第24話 そこに潜むもの

 昔話をしよう。俺が生まれるよりずっと前、この国は他の国と戦争をしていた。その結果、たくさんの人が亡くなり、多くの家や建物が壊され失われた。


 俺の地元富山も他の土地同様、多くの人が亡くなり、いくつもの建物が失くなった。ちなみにこれはほとんど知られていないことで、原爆を使用していない空爆による被害を受けたのは東京や長岡が有名だが、最もひどい被害を受けたのはここ富山だ。その被害は99.5%、つまり市街地のほとんどが燃やされ失くなってしまった。


 俺の祖母も戦争体験者で、小学二年の頃に富山の空襲を経験している。空から降ってくるたくさんの焼夷弾が辺りを燃やし尽くし、人々は焼かれ、水を求めて富山の街を流れる松川にたくさんの人が飛び込み、命を落としたそうだ。その地獄のような光景を話してくれたことがある。


 富山には戦争時に多くの建物が失われたが、未だに残っている建物が二つある。一つが富山県庁舎、もう一つは電気ビルと呼ばれる建物だ。電気ビルの内部では空襲の跡が残っているそうで、今では見ることが出来ないが、それでも内部は戦前の空気が残るそんな場所になっている。


 さて、今回はそんな戦争にまつわる話ではないが、それに関する話をしようと思う。以前、俺が通っていた高校での話をしたと思う(振り返ってはいけない、学校にて、心霊写真)この学校は変わった形をしていることもあって、いろいろなものを呼び込みやすいとかなんとか。これは俺が先輩から聞いた話なのでどこまで本当かは知らないが、ああなるほどと思う話だった。



 俺が所属していた部活は吹奏楽部で、今じゃほとんど活動していないようだが、先輩たちが活動していた頃はそれなりに結果を残していた学校で、何度か全国大会に出場している。ちなみに俺が所属していた頃は残念ながら全国に行くことは出来なかったが、下の世代がそれを達成している。


 俺たちが練習するときは各教室に別れたり、防音の効いた広間で合奏をしたり、体育館やグラウンドで練習したりさまざまなところで練習する。そのうちの一つ、多目的部屋があるんだが、そこは俺たちの合奏部屋のようになっていて、俺たちの楽器なんかが置きっぱなしになっている。


 そこでいつものように練習していた先輩たちは全国大会を目指して休みも返上して昼夜ずっと練習していた。それは厳しい練習で辛くて泣き出してしまう人もいたそうだ。


 そんな中、ある部員の中に霊感が強い人がいて、いつもここは嫌な感じがすると言っていたそうだ。もちろん彼女たちも半信半疑だったが、いつも真面目な顔をして言うものだから、きっと本当のことなんだろうと思っていた。ただ今は幽霊よりも自分たちの練習が大事だったから、それほど気にも止めてなかったとのこと。


 しかし、合宿をするにあたって、その部屋に寝泊まりすることになったんだが、霊感の強いその女子はとにかく嫌がった。理由を聞いてもここは嫌だの一点張り。さすがにみんなピリピリしていたせいか、そんなわがままは聞けないと口々に話していたが、それでも嫌がったのでその生徒は多目的ホールとは違う、和室に寝ることになった。当時はかなり部員がいたそうで、多目的ホールは上級生が、和室のほうは下級生が使用していたそうだ。ちなみに俺が所属していた頃は多目的ホールだった。パーティションで分割出来るホールでその横にはなんでか女子が寝ていたがまぁそのあたりのことはいずれまた話そう。


 霊感の強い生徒がいなくなると、ようやく部屋の中は落ち着いていたが、あまりにも抵抗されたため、さすがに霊感のない彼女たちも恐怖を感じていた。が、それ以上に疲れが勝り、気が付けば全員寝てしまっていたそうだ。


 そんな中……、


「いやあぁぁぁぁぁ!」


 と叫ぶ声。その場にいた全員が飛び起きた。電気をつけると全員顔を見合わせていた。誰の声? わたしじゃない。わたしでもない。あちらこちらからそんな声が溢れる。じゃあ今の誰の声? そうしているうちにその部屋の空気が張り詰めたものに変わっていく。


 怖くなってひとかたまりになる。すると、ホールの扉がガチャっと開いた。


 誰かがひぃっと息を漏らした。そこにいたのは霊感の強いあの生徒だった。


「みんな大丈夫?」


 そう彼女は言ったそうだ。なんでも寝ていると嫌な夢を見てしまい、起きていたら悲鳴が部屋の外から悲鳴が聞こえた。そこで心配になって降りてきたという。それで部屋の中に入ると案の定、何かあったんだろうと思われることになっていたとのこと。


 部屋の中に入った彼女は、あ、という顔をしていた。それだけでその場にいた全員が何かを悟った。


 何かいるの? その中にいた一人が尋ねる。すると「そこにいる」と彼女は指さした。


 指さしたそこは多目的ホールの窓。カーテンがかかっているそこに彼女は“誰かいる”と答えた。その言葉に不安を感じるが、そのままにしておいても眠れない夜を過ごすだけだと思い、何もなければそれでいい、と言い聞かせて全員でそのカーテンをめくった。


 そこには──全身が焼けただれた少女がうずくまっていた。そして彼女たちを見るとすうっと消えていったそうだ。


 いやあぁぁぁぁ! とその場にいた全員が絶叫した。そしてその夜ひとかたまりになったまま全員朝まで過ごしていたとかなんとか。


 ちなみに俺の通っていた学校の近くにはその松川が流れていて、俺は話を聞いてあーなるほどなと思った。余談だが、霊感の強い友人曰く、この学校には戦争で失くなった方が結構いるとのこと。きっと話に出てきた少女もそのうちの一人だったんだろう。そう思わずにはいられない出来事だった。

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