第19話 8号線
今回も前回に引き続きちょっと笑える話をしていこうと思う。
この国には国道と県道があるが、そんな国道、県道に関する昔聞いた小話を一つ。
ある老婆が運転する車がゆっくりとした速度で走っていた。その道路というのが制限速度というのが時速40キロの道路で、しかし車はその半分の速度である20キロで走っていた。もちろん制限速度を守っているのでルール違反にはならないのだが、交通規則の中に交通の流れを妨げてはいけないという規則がある。これは速度に関しても同様で、制限速度内という制約はつくが、その中でも交通の流れを妨げてはいけない、つまりゆっくりと走りすぎてもいけないという規則がある。その為あまりにもゆっくりと走っているせいで、長い渋滞が起こってしまい、それをみかねた警察官がその老婆の運転する車を止めたんだ。そして運転していた老婆に警察官は尋ねた。おばあさん、どうしてそんなにゆっくりと走っていたのかと。ここは制限速度40キロだからもっと速度出しても大丈夫だよと説明もした。するとおばあさんから帰ってきたのはこんな言葉だった。
だってあそこに20って書いてあるからそれに従っていたのよ、と。
警察官はその言葉を聞いてひどく驚いた。なぜならおばあさんが指さしたのは速度を表す標識ではなく、国道や県道を表す標識だったのだから。警察官はははぁなるほど。これで納得がいったと思っていた。すると警察官の無線にこんな連絡が入った。
ついさっきそこの国道120号線で暴走した車が県道20号線に向かって走って行った。車の特徴はシルバーの軽四で……とのこと。その特徴に該当する車というのが今目の前にある軽四というオチの話だ。
そんなわけで日本には数多くの国道、県道がある。これらを文字って酷道やら険道なんていうのもある。これは普通の道とは違い、車で走行するのがあまりにも危険だったり大変な道を指す造語だ。そういった酷道や険道を走ってみた動画なんかもネットに上がっているから興味が有れば見てみるといい。俺の地元にもそんな酷道や険道があるが、それの比じゃない道が多くあった。そのまま行ってしまうと異世界に連れて行かれるんじゃないかと思うような道もあった。
さて、いつもの通り長い前置きからのようやく本題だ。今回は俺の地元、富山県にある国道8号線についての話をしようと思う。この国道8号線は東は新潟県、西は石川県まで続いている富山県でも一番大きな主要道路だ。そんな国道8号線、通称8号にはちょっと変わった場所が存在する。その場所はちょうど富山市から射水市にかけて存在しており、過去にはワイドショーでも取り上げられ、全国の珍名所みたいな紹介を受けていたと記憶している。
ちなみにだが富山県は海に面している日本海側の件で、古くは北海道から来る北前船との交易が行われていたそうだ。そのせいか昆布の消費量は全国一位だ。今では富山新港や伏木港などが中国やロシア、韓国など海外との貿易拠点の一つになっている。ちなみに以前話した坪野鉱泉の行方不明になっていた二人が見つかったのもこの富山新港近くでのことだ。
さて、そういったこともあってか富山には外国から来る方が多い。割合で言うとロシアや中国、中東系の方が多い印象だ。彼らはタンカーや貨物船で輸出入を行っている船員で、中には富山に住居を構えて彼ら相手に仕事をしている人もいる。補足として日本車というのは壊れにくく、品質がよく、海外では人気がある。そのため日本では値段がつかないような中古車でも向こうでは日本車というだけで値がつくため、盗難被害も多い。
説明が長くなったが、つまりはその8号線沿いには彼ら外国人が運営する外国人向けの中古車屋が多く点在しているのだ。そのため彼らは母国へ持ち帰るための中古車を買い付けるために日々自転車を漕いで点在する中古車屋を巡っているというわけだ。8号線を走ると見慣れない国の言葉だったり国旗が目に付く。俺は昔から見慣れた光景のせいかあまり何にも感じないが、県外から来る人はそれが異様に見えるのだとか。
以前お話した友人の奥さん曰く、この8号線には女性の霊がいるらしく、白い車の上を次々と飛び移っては車内を覗いているのだとか。詳しいことはわからないが自分を撥ねた車をさがしているんじゃないかということだ。これは聞かされるまで知らなかった。これは笑える話じゃなくゾッとする話だな。
これは俺が19の頃に体験した話だ。その時の俺は家庭教師に勉強を習っていて富山市から高岡市まで電車で行ってたんだ。けれど地方の電車ってのは都会の電車と違って一本逃すと次の電車が車で30分近くかかる。それに電車賃も決して安くない。そこで俺は考えたのが自転車で行けばいいじゃんというある意味無謀な考えだった。俺の住む富山市から高岡市までは約30キロほど離れている。車でならそれほど遠く感じないが、こと自転車だと辛い。走ることに特化した自転車ならともかく、その時乗っていたのは安物のマウンテンバイクだ。ママチャリよりはマシって程度のな。まぁそれでもちゃんと走ってくれたから時間はかかったが無事たどり着けた。
そんなある日いつものように8号線を走っていると、後ろから「HEY!」と声をかけられた。声に振り向くと多分ロシアの方だろうか、二人組の一人が俺の横をサーッと走り抜けていった。走り抜けると俺の方を振り返りもう一度「HEY!」と声をかけられた。意味が分からず呆然としていると、相方らしい人がやれやれと肩をすくめて多分ロシア語で「悪いな。あいつお前と競争したいみたいだ」みたいなことを言ってたと思う。言葉はわからないのであくまで俺の勝手な解釈だ。
なので俺も調子に乗ってその人を追い抜き振り返って「ヘイッ!」って言ってやったんだ。するとその人も火が点いたのか追いかけてきてそこから抜いて抜かれてレースみたいな感じになったんだ。そうこうしてると互いに疲れてきて、向こうがこんな感じのことを提案してきた。
「あそこに見える電柱あるだろ? そこに先にたどり着いた奴が勝者だ」
やっぱりなに言ってるのかよくわからなかったが、とにかく勝敗をつけたかったのは俺も同じだったからその誘いに乗ったんだ。
お互い息を整えてよーいドン。
一気に駆け出したんだが、相手はママチャリのくせにやっぱり外国の人だからってのもってパワーもスタミナも桁違いだった。俺も頑張って追いつこうとしたけどグングンと引き離されて、結局負けてしまった。相手の方はよっぽど嬉しかったのかずっと「うぉおおおおお!」って吠えてた。俺は疲れて動けなくなってるところにもう一人の相方がやってきて相変わらず何言ってるかわからなかったけど「お前はよくやったよ」みたいなことを言われてたと思う。俺も一応英語で「センキュー」とか言ってた。
ちなみに俺を打ち負かした彼はずっと俺の方を見ながら吠えてたんだけど、その先に交差点があってそこで車に撥ねられたんだ。前なんて見てなかったから当然といえば当然だ。
俺が「あっ!」と思ってたらさっきまでロシア語で語りかけていた相方が一言、
「マジかよ……」
俺はそっちの方に驚いた。いや、さっきまでよくわからん言葉で俺を慰めてたよなアンタ!? なんでそこだけ日本語なんだよ! と。
一応轢かれた彼は大した怪我もなく擦り傷だけだった。相方の方はやっぱりよくわからない言葉で轢かれた彼を気にかけていた。まぁそのあとは互いに握手して別れたんだけど、未だにあの「マジかよ……」が頭から離れないそんな一日だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます