第26話 視線
学校の七不思議ってあるだろ?
よく聞くのはトイレの花子さんとか、理科室の人体模型とか、音楽室のベートーヴェンとかが有名だと思う。あれってドラマや漫画なんかによく出てくるはずなのに、実際のところ七不思議のある学校ってあまり聞かない。せいぜいあっても2、3個あればいいほうだろう。それ以前にトイレの花子さんだとか、理科室の人体模型なんかの話自体実際には聞かないが。
今まで何度か俺が通っていた学校の話をしたことがあると思うけど、いろいろと起こっている割に、俺の通っていた高校で噂されていた怪談話の類は聞いたことがない。一応、部活の先輩からはいくつかの噂話を聞かされたことがあるが、それが学校中に伝わっているとはいえず、どちらかといえば部の中で広まってるローカルな噂話の範疇でしかなかった。
実際に俺が聞いた話だと、
1.旧館2階にある階段の踊り場の鏡を見ると良くないことが起きる。
2.新館2階にある女子トイレの個室に血まみれの手形が現れる。
3.吹奏楽部部室の金管楽器側(当時は木管楽器、金管楽器で部室が分かれていた)に女性の霊が出る。
4.多目的ホールに女の子の幽霊が出る。
5.夜になると展望室にそこで首吊り自殺をした女子生徒の影が映る。
ざっとこんなところだろうか。他にもいくつかあったと思うが、もう十数年も前の話だからあまり覚えていない。
さて、ここまでで何かに気づいた人もいるんじゃないだろうか。3番目の話と4番目の話は過去に俺が話した話だということに。3番目の話に関しては俺が実際に体験した話で、4番目の話は先輩たちが経験した話。他の3つに関してはただの噂話だと思いたいところもあるが、少なくとも内2つは実際に経験していることもあって、ただの噂話で片付けてしまうのもちょっと難しい。
ところで俺の通っていた学校というのは俺が入学する前までは女子校だったところで、俺が入学する年に共学に変わったそんないきさつがある。当然、入学した年に共学になったものだから、当時全校生徒がだいたい1000人ほどいたらしいが、内男子は37人しかいなかった。そのことを他校の友人に話すと、「なんだよリアルハーレムじゃん」と冷やかされたが、いいえとんでもない。ハーレムなんて夢でしかないんだよと小一時間説教したことがある。
ずいぶん前に共学と女子校の違いみたいな漫画がネットに上がっていたが、だいたいのことを共感してしまえるくらいにはちゃんと描けてんなぁと思ったことがある。
それはさておき、そんな環境だったせいもあってか、部活内とはいえ、部内恋愛をする部員が多く、それによってモチベが上がったり、下がったり、いろいろあったせいで部にいられなくなって退部したりといろんなドラマがあった。
ちなみに何話か前に話した内容で合宿をしていたと話していたが、そんな環境だったから真夜中にそっと抜け出してふたりっきりで空き教室でいちゃついたり、自販機のあるところでいちゃついたりとまぁいろいろあったそうな。それを青春もしくは性春と呼ぶかは各個人にお任せします。あ、俺? 俺はそういうのとは無縁な高校生活だったから……。
これは吹奏楽部の後輩が話してくれた体験談。
ちょうどそれが起きたのは彼(仮名としてAと呼ぶ)が高校三年生だった頃の話。全国大会に向けての練習も日々厳しさを増していく中で、一ヶ月後に行われる地方大会に向けて彼らは合宿をしていた。
季節は夏から秋に変わろうとしていて、その日は学校の中庭にある噴水に集まっていたそうだ。俺の学校は上から見ると△のような形をしていて、その真ん中に噴水があり、昼間なんかはそこでお弁当を食べたりする生徒もいた。
ウチの学校は三年生でも二学期の終わりもしくは三学期の頭くらいまで部活動をしていたため、その地方大会が終わって仮に全国大会に行けなくても、そこで引退とはならない。彼ら三年生の最後の集大成として定期演奏会があり、それが三年生の引退の場となるため、長い時には卒業の二週間前まで部員でいることもある(俺がそうだった)
真夜中の中庭。噴水の周りで彼ら三年生は引退まで半年を切って、今後の進路だったり、部の行く末なんかを語り合っていた。時には恋愛の話なんかもあったりして、○○と××がくっついただの、別れただの、初めての経験をしただの、そんな思春期らしい会話もあったらしい。
そんな中、ふと仲間の一人があたりを見回していた。Aが「どうした?」と聞くと「なんか見られてる気がする」と一言。その言葉に他の仲間も「何言ってんだよ」「怖がらせんでよ」と笑ったり文句を言ったり、多種多様な反応だった。
Aも笑いながら「先生じゃない?」と話していたが、実際、それはそれで厄介なことになる。けれど、当然ながら真っ暗闇の中で誰かが見ているわけもなく、他の部員は夢の中。ここにいるのはAを含めて男女六人しかいない。
「もしかして○○じゃない? 今日の夜××と一緒に寝るって言ってたし」
「あー、じゃあそうかも。もしかしたらあそこの空き教室にでもいるんじゃない?」
誰かがそう言うときっとそうだよという声が上がった。Aもその言葉に乗っかろうとしたが、一人だけ浮かない顔をしていた。そう、さっき見られてる気がすると言ったBだ。Bだけが様子がおかしかった。
そういえばBも霊感が強いとか言ってたっけ。中学の頃から一緒に過ごしていたAはそんなことを思い出した。吹奏楽部には他にも霊感が強い人が何人かいたが、Bもその一人だった。
ま、でも俺は見えないから気にしなけりゃいいか。Aはそう思うことにした。
それからも話は弾んで、気が付けば時刻は2時を過ぎていた。さすがにこれ以上遅くなると翌朝の部活に支障が出ると思った彼らは引き上げようとした。
すると──、
バンッ!
どこからか窓ガラスを叩くような音がした。
その場にいた全員が体をこわばらせた。しかし、きっと俺たちを見つけた○○が驚かせようとしたんだと思った。しばらく待ってみたが、○○は姿を現さなかった。
気のせいか……? そう思った次の瞬間、
バンバンバンバンバンバンッ!
さっきより大きな音で窓ガラスを叩く音が中庭を取り囲むように響く。そして、彼らを見張るように現れた無数の目、眼、め……。その視線は一階から三階、それも旧館、新館のすべての窓から彼らを見ていたという。
彼らは怖くなり慌てて中庭から逃げ出し、そのまま寝室になっている多目的ホールに飛び込むと朝まで固まっていたそうだ。
朝になって起きてきた○○に事の顛末を話すと、確かに○○は××と一緒に空き教室にいて、戻る時に廊下の窓から中庭にいるAたちを見たらしいが、窓なんて叩いてないし、変なものも見てなかった。そのあとで「怖がらせんなよ。ったく、また他のところ探さなきゃな」とぼやいていた○○をAは無性に殴りたくなったらしい。
結局、それ以来その視線とやらをみることはなかったというか、怖くなって中庭に集まること自体しなくなったそうだが、俺も知らなかった噂話に、まさか卒業してから震え上がるとは到底思わなかった。
今の学校がどんな風になっているかは知らないが、もしかしたら誰かを覗く視線が今もあるのかもしれない。
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