第23話 ソウシナハノコ
これはつい二日ほど前の話をしよう。
俺が家で寝ているとピンポーンと呼び鈴が鳴った。俺は前日暑かったせいもあってパンイチ(パンツ一丁)で寝ていたんだ。だから慌てて飛び起きて、近くにあったTシャツを適当に着るとバタバタと階段を降りた。宅配便かなにかかと思っていたから、何も考えずに玄関のドアを開けた。ドアの向こうにいたのはパッと見大学生くらいの若い男性。黒髪にメガネで大人しそうな顔立ちをしていた。男性はドアを開けるなり家の中に押し入ってきて、「エアマックス」と言いながら持っていた果物ナイフで俺の腹部を刺した。
そこで俺は目を覚ました。そう、これは二日前の朝に見た夢の内容だ。余りにもリアルな夢だったから今でもはっきりと覚えている。夢の中の俺が思ったのは、こんなご時世だから強盗が入っても仕方ないなということ、それとチェーンロックはちゃんとかけようってことだ。
ということで今回の話は夢に関するお話。ちなみにアンタは夢を見るほうか? そう聞くとよく見ると答える人もいれば、あまり見ないと思うという人もいるだろう。
ある研究者の話だと、全ての人は毎日かならず夢を見ているという。それも一日に複数の夢を見ているとか。ただ、夢を見ないという人は単にその見た夢を覚えていないだけで夢を見ない人はいないということらしい。
夢というのは脳が見たものを整理している状況らしく、パソコンのハードディスクの最適化がわかりやすいかもしれない。あの最適化もハードディスクの読み込み速度を上げるために行われているもので、人間の脳でも同じようなことがあると研究結果が出ている。
もっとわかりやすく言えば、本棚があるとしよう。その中にたくさんの本があって、しかし、大小様々、ジャンル違えば50音順にもなっていない。ところどころ隙間もあって乱雑になっている。その中でお目当ての本を探せと言われるとどうなると思う? どこに何があるかわからない状況で本を一つ一つ見て回らないといけない。すぐに見つかる場合もあるし、何時間もかかる場合もあるかもしれない。これがパソコンのハードディスクで行われていて、そのため処理スピードが落ちる原因といわれている。要は人間の頭も同じでぐちゃぐちゃになっている状況だと何が何だかわからないということになっていて、最後にはやる気が失くなってしまう。それを未然に防いでるのが夢を見るという行為というわけだ。
しかし、世の中には予知夢なんてものもある。あれは一体何なんだろうな。正夢なんかは自分が見たものが現実に起こったことだと錯覚することで夢が現実になったと思い込むことなんだが、ここで俺の友人から聞いた体験談を一つ話そう。
その友人は実家の客間で寝ていて、夢を見たそうだ。その夢の中の友人も同じ実家の客間に寝ていて、時刻は真夜中だったそうだ。するとどこからかキキィー! と大きなスキール音(車のタイヤが急激なコーナリングやブレーキにより発生する音のこと)が響いた。そしてそのまま自分の家の客間に車が突っ込んできた。その瞬間友人は慌てて起きてそれが夢だと知って安心したそうだ。しかしその直後、外からキキィー! と大きなスキール音が響いたと思ったらバーン! となにかがぶつかる音がした。外に出てみると、一台の車が実家の向かいの家に突っ込んでいたという。友人はそれを見て一歩間違っていたら自分の方に突っ込んできていたかもしれない、つまり正夢になったかもしれないと思ったそうだ。
ここで疑問なのが、友人が見たのは一体誰の夢だったんだろう? ということだ。夢の通りならその事故を起こした車は友人のいる客間に突っ込んできたはず。しかし実際に突っ込んだのは向かいの家だった。ということは、友人が見たのは向かいの家の人の夢だったということになる。じゃあ夢とはなんぞや? ということになり、結局わけがわからなくなる。正直なところ夢に関するメカニズムはまだ完全に解明されていないのだ。
さて、いつものとおり長い前置きからの本題。これは俺が高校生の時に後輩に聞かされた話。なんでもこの話を聞くとその夢を見てしまうのだとか。その内容というのが、
目の前に階段があってそこを上がること。決して下がってはいけない。
階段を上がりきったら、次にドアが四つあるからそのうちの右から二番目のドアを開けること。
そのドアを開けたら今度は道が三つに分かれているから、左を選ぶこと。
左を曲がったら女性がいるが、決して話しかけてはいけない。もし追いかけられたら全力で逃げろ。それでも逃げきれなかったら……。
そしてその夢を見たらかならずこうつぶやく事。
「ソウシナハノコ」
と。
ん? 全然怖い話じゃないって? まぁそうだな。だって「ソウシナハノコ」だからな。ただ当時の俺はその話信じてて眠れなかったんだよ。ただでさえ変なことがよく起きるアパートに住んでたから、また変なこと起きたらいやだなぁってさ。まぁ幸いにもそんな変な夢は見なかったんだけど、代わりにずっと耳元でゴニョゴニョ聞こえてたあれは一体何だったんだろうなってのは未だに思う。
だからこの話は「ソウシナハノコ」じゃなくて「じつはじつわ」なんだよ。
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