第25話 ちょっと笑える話 ~ぺたぺた~

 これはつい先日の話。その日はとても暑い日で、たくさん汗をかいたからさっぱりしようとシャワーを浴びることにしたんだ。時間は確か夜の10時を過ぎた辺りだったかな。それで脱衣所でシャワーの準備をしながら、次のじつはじつわは何を書こうかと考えていた。


 と、どこからか「アー」とか「マー」といった高い女性のような声にならない声が聞こえたんだよ。その瞬間全身を鳥肌が駆け巡って、暑い夜なのにサーっと血の気が引いてさ、なになに今の!? って服も着てない状態で一人震え上がってた。


 そういや今の家に引っ越してきてから変なことはあまり起こってなかったけど、たまに誰もいない廊下の電気が勝手に点いたり(人感センサーで点くようになっている)してたな……ってそんなことを急に思い出したら怖くなったんだ。もしかしたら俺に憑いてるとかいう女性の霊の仕業なんじゃないかとか、そんなことを一度思ったらもう止まらなくなった。


 そうしたらまたどこからか「アー」って聞こえてもう何なんだよ! って叫びそうになった。そこで声のする方へと近づいてみたんだ。声のした方ってのが台所で浴室と隣接してるんだけど、ちょうど炊飯器がご飯を炊いてる最中で、炊飯器が動いている音がしてたんだ。


 まさか……な。


 俺がそっと炊飯器に近づくと「アー」って声がした。……なんてことない、炊飯器の蒸気口からその女性のような声がしてただけだったんだ。ただ真っ暗な部屋の中でそれを聞いたもんだから、正直怖くてたまらなかった。


 ということで今回は久々のちょっと笑える話です。初っ端から何の話だよ!? と思ったアンタ申し訳ない。でも実際に体験した身としてはいろんなものが縮み上がる気分だったんだ。まぁナニがとは言わないが。


 さて今回はそんなバカバカしいけれどちょっと肝を冷やした笑える話を一つお話しようと思う。タイトルだけ見ると不気味に感じるけれど、ちゃんとオチのある話なので安心して見てほしい。



 それは今から二年ほど前のことだった。その日は昼の暑さが日が落ちてもまだ残っているようなそんな夜で、エアコンをかけて寝てたんだ。エアコンをかけてても寝苦しい夜だったから、妙な夢を見た。どうにも昔から寝苦しい夜だったり、妙に疲れてたりすると変な夢をよく見た。とりわけ多いのがゾンビに襲われる夢だったり、殺人犯に追い掛け回される夢だ。


 ちなみに俺はホラー映画はそれほど得意じゃない。だが嫌いじゃないし、どちらかといえば好きな方だが、毛布を頭からかぶって怖そうなシーンになると目を背けてやり過ごそうとするくらいには怖がりだ。


 そんなわけでその夜も案の定ゾンビに襲われる夢を見てたんだけど、ふとした瞬間に場面が切り替わった。そこは俺の部屋で夢の中の俺も同じように寝ていた。見慣れた天井を見ながら俺寝てんだよな? なんて夢の中だというのにそんなバカな事を考えていた。


 すると部屋のドアがキィィィ……って独りでに開いた。部屋のドアを開けて入ってきたのは白いワンピースを着た女性だった。貞子のような姿といえばわかりやすいか。なんか入ってきた。夢の中で俺はそう思った。


 体を起こそうとするけど、金縛りにあったように動かない。女性はぺた……ぺた……と足音を鳴らしながら寝ている俺の元へ近づいてくる。


 来るな、来るな! ずっとそう念じていた。けれど女性はだんだんと距離を縮めてくる。


 そしてとうとう俺の枕元に立つと、急にガバッ! っと俺に覆いかぶさってきた。

 胸にズシンと重さを感じた。息が苦しくなって、でも体は動かない。どうすることも出来ない。目を覚ましたいのに目を開けることが出来ない。だって、もし目を開けて本当にその女性が目の前にいたら……そう思うと俺の体は必死に拒否反応を示していた。


 ずずず、と女性が顔を俺に近づけてくる。


 そして──、


「にゃー」


 そう鳴いた。


 はえ? と思って恐る恐る目を開けると、そこにいたのはウチの飼い猫(♀)でした。つまり、俺が聞いてた足音ってのが猫がフローリングを歩くときに鳴らしていたぺたぺたって音で、それを寝ぼけていた俺が夢として感じてたというわけだ。


 人のことを驚かせやがって……。猫の顔にデコピンの一つでも食らわせてやろうかと思ったけれど、胸の上でスヤスヤ眠る彼女の顔を見てるとなんだかそんな気分も失せた。


 あくまでこれは寝ぼけた俺が勝手に作り上げたイメージなんだけど、もしかしたら飼い猫が夢に人間の姿を模して現れた、そんな風に思うといくらなんでもファンタジーが過ぎるだろうか? それっきりそんな夢は見ないけれど、もし飼い猫と話すことが出来るなら一度話してみたい気もするそんなお話でした。

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