第27話 肝試し
肝試しってしたことあるか?
いつもなら暑い日々が続いている季節のはずだが、どういうわけか今年は気温がそれなりにあるはずなのに、時々肌寒く感じることもある。暖冬だったから冷夏になるという予想だったが、暑い夏じゃないと肝試しをしようという気分にもなかなかならない。
余談だが、日本初の肝試しは平安時代の末期、時の帝が自分の息子三人に鬼が出ると言われる屋敷に行かせ、内一人がその屋敷の柱を刀で削いでもって帰ってきたというものが記録として残っているそうだ。内容に関しては今も昔もそれほど変わらないということだ。
ちなみに俺がまだ高校生だった頃、部内でいい感じの男女がいたので仲のいい奴らと共謀して二人をくっつけようという話になった。そこで合宿中に肝試し的なことをして二人の距離も急接近ってな感じの計画を練って、それを実行に移した。
結果どうなったと思う?
女の子の方には高校入る前から付き合ってる彼氏がいて、なんか変な空気になってしまったんだよ。あれは肝が冷えた。というより、リサーチ不足すぎて男の方には悪いことした(しかしそのあとで別の部員と付き合いだしたので、それはそれでいいのか?)
そんな話はさておいて、肝試しの話をしようと思う。前回の学校の話の中で五つの怪談を紹介したと思うが、今回はその内の一つを紹介しようと思う。話す内容は、夜になると展望室の首吊り自殺をした女子生徒の影が見えるというものだ。この話は部のOGさんから聞いた話で、これは俺の直属の先輩も知らない話だそうだ(なんでそんな話を俺にしてくれたのかは謎)
もしかしたらこの話と前回お話した視線の話、そして以前俺が体験した謎の声や、独りでに開いた扉なんかも関わっているのかもしれない。
この話は俺が高校生の頃に聞いた話だ。その話をしてくれたのは俺より十歳以上離れた部のOGさんで、ちょくちょく部に顔を出しては俺たちの指導に当たってくれているそんな人だった。その方がまだ高校生だった頃の話。
その方(Mさんとしよう)が高校生だったころも俺たちが活動していた頃と変わらず、空き教室で練習をして、練習が終われば戸締りをして帰るという流れだった。そのときと俺のときとで違うのは教室が施錠できるか出来ないかの違いくらいか。物騒な話だが、在学中に盗難事件が起こってそれ以来、各教室に鍵が付いた(もちろん練習するときは鍵を預かっているので、その都度開けて閉めてをしていた)
それが起こったのは合宿の最中のことで、夜遅くまでの練習が終わって疲れもピークに達しているはずなのに、若さゆえなのか、妙なテンションから部員全員ではないが肝試しをすることになったらしい。
盛り上がる部員もいれば、女の子らしく怖がる部員もいたそうで、Mさんはどちらかといえば盛り上がっていたほうだった。
肝試しの内容はスタートが二階の新館と旧館が繋がっている渡り廊下で、そこから展望室がある旧館の四階まで行って帰ってくるだけのシンプルなものだった。一応、ちゃんと行ったかの確認のため、展望室の電気を一度点けて帰ってくるというルールがあり、それ以外は行きも帰りも懐中電灯一本だけという結構ハードな内容だった。
ちなみに展望室までは渡り廊下から旧館をまっすぐ歩いて(50mくらい)突き当たりにある階段を三階四階と上がっていけばたどり着けるが、その階段にある踊り場の鏡を見ると良くないことが起きるという、例の鏡があるのでそこを通りたがらない部員が多かった。なので、旧館の途中にある階段から上がることにしたらしい。
渡り廊下から旧館の廊下が見える形になっていたので、ちゃんと行ったか行ってないかの確認は出来た。なので行ったふりも出来ず、あと地味に縦社会で上下関係が厳しい時代というのもあったせいで、下級生は意地でも展望室まで行かないといけなかったそうだ。
何人かのチームで分けられてひと組目がワーキャー言いながら歩いて行った。聞いてる側としては楽しそうにも聞こえたが、中には怖さのあまり耳をふさいでいる子もいたとか。何分か経ってから展望室の明かりが点いて消えた。それからまたしばらくしてからひと組目のグループが帰ってきて、テンションも高く、あーだこーだと話していた。
