第18話 ちょっと笑える話 ~ミステリーゾーン~

 このじつはじつわのタグの中には、怖い話や不思議な話というタグに混じってちょっと笑える話というものがある。そんなわけで今回はちょっと面白いけれどある意味ゾッとする話をしようと思う。


 といっても今回の話ははっきりいって怖くない。けれど俺にとってはゾッとする話だ。なんでこんな話をするのかって? ここしばらく怖い話ばかりだったのと、こんなご時世だから少しでも笑える話をと思ってな。今回はそんなちょっと笑える話をしよう。


 当時小学生だった俺はミニ四駆にハマっていて友達と色んなチューンをして楽しんでいた。大人になって思うけど大人になってミニ四駆やるとお金持ってるから、簡単に改造しやすくなるんだよな。いいモーター使っていいタイヤ履かせてボディも骨抜きしたりしてさ。でも子供だと自分の小遣いの中でやりくりしないといけない。でもその限られたお金の中で自分好みのチューンに仕上げることが出来るとすごい嬉しかった。


 そんなわけで良く友達と隣町の模型屋に出かけては新しい車体だったり、新しいパーツを買いに行っていた。俺の地元は一応政令指定都市なんだけど、品揃えのいい玩具屋なんて当時それほどなくて、地元に売ってない車体やパーツを買いに行くとなると車で隣の市や隣県の玩具屋、模型店まで行かないといけなかった。その中で一番品揃えの良かったのが隣町の模型屋にだった。


 ただ隣町といっても自転車で30分ほどかかる。大人になった今だと車があるから大した距離に感じないし、割と近くじゃんと思うけど、小学生の世界なんて自分の校下ぐらい、つまり自転車で行けるような距離しかない。だからこそ見知らぬ隣町は自分にとって知らない世界、異世界のように見えた。


 そんな中、俺はあるものを見つけた。それは模型屋の近くにある自販機でのことだった。その自販機はコカコーラの自販機で、もちろん中に入っている品物も、見慣れたものばかりだった。


 その中に一つだけ妙なものが入っていた。その缶にはミステリーゾーンと書かれていて、確か?マークがついていた。缶自体も緑やら紫やらが入り混じったいかにも毒々しい色をしていた記憶がある。ちなみにミステリーゾーンと聞いてミザリィを思い浮かべたアンタ、それはアウターゾーンだ。わからない人はググってみてくれ。


 さて話を戻そうか。俺はそのミステリーゾーンが気になって仕方がなかった。不思議なことにそのミステリーゾーンは他のどのコカコーラの自販機を探しても見つからなくて、その模型屋の近くにある自販機でのみ存在していた。


 ある日俺はそのミステリーゾーンを買ってみようと思ったんだ。ただ、その日は台風が来ていて普通に考えたら外に出ることも躊躇われるような暴風雨だった。それでも俺は好奇心が勝っていたせいで、後先考えずその自販機へ自転車を走らせたんだ。ものの数分で服はビシャビシャになり、履いていたスニーカーも中はぐちゃぐちゃになっていた。


 必死に自転車を漕いで自販機にたどり着いたんだけど、いつもなら三十分ほどで着くはずなのに、その倍に近い時間がかかった。でも俺はやっと念願のミステリーゾーンを飲めると思ってワクワクしてたんだ。


 ポケットの中に入れていた110円を投入すると、一番上の右端にあるそのボタンを押した。心の中はどんなジュースなんだろうという期待でいっぱいだった。


 ガタンという物音。はやる気持ちを抑えながら出てきたジュースを取り出すと……どういうわけか爽健美茶の缶だった。


 俺は頭が真っ白になった。これはどういうことだろうか、と。もしかして押し間違えてしまったんじゃないかと思った。けれど、爽健美茶のボタンはミステリーゾーンから離れているから押し間違えることはない。じゃあこれはどういうことだ……? 子供ながらに色々想像してみた。商品の入れ間違えかもしれない。もう一本買ってみて確かめてみたかったが、持っていたお金はジュース一本買える程度のお金しか持っていなかった。


 そこで俺はびしょ濡れになりながら模型屋のおじさんに聞いてみた。するとおじさんは申し訳なさそうな顔でこういったんだ。


「坊主、ありゃあな、何が出てくるかわからんからミステリーゾーンなんだ」と。


 つまり今風に言うと、何が出てくるかわからない自販機ガチャというわけだ。おじさんはそれを知ってるから、少ない小遣いで飲みたくもないだろうお茶を手にしている子供に対して、申し訳ない顔をしてたんだと思う。


 それを知って俺は帰り道泣きそうになりながら自転車を漕いで帰った。ただ雨で顔がビシャビシャになっていたから、もしかしたら泣いていても気づかれなかっただろう。そんなこんなで俺の初めての冒険は幕を閉じたというわけだ。今じゃすっかりミステリーゾーンなんて見ることもなくなったけれど、高校卒業したあたりで一度だけ目にしたことがあった。当時のトラウマもあったが、試しに買ってみたらファンタグレープが出てきた。


 余談だが昔の自販機には当たり缶てのがあって俺も人生で一度だけ当てたことがある。中身は確か万年筆だったかボールペンだったか、それと120円(当時の値段)が入ってた。


 そんな遊び心もあった時代だったが、今のこのご時世、そんなことやったら確実にクレーム拡散されそうだな。


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