第34話 開かずのカラオケルーム
アンタはカラオケは好きか?
俺は割と好きな方でカラオケ大会に出場するくらいには好きだ。歌が上手いかどうかは聞く人によるかはなんともいえないが、結婚式の余興で歌ってくれと言われる程度の上手さとだけ評しておこう。
なんで急にこんな話をしたかって?
今回お話しようと思う内容はとあるカラオケルームで起きた話だからだ。
ほら開かずの〇〇ってあるだろ?
例えば開かずの扉。あれなんかよく聞く話だよな。厳重に鍵がかかってておいそれと開けることのできない扉だったり、その扉を開けるための鍵がそもそもなくて開けられないなんていうのがよく聞く話か。
他にも開かずの踏切だったり、開かずの金庫。開かずの間や開かずのハマグリ(これは単に死んでるだけか)
まぁそんなわけで開かずの〇〇ってのは世の中に案外多く存在している。そんなわけで今回お話しするのはそんな開かずの〇〇に関する物語。
俺の友人(女性です)は俺と同じようにカラオケというより歌うことが好きな奴で、友人たちと行くこともあるが、もっぱら1人で歌うことが多かった。理由として自分のペースで歌いたいのと、人に聞かせることができないような曲でも気にせず歌うことができるからということだった。
そんな友人なんだが、しょっちゅうカラオケ屋に通っていたら自然と店員さんとも仲良くなって、気がつけばその店員さんと遊びに行く仲になっていた(コミュ力が高い)
そんな中、友人はあることが気になっていたという。なんでもその行きつけのカラオケ屋には一つだけ鍵のかかっている部屋があった。その部屋はなんてことのない普通の部屋で大体7、8人くらい入れる大きさの部屋だった。
見たところ他の個室とさして違いはなく、何か特別な設備があるわけでもないようだった。
他の部屋に鍵はなく、鍵がかかっていて入れない部屋はその部屋をのぞいて一番大きなパーティルームしかなかった。
ずっと疑問に思っていて、友人のカラオケ店員に聞いてみたが、理由はよくわからないという。もしかしたら火災などの非常時にその部屋から脱出できるようにしているため、その部屋だけ使用できないようにしているんじゃないかと話していた。
だが、それならなおさら鍵はかけないはずだろうし、前に通りかかった時に中をのぞいてもそんな感じの造りにはなっていなかった。ただ、ささいな疑問だったので、彼女が知らないと言うのならそれ以上深く追求することもないかと友人は思ったそうだ。
そんなある日、友人の元に例の店員の娘から仲間内でパーティやるから来ないか? と誘いがあった。なんでも前に遊んだ時に聞かれた話が気になってそれをバイト先の先輩に話したところじゃあその部屋でパーティでもしてみるかという話になったという。
その先輩も以前から鍵のかかった部屋のことが気になっていたそうで、ただ誰もどうしてその部屋だけに鍵がついているのか知らなかった。普段から開けることもない部屋だったから、だったら機器の点検がてらそこでパーティをしようということになったらしい。
友人がそのカラオケ屋の部屋に入ると中には見知った顔もあればそうでない顔もあった。まぁ要は合コンのようなものだった。てっきり顔見知りだけでカラオケをするものだと思っていたので、まさか知らない人がいて、そんな状況になっているとは思わなかった。
正直、自分はカラオケをしに来たのであって、彼氏を探しに来たわけじゃなかった。すぐにでも帰りたい気持ちが湧き上がったが、この店で働く彼女の手前そんなことも言えず、渋々残ることにした。
メンバーが揃うと、その中で一番年上だったこの店のバイトリーダーが乾杯の音頭をとった。アルコールが入っているせいもあったが、普段自分たちが働いている店でカラオケをするということで場の空気は妙に高いテンションで包まれていた。
そんな中でせめてカラオケだけでも楽しもうとマイクを手に取り、自分が一番得意な曲を入れる。軽快なイントロとPVが画面に映し出されると、友人の気でも惹きたいのか、男性たちははしゃいでいた。
合いの手を入れたり、指笛を鳴らしたり鬱陶しいことこの上なかったそうだが、友人は雑音をはねのけるように頭上のスピーカーから流れてくる曲に耳を澄ませていた。
