第15話 赤い本

 俺の子供の頃の話をしよう。


 俺は産まれてすぐに父親に捨てられた。なので家族構成は母親と祖母の三人暮らしだった。正直、父親の顔はおろか名前すら知らない。その割にアンタは父親に似てるなんて言われるものだからたまったもんじゃない。まぁ俺も世間一般で言われるいい年をした大人と呼ばれる年齢になってしまったから今更片親だのどうこうと言うつもりも言われるつもりもないし、父親に会いたいかどうかと言われたらどうでもいいの一言で片付けてしまえるくらいにどうでもいいと思っている。それ以上に素晴らしい友人に恵まれたから余計にどうでもいいと思えているんだろう。


 と、そんなわけで子供の頃はよく児童館なんかで時間をつぶしていた。二人共働いていたから家に帰っても一人だけだし、祖母や母にとってもそのほうが助かっていただろうと思う。


 初っ端から重い話の始まりとなったが、今回の話はその児童館であった不思議な話をしようと思う。



 その児童館は小学校すぐ近くの地区センターにあって、クリスマス会や節分、ひな祭りなんかの季節ごとに行われるイベントの類はこの児童館で行われていた。ちなみに学童保育が行われている施設はもう一つあって、そこは消防団の施設の二階にあった。俺は主にそっちの方ばかり行ってた。距離はどちらもあまり変わらなかったが、俺がそっちの方ばかり行っていたのは、消防団施設のほうが人が多く集まるということもあったが、どうしてもそっちに行きたくない理由があったからだ。


 その地区センターには多目的ホールがあってそこが児童館としての役割を果たしていた。その多目的ホールにはちょっとした本棚があって、その中には子供向けの絵本や漫画で学べる偉人の本なんかが置いてあった。その中に『赤い本』と呼ばれる本があった。


 その本は赤い本と呼ばれているが、別に色が赤い本というわけじゃない。表紙には女の子の絵が書いてあったと思う。うろ覚えだが、赤い帽子に赤いワンピース、赤い靴を履いていたはずだ。真っ黒な背景にその絵本のような女の子のイラストが描かれている、タイトルはわからない。だから赤い本と呼ばれているのかもしれない。


 その赤い本だが、なぜか絶対に読んではいけないと俺たちは教えられていた。じゃあなんでそんな本があるのか? と今となっては思うが、子供の頃の俺はそんなことまで考えられるわけも無く、大人のいうことに従うだけだった。その表紙がなんだか独特で、怖かったのもあったため、俺はその本を読むことはおろか、手に取ることもなかった。


 ではなぜその赤い本を読んではいけないのか?


 それはその本を読むと死んでしまうからだ。


 子供の俺には死ぬってことがどういうことなのかなんてちゃんとわかっていなかったが、それがとても怖いことだということはよく理解していた。


 赤い本が読んではいけない本だということは俺以外の友達も知っていた。だから当然のようにその本を読むことはなかった。


 そんなあるとき、俺の友達の一人が地区センターの職員にどうして赤い本を読んではいけないのか? と聞いたことがあった。子供ながらに読んじゃいけないとはいえ、興味があったんだろう。俺はそんな事を聞くだけでも怒られると思っていたから聞くこともしなかった。しかし帰ってきた答えは俺たちの思っていたものとは違っていた。


「赤い本ってなに?」


 職員さんはそう言ったという。そもそも大人たちは赤い本の存在を知らなかった。でも俺たちは確かに○○さんにこの本は読んではいけない、読めば死んでしまうと教えられた。しかし、その職員さんが言うには○○さんなんて人は地区センターにはいないという。じゃあ俺たちが出会った○○さんってのは一体なんだったんだろうか。それ以降俺は地区センターに行くことがなくなってしまい、赤い本の行方はわからなくなってしまった。友人が言うにはあの一件以来赤い本は本棚からなくなっていたそうだから、もしかしたら気味悪く思った職員さんによって片付けられてしまったのかもしれない。


 ふと思い出した時に赤い本のことを思い出す。一体あの本はどんな内容だったのか、そして○○さんとは一体何者だったのか、どうして読めば死んでしまうのか、それは未だにわからない。もしこの本を見かけても決して読んではいけない。もしかしたら本当に死んでしまうのかもしれないし、はたまた○○さんがアンタの目の前に現れるかもしれないからな。


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