で最も立ち入ってはいけない場所に足を踏み入れた彼らはもう止まらなかった。携帯のカメラで室内を撮ったり、祭壇にある神棚を開けてみたり、大声で騒いだりとやりたい放題やったらしい。


 ひとしきり騒いで満足した彼らはそこから出ようとした。しかし──、


 一人の男の子が壁に寄りかかるようにしてうずくまっていた。どうしたんだろう、そう思って声をかけようとした。すると、その男の子はなにやら呟いていた。


 ブツブツブツブツと何を言っているのか上手く聞き取れなかった。友人がどうしたんだよお前、肩を揺さぶりながら声をかけると、その男の子は急にバッと顔を上げた。


 男の子は白目をむいていた。


 うわぁぁぁぁ! と叫ぶとその声に反応した他の仲間が「どうした!?」と駆け寄ってくる。友人が戸惑いながらうずくまっていた男の子を指差すと、その子は白目をむきながら痙攣していた。


 さすがにこの状況はマズイと思った彼らはその男の子を抱えるとすぐにそこから出た。そして一番近い仲間の家に駆け込むと、さっきまであったことを家族に打ち明けた。もちろんそのことはこっぴどく叱られ、友人たち全員ビンタを食らったそうだ。


 ところで白目をむいて痙攣している男の子だが、家族に見せると、その家の年長者のおばあちゃんが「こりゃ狐憑いとるわ」と言い出した。そこで用意したのが冷蔵庫に入っていた油揚げ。よくお稲荷さんは油揚げが好きという話をよく聞くが、さすがにそんなもんでなんとかなるわけないだろ、と友人は横で見ていて思ったそうだ。ただ周りが真剣にそれをやっていたので言わなかったとか。


 冷蔵庫から出したばかりの生の油揚げを白目をむいたままの男の子の口に咥えさせるとどういうわけか大人しくなり、しばらくすると穏やかに寝息をたてて寝ていた。


 ホッとしたのも束の間、話を聞きつけたその地区の会長さんや彼らのお父さんやお母さんが来ていた。彼らの顔を見るなり怒鳴りつける声もあったが、自分の子供になにごともなかったことから泣いているお母さんもいたとか。


 友人含め、無事だった子供たちに会長さんがどうしてあそこへ行ったのか尋ねてきた。素直に肝試しに行ったと答えると、どうしてあの場所へ行ってはいけないか、会長さんが教えてくれた。


 なんでもあの場所は理由は誰も知らないが昔から良くない場所らしく、あの神社へ行くと必ず良くないことが起きるということから立ち入り禁止にしているのだとか。実際、友人たちはその良くないことを身を持って体験してしまったというわけだ。


 以降、そんなことがあってから友人たちは二度とあの神社へは近づかないでおこうと決め、今に至る。


 ところでこの話を聞いて俺はその神社の前まで行ったわけなんだが、話の中で『狐憑き』というワードが出てきたと思う。そこから察するにてっきり稲荷神社かなにかだと思ってたんだ。


 けれど行ったそこに記されていたのは『天満宮』だった。


 果たしてとり憑いたのは本当に狐だったんだろうか……?

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