第21話 すいません(後編)
それじゃあ今回も前回に引き続き、俺が職場で体験した不思議な話をしていこうか。確か前回はイタリア料理屋で経験した不思議な出来事まで話したっけ。
イタリア料理屋を辞めた(正確には閉店した)俺はそこからまた別の業種につくことになった。今度の業種は空気清浄機なんかのメンテナンスの仕事だ。ここでも前回と同じく「すいません」と聞こえることがあった。ちなみに聞こえたのは会社内でのこと。この会社には空気清浄機のフィルターが保管されている倉庫があったんだけど、そこで「すいません」って聞こえたんだ。この時いたのは俺一人。そこには誰もいなかった。
次に聞こえたのは派遣社員をやっていた頃だ。その派遣先の一つでは夜勤の仕事をしていて、おもに製品検査をしていた。そこは密室みたいなところで、基本的に人がいない。別の部署の方もいるにはいたが、時間帯や仕事内容によっては俺一人で仕事していることも多かった。そこでも聞こえたのはやっぱり「すいません」だった。もちろん俺一人の時だから他には誰も聞いていない。
それからなんだかんだあってガソリンスタンドの店員になるんだけど、そのスタン
ドでは前からここには女性の霊がいるんだと聞かされていた。俺はへぇーくらいにしか思ってなかった。まぁ実際に出たのは白い幽霊より黒い物体のほうが多かったから、どちらかといえば怖いと感じたのはそっちのほうだった。
スタンドでは基本外にたっていてお客さんが来たら出迎えて誘導するってのが基本だった。スタンドではお客さんが来ないときは掃除したり書類を片付けたりいろいろしてたんだけど、なにも仕事がないときはボケーっとしながらお客さんが来るのを待つだけだった。
その日もスタンドの前を通る色とりどりの車を眺めていた。すると「すいません」って聞こえた。俺は最初お客さんだと思ってたから「はい」って答えたんだ。だけどさ、スタンドにくるお客さんって車で来るかバイクで来るかなんだよ。たまに徒歩で来る人もいるけど、それでも180度見渡せる場所に立っている俺の視界に入らないってことはない。だからその「すいません」って言った女性の声がああなるほど、これが例の霊かって勝手に思ってた。
それ以来、別の職場にいるが「すいません」と俺を呼ぶ声は聞こえていない。不思議なのは「すいません」って呼ぶのはいずれも女性の声だったんだ。その女性が俺に「すいません」と訪ねたかったのかはわからない。
そしてなによりも怖いのは俺が所属していた会社や店がことごとく閉店したり倒産したりしてることから俺に付いたあだ名がクラッシャーだったり疫病神ってところだろうか。その人たちからしたら本当に怖かったのは俺の方だったのかもな。
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