それから次、Mさんを含むふた組目のグループが出発した。このときのMさんはまだ二年生でグループの中には三年生が二人ほどいたという。その二人がこんな提案をしてきた。三年生の二人は二階の階段のところにいるから、Mさんともう一人一年生のこと二人で行ってこいとのこと。さすがにそれはちょっと……と思ったが、上下関係が厳しかったこの頃、こんなつまらないことで関係がこじれるのも厄介だと思ったMさんはそれを渋々ながら承諾した。
怖がる一年生の部員と二人でMさんは四階まで上がっていった。この時普段見慣れているはずの学校が全然違うものに見えたと話していた。ちなみに通っていた学校は、三階までは普通の教室があって四階は音楽室だったり、美術室、介護実習室、などの特殊教室しかなかった。なので四階にはほとんど来ることのないMさんはその異様な空気感に、嫌な感じを覚えたという。
先輩たちに監視されている以上、それでも行かないとという使命感を優先させると、震える後輩を引き連れて旧館の一番奥へと向かった。
廊下の一番奥はアルファベットのLのように角になっていて、その角に展望室へと上がれる階段があった。街中に学校がある立地だったため、展望室から外を見ると綺麗な夜景が見えたそうだが、そんなものを楽しむ余裕はなかった。とにかくさっさと電気を点けてここを離れよう、それだけが脳内を埋め尽くしていた。
電気のスイッチを探して明かりを点ける。展望室も普段はほとんど来ることのない場所、というより、鍵が閉まっていて入れないため、こんな時でもないと入ることすら出来ない場所だった。中は六畳ほどのそれほど大きくもない部屋で、周りは窓しかなく、天井も蛍光灯があるだけの殺風景な部屋だった。
とても首吊りが出来るような場所ではなかった。そうMさんは語っていた。
用は済ませたから早く離れよう。後輩を先に退出させて、Mさんは展望室の電気を消した。それから逃げるように先輩たちの待つ二階の踊り場へと戻ってくると、先輩が一言。
「アンタ、部屋の電気消し忘れてるよ」
とのこと。
は!? と思って廊下の窓から展望室を見ると、さっき消したはずの電気が点いていた。
間違いなく消した。そうMさんは説明しようと思ったが、実際に展望室の電気は点いている。仕方なくもう一度展望室に行こうとするが、後輩の子は怖がって行きたくないという。もちろん先輩方は言わずもがなだ。諦めてMさんは、一人で懐中電灯片手に展望室へと向かった。さすがに一度行った場所だからか、さっきよりは怖さも薄れていた。軽い足取りとまではいかないまでも、さっさと展望室まで上がると、点いていた電気を消し、また二階へと戻っていった。すると、
「ねぇ、なんで一度消してまた点けたの?」
いや、そんなはずは……。言葉に従うようにまた展望室を見る。やっぱり消したはずの電気が点いていた。さすがにこれ以上は怖くなったMさんは渡り廊下にいる部員全員に今まであったことを話した。それならと何人かでその展望室まで行って、そこで消した電気がまた点くかどうか試してみようという話になった。
展望室で待機するグループと、それを見るグループに分かれて実験を行った。Mさんは監視するグループにまわって、肝試しに参加していた三年生が展望室へと向かった。向かってから数分して電気が消えた。が、また電気が点いた。それと同時にたくさんの悲鳴が聞こえてきた。
悲鳴と一緒に走って帰ってきた三年生は泣いていた。なんでも電気を消してさあ戻ろうかと部屋を出た瞬間に電気が点いたそうだ。さすがにそんな目に遭ったせいでその場にいた全員がパニックになって逃げるように走って帰ってきた。
もうこれ以上はやめようということになり、電気に関しては朝になったら消しに行こうという話になり、それぞれの寝室へと戻った。朝になって展望室に行くと、スイッチは切れていたそうだ。
これが展望室で首吊り自殺をした女子生徒の仕業なのかは知らない。が、あの時泣いていた三年生の顔を見てスカッとしたわぁ~と笑っていたMさんの方がその話の数倍怖かったとは当時の俺は口が裂けても言えなかった(もちろん今でも言えない……)
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