第30話 旧日本軍基地

 アンタは旅行は好きか? 国内派、海外派、海外でもヨーロッパ方面なのか、アメリカの方か、もしくは中南米だったり、アフリカ大陸や地中海の方を巡るなんて人もいるだろう。かくいう俺はこの年になったら国内派だけど、またいずれ海外旅行もしたいと思っている。


 実は高校生の頃にフランス、イタリア、モナコの三カ国を訪ねたことがある。というのも部活の遠征でフランスのカーニバルに出演することになり、その流れでイタリア、モナコと観光してきた。行ったのが俺が高校三年生の二月頃の話なので、実質卒業旅行みたいなものだった。


 以前から何度か俺が所属していた部の話をしていると思うが、なにせそんないろいろ乱れた部だったので、そりゃあ海外なんて行ったらとんでもないことになりますわねぇ。もちろん部内でカップルになっている部員はそりゃあ楽しかったでしょうよ。ちなみに相部屋で後輩の部員と二人部屋だったんだけど、寝るときは一人しかいなかったのに、朝起きて横見ると、後輩のベッドが二人ぶんの膨らみ方してるからあー、そうですかーとなるのが俺の毎朝の日課だった。寝つきが良すぎて一度寝たら朝まで起きないことが二人にとっても何よりだったんだろう。


 そんなこんなで過ごしていたんだけど、そのフランスで遭遇したゾッとする話を一つお話しよう。それはカーニバルの演目の一つでで海沿いの大通りをパレードすることがあったんだけど、俺はマーチングの時はBD(バスドラム)といって簡単言うと大太鼓を担当してたんだ。マーチング経験者ならわかると思うけど、BDはそれなりに大きな楽器で、基本的に前が見えづらく、自由に体が動かせないため、動くのに苦労するものだった。ちなみに担いでいたBDは正確な重さは分からないが20キロほどだといわれていた。


 それを担いで2時間ほどパレードするんだけど、世界各国からお客さんやら演者さんやらが入り混じっていて、テンションが上がっていたせいでそんな苦には感じなかった。そのパレードが始まる待機中に事件は起こった。


 俺が仲間たちと談笑していると、急にお尻を撫でる感触が。あ! と思った次の瞬間、グンッ! と尻を掴まれた。な、なんじゃあ!? と思って体を動かせなかったので首だけで振り向くと、俺の肩の少し上に謎の金髪美女の顔があった(俺の身長は173センチなんだけど、それより上に顔があったので多分180センチくらいだったんじゃないかと思う)


 俺はえ? え? とわけが分からずにいると、金髪美女は「ハァ~イ」とにこやかなスマイル。しかしケツを掴む力はストロング。俺は俺で「は、はーい……」とぎこちなくスマイル。ケツを掴まれ気持ちはストレンジ。どこの国の方かは存じ上げませんが、異国の地で痴漢(女性だから痴女か?)に遭いました。と、いろんな意味でゾッとした体験だった。まあ他にもイタリアでちっちゃな子供にお金をせびられたり、空港でパスポートを紛失しかけたり(これは俺のミス)、ユーロディズニーに行って何も乗らずに帰ってきたりとたくさんのゾッとする体験があるがそれは今回の話とは関係がないので省略。


 さていつもどおり長い前置きを経ての本題。え? さっきのが本題じゃないのかって? あれはただ単に俺が話したかっただけだ(思ったより長くなってしまいすいません……)


 今回の内容は俺が修学旅行で沖縄に行った際に体験したお話。人によっては不快に感じる部分もあるかもしれないのであしからず。ではどうぞ。



 これは俺が高二の頃に行った沖縄での話だ。俺が沖縄に行ったのは高二の二月の話で、俺の地元富山だと雪が降り積もってるそんな季節。けれど沖縄はそんなことを忘れさせてくれるくらい快適で、制服のブレザーが邪魔に感じるくらい暖かかった。


 三泊四日の修学旅行だったんだけど、初めての沖縄ってこともあって正直はしゃいでいた。一日目二日目と天気が悪かったが、三日目からは本当に快晴で沖縄らしさを十分に堪能出来た。その沖縄旅行であった体験なんだが、沖縄旅行のスケジュールの中にはちゅら海水族館や、グラスボートといった観光以外にもひめゆりの塔や旧日本軍基地なんかの戦争資料館も入っていた。


 ちょうど修学旅行に行く前に戦争についてのビデオを鑑賞する機会があり、見たのは沖縄で起きた戦争の映画だったんだけど、胸が苦しくなるような内容で、特に火炎放射器で防空壕の中にいる人たちを火炙りにしているシーンなんかは十何年経った今でも覚えている。


 ちなみに俺は霊感がない方だと思っている。俺が思う霊感というのは見えちゃう、聞こえちゃう、感じちゃう人が霊感のある人だと勝手に思っている。まぁ幼少期から変な体験をさんざんしてきているお前に霊感がないとは言い切れないだろう! と言われてしまえばそれまでなんだけど、自分には霊感がないと言い張ればないものと同じだ!(もはや暴論)


 そんなわけでそういった戦争資料館に行く前からちょっと嫌な感じはしていた。中学の頃に訪れた原爆ドームなんかはあまり感じなかったが、それでも何かしらはあった。なので今回も何かしらあるんじゃないかと思ってたんだ。


 ひめゆりの塔を訪れ、旧日本軍基地へ。


 旧日本軍基地、正式名称は旧海軍司令部壕。ここは読んで字のごとく、防空壕として使われていたもので、主に沖縄戦において大日本帝国海軍の司令部として使われていたものだ。ここに訪れたさい、俺の嫌な感じは膨れ上がった。なんていうか、入る前から悲しい気持ちになっていて、出来れば入りたくない、そんな気分だった。中に入ると蒸し暑くて、ワイシャツの袖をまくらないと暑いほどだった。幕僚室や兵員室などを見て回り、奥へ進む。


 すると、ある場所を過ぎた瞬間、体に感じていた熱が急に冷たくなった。例えるなら真夏の暑い外から冷凍庫の中に入ったようなそんな感覚。一瞬気のせいかと思い、もと来た場所へ戻るとやっぱり暑い。また進むと寒い。ちょうど暑いところと寒いところの境目があるようで、真ん中に立つと体半分暑い、体半分寒いそんな体験が出来た。


 そんな様子を不思議に思ったクラスメートが話しかけてきて「なにやってんだ?」と聞かれた。事情を説明してみるが、クラスメートは何も感じなかったようで、暑いままだという。となるとますます嫌な感じは強まった。


 奥へ奥へと進むにつれて、寒さが強くなってくる。それに比例するように嫌な感じも強くなり、最後にたどり着いた場所は司令室だった。そこが一番冷たく感じた。


 あ、これダメだ。そう思って一人外に出るとバスガイドさんが心配そうに話しかけてくれた。どうかした? と尋ねられ、ちょっと気分が……と言うと、バスガイドさんは「もしかして見える人?」と一言。俺がギョッとしていると「たまにいるんだよね」と苦笑い。どうやらバスガイドさんにとっては日常茶飯事な話らしい。


 そのあとは特に何もなかったが、結果的に“霊感ある人”認定されてしまったそんな出来事だった。まぁその前も後もちょこちょこと変な体験してるからあながち間違ってもないかもしれない。


 最後に、これを書いている時に当時のことを思い出そうとしてこの防空壕のことを検索していると、ちょっと調子が悪くなってきた。季節の変わり目で体調を崩しているのかもしれないが、もしかしたらまだあの頃感じた何かが残っているのかもしれない。

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