第14話 根がかり
ことりと聞くと何を思い浮かべる?
『スズメやセキレイなどの小鳥』
そうか。アンタは常識的な感性の持ち主なんだな。
『コトリバコ』
そうか。アンタはオカルト話に詳しいんだな。
『小岩井ことり』
そうか。アンタは声優さんに詳しいんだな。
『南ことり』
そうか。俺は海未ちゃん推しだ。だが花陽ちゃんも好きだ。
と、世の中にはいろんなことりがある。他にも挙げたらキリがないのでこの辺りで留めておくが。
さて、俺の地元にはことり沼と呼ばれる沼がある……らしい。らしいというのは俺自身、このことり沼がどこにあるのか実は知らないんだ。実際にこの沼の話はことり沼と検索すると出てくるので興味があれば見てみてほしい。
今回の話はそんな沼または池などの水辺に関するお話なんだが、アンタは釣りをしたことがあるか? え? 女の子なら毎日のように釣りに行ってるって? 果たしてその釣果はどんなもんだろうな。ほどほどの釣果ならうらやましい限りだ。
俺も中学生の頃は大して釣りのつの字も分かっていなかったが、友人たちと朝から地元の漁港に出かけては適当に釣りを楽しんでいた。本格的な人だと船をチャーターして沖合まで出たり、釣り場でちゃんとした仕掛けを用意して遠投釣りなんかしたりするんだろうけど、あいにくと俺はそこまでハマる前にやめてしまった。他にもやりたいことがあったからってのもあるけど、他にも理由があってな。
また話が脱線してしまったが、本題へといこうか。そんな釣りの話なんだが、これはあるダム湖で起こった実際にあった話。もちろん信じるも信じないもあなた次第だ。
その日俺は友人と一緒に地元にあるちょっと山よりのダム湖に来ていた。そこは市街地から車で三十分ほどの場所にあり、その日は友人の親に連れられてその場所にやってきた。市街地にほど近い場所といっても、猪や猿、熊なんかも出るところらしく、初めて訪れるそんな不思議な場所に子供だった俺は妙な恐怖心と好奇心を抱いていた。
このダム湖は一応○○ダムと呼ばれてるが、ダムと聞いて想像するほど大きくはない。周りにはそのダム湖を周回出来る遊歩道があり、深くはないが広さはそれなりにあるそんな場所だった。ここは誰かがブラックバスを放流したせいで、一応釣りが出来るとのこと。
俺たちは用意した釣竿とルアーを準備すると、釣りをするのにちょうどいい場所を見つけそこで獲物を狙うことにした。友人の持ってるルアーはそれなりにいい値段のするものらしく、見た目からしても獲物が食いつきそうなそんな見た目をしていた。俺のは……まぁ安いなりの見た目をしたワームだった。
友人は買ってもらったばかりの高級ルアーの性能を早く試したくてウズウズしていたらしく、場所を決めるなり一目散にルアーを投げ入れていた。俺もそんな友人に感化されたようにルアーを投げ入れる。その時連載していた釣り漫画の影響もあって、そんなことやったって無意味だろ、と言われそうな妙な技を繰り広げたりしながら俺たちは楽しく釣りを楽しんでいた。
お目当てのブラックバスはなかなか釣り上げることは出来なかったが、フナなどの小さい魚はちょいちょい釣れた。そんな中、友人の竿がクン、と大きくしなった。
かかった! と大喜びで竿を引く。結構な引きの強さだった。これは結構な大物かもしれない。友人は彼のお父さんに手を貸してもらいながら竿をうまく操る。しかし、竿はしなるばかりでその距離が縮まることはない。これもしかして根がかりじゃないか? お父さんがそう言う。根がかりっていうのは読んで字のごとく、釣り針が水中にある水草や木の根、また石や岩などに引っかかってしまうことのことをいう。上手くこれを解消する方法も確かにあるが、失敗すると釣竿が折れてしまったり、ルアーを失うことになる。
さすがに物の値段を知っている二人は必死にルアーを外そうと努力したが、なにかの拍子に釣り糸が切れてしまい、結局ルアーを諦めないといけなくなってしまった。そんなことがあったせいで俺たちは一気にやる気をなくしてしまい、もう帰ろうかという雰囲気も手伝ってか、早々に切り上げることにした。
それからしばらくしてそのダム湖が放流することになった。すると、水底からずいぶんと腐敗が進んだ遺体が見つかったそうだ。これはニュースにもなったくらいで当時はずいぶん騒がれた。
俺たちそんな場所で釣りしてたんだなぁ、と思っていたんだけど、聞くところによると、その遺体にはどういうわけかルアーが引っかかっていたそうだ。それも見た目からして高級そうなルアーが。そう、あの友人が失くしたルアーだった。
あの時友人が釣り上げたのはブラックバスなんかじゃなく、その水中で誰にも見つけられることなく沈んでいた遺体だった。これが俺が釣りをやめることになった理由だ。
友人はたまたまその遺体にルアーを引っ掛けてしまったのかもしれないが、もしかしたらその亡くなられた方は自分をここから出してもらおうとして、そのルアーを掴もうとしていたのかもしれない。
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