第20話 すいません(前編)
いつもこのじつはじつわを見てくれてる人ってどんな人なんだろうなぁと考えることがある。中学生や高校生もしかしたら大学生もいるかもしれない。はたまた俺みたいに社会人やってる人もいるだろうし、主婦だったりもしかしたらクリエイティブな仕事をしている人もいるかもしれない。要はいろんな人が見てくれているということだ。
ところでアンタはバイトとかしたことあるか? 学生さんでも高校生からじゃないとバイトは出来ないからもしかしたらしたことないって人もいるだろう。まぁ最近じゃ14歳の挑戦ってのもあるから職業体験をしたことがある人もそれなりにいるだろう。
かくいう俺も今は自動車関係の仕事に就いているが、それ以前はイタリア料理屋でトマトソースを作っていたり、とんかつ屋でウェイターをやっていたり、ガソリンスタンドで働いていたり、工場で派遣社員もやってた。要はいろいろやってたってことだ。
日本じゃ一つのところでずっと長くやるほうが美徳とされているが、外国ではスキルアップと称していろんなところに行くほうがいいとされている。日本もこれからさらに多様性の時代に入って、こういった外国の考えが強くなってくるのかもしれない。
さて、今回の話は俺がそういったいろんなところで体験した不思議な話をしようと思う。俺が初めてバイトをし始めたのは高二の夏だったか。動機としては母子家庭で大変だったからせめて小遣いや学費くらいは自分で稼ごうと思って始めたんだ。部活との両立は大変だったし、バイト先にも結構迷惑かけたと思う。それでも最後まで雇ってくれたバイト先の社長さんやバイト先の先輩や仲間には感謝している。ちなみに最初のバイト先は前述のとんかつ屋だ。
以前からいろいろ話しているが、どういうわけか俺の周りには不思議なことが起きやすい。それが俺のせいなのか、はたまたまた何か別の要因があるのかどうかはわからない。今回話す内容はどれも同じような体験だが、違うとすればいずれも場所も時間も職種も違うということだ。それではそのいくつか体験した内容を時系列順に話そう。
俺が最初にそれを聞いたのは高校を卒業して最初の年、コンビニで深夜のアルバイトをしていた頃だ。その日は仲のいい女の子のバイトと二人きりで他愛もない話をしながら過ごしていた。今はどうか知らないが、当時の深夜のコンビニは規則が緩く、廃棄予定の商品を食べながら控え室で喋っていた。
中にいてもお客さんが来たら来店アラームが鳴るし、一応監視カメラも確認していた。そこで俺は見た。俺が働いていたコンビニの扉は自動ドアじゃなくて手で開閉するタイプの扉だった。その扉が大きく開いたと思ったらバタンとしまった。それは一緒に働いていた女の子も見ていて俺の顔を見るなり「見た?」と聞いてきた。俺も見たと言うと二人揃って恐る恐る売り場まで出る。風の仕業か? とも思ったがその日は無風で天気もよく、それなりに重さがある扉が開くとは到底思えなかった。気味が悪いと思いながらその日は過ぎていった。
それから別のシフトの日にそんなことがあったことも忘れていて、俺はバックヤード(商品が置いてある倉庫のような場所)で飲み物の棚の補充をしていた。飲み物の棚とバックヤードは繋がっていて、そこから店内をのぞき見ることが出来る。一人はレジに立っていたが、店が混雑してきたらすぐに出られるように俺は店を注視しながら補充していた。すると急に向こう側からじっとこちらを覗き込む顔が見えた。一瞬ビクッとしたが、商品を探しているんだろうと思っていた。が、その顔は商品を見ていたのではなく、“バックヤードにいる俺を”見ていた。あまりの気味悪さにそこから飛び出して店内に戻るが、俺を見ていたらしき人影はいなかった。しばらくして俺はこの店を辞めた。
次に俺が体験したのはコンビニの次に働くことになった店、これがイタリア料理屋だった。そこで俺は厨房を担当することになったんだけど、この店は本格的なイタリア料理屋で製麺機で生パスタを作り、トマトソースやミートソース、ピザ生地に至るまですべて自家製といったところだった。ちなみに俺が入って最初に担当したのは店の要ともいえるブイヨン(洋風だし)だった。次の日は同じく要ともいえるトマトソースだった。ちなみに俺は料理初心者だった。
そこで俺は朝はブイヨンやトマトソースを仕込み、昼はランチタイムでひたすら用意していたランチプレートを準備&ピザを伸ばして焼いてを繰り返していた。夜は立地のせいもあってかものすごく暇な店だったから翌日の仕込みだったり、ピザ生地を作ったりパスタを作ったりしていた。このおかげで十何年経った今でもトマトソースやピザ生地程度なら目分量で作れるまで成長した。
ここで体験した不思議な話ってのはちょうど昼のランチタイムに向けて準備していた時に、食材を運んでくる業者さんが九時から十時ごろに来るんだけど、いつも「すいませーん」って入ってくるんだ。それで俺らは仕事してて「すいませーん」って聞こえたから「お疲れさまでーす」って返したんだ。けど誰もいなかった。その場にいた料理長や先輩と顔を見合わせて「聞こえたよな?」「はい」と話していた。が、ホールにいた女の子たちには聞こえてなかったらしく、「すいませーん」と聞いたのは厨房にいた俺を含めた三人だけだった。ここではその一回だけだったんだけど、ホールから「今呼んだ?」とか聞かれることがしばしばあったからここも何かあったんだと思う。ちなみにこの店はずいぶん昔になくなってしまった。
と、ここまで話してきたが実はまだ続きがあるんだ。ちょっと長くなったから続きはまた次回お話しようと思う。
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