歌い出してからしばらくは何事もなかった。しかし、曲のサビに入った辺りからだろうか、自分の歌声に混じって別の人の声が聞こえてきた。最初は誰でも知っている曲だから勝手にハモりを入れているんだろうくらいにしか思っていなかった。けれど室内を見回してみても歓声を上げたり手拍子をしている人はいても、歌っている人は1人もいなかった。
ああ、じゃあ単にカラオケ音源に入っているハモりかと思った。
カラオケの機種や曲にもよるが、カラオケの音源のなかにはハモりが標準で入っているものもあり、歌っている曲にも確かにハモりはあった。しかし、よく聞いていると微妙に音程が違う。ハモりの音程が間違っていると思えなかったので、自分の歌声の方に問題があるのだろうと友人は気にしないことにした。
無事歌い終えると、男女関係なくすごい! うまーい! と歓声が上がった。人に褒められて悪い気がする人はいないだろう。もしかしたらただ単に気を惹きたいだけかもしれない、そんな複雑な気持ちを抱きつつ友人は空いていた席へと座った。
それから別の人が歌い始め、その人の歌を聞いていると、ふとまたさっき聞こえたハモりのようなものが聞こえた。
友人はその曲を知らなかったため、その時はなにも思わなかった。次に友人のカラオケ店員の番になり、その娘は自分も知っている曲を入れた。彼女がよく歌っている十八番の曲だ。
イントロが始まり彼女が歌い出す。友人も小声で歌いながら彼女が歌う姿を見ていた。
すると……、
またあの声が聞こえてきた。この曲にハモりは入っていない。もちろんオプションでつけることもできるが、彼女はなにもしていない。だったらこの声は……。
どうやら彼女のほうもその声に気づいたらしく、歌いながら首を傾げていた。歌い終わって自分の隣に戻ってきた彼女にどうしたの? と尋ねてみる。彼女は「なんか変な声聞こえた」と言う。するとその横にいた別の女の子も「わたしも聞こえた」と話しかけてきた。
その様子を見ていた男性がどうしたー? と軽い感じで割り込んでくる。店員の娘が今あったことを話すと「あ、俺だけじゃなかったんだ」と言う。どうやら彼にもさっきからよくわからない声が聞こえていたらしく、でも気のせいだと思っていた。
やっぱり何かあるんじゃないこの部屋? 友人はそう言いたげにしていたが、空気を壊したくないと思って口をつぐんだ。
それから一時間ほど過ぎたあたりで友人が部屋を出た。化粧直しに行くためだった。本当はこのまま帰っても良かったが、友人の女の子の手前そうもいかず、かといってさっきから聞こえる謎の声のせいでなんだか歌う気分でもなくなっていた。
重い足取りで部屋に戻ってくると、さっきまで楽しげに盛り上がっていた部屋の中が、まるでお通夜のように静まりかえっていた。
友人が帰ってきたことに安堵したのか店員の女の子が抱きついてきた。泣きそうになっていた。尋常じゃない姿に男性たちに何かされたんだと思い、彼らを睨みつける。が、そうではなかった。
「どしたん?」
友人が聞くと、
「声……」
女の子はそれだけ言った。
友人がえ? と聞き返すと、急にスピーカーがハウリングを起こした。キィーという耳障りな金属音にも似た雑音が響く。その中に混じってその声は聞こえた。
「痛い」「助けて」「暑い」
そしてバツンッ! と大きな音を立てるとそれっきりなにも聞こえなくなった。明らかにおかしい空気を感じた一同はすぐにその部屋を出た。
後日、店員の娘にあのあとどうなったか聞くと、どうやらあの部屋を無断で使用したことが社員にバレてこっぴどく怒られたそうだ。しかしあの部屋に関する曰くも教えてもらった。
なんでもあの部屋でなにかあったわけではないが、このカラオケ屋が出来た当初よりその部屋でだけ異常現象が起きるため、やむなくその部屋を誰も使用できないように鍵をつけて封印してしまったとのこと。
その後そのカラオケ店もなくなってしまい、今では別の建物がたっており、そこで怪奇現象が起きているのかどうかはわからない。もしかしたらそこにいた誰かもわたしたちと一緒に楽しみたかったんじゃないかと友人は笑いながらこの話しをしてくれた。
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