第8話 忍び寄る者

 あんたはゾッとする話は好きか?


 俺は怖い話も好きだが、ゾッとする話もそれなりに好きだ。ここしばらくずっと怖い話ばかりをしてきたからたまには趣向を変えた話でもしてみようかと思う。


 これは俺の友人の話なんだが、その友人は今は辞めてしまったんだが、当時ある職業に就いていて、それが結構ハードな職業だった。特殊な職業ということもあって、寮生活を送っていたんだが、そこであったゾッとするお話。


 ある日友人は体調を崩し、仕事が出来ない状態だったため、寮の部屋で一人休んでいた。友人の部屋というのは複数人が使用する、ちょっと大きめの部屋で、一人ずつに専用のベッドがあったという。友人はいつものように休んでいると、急に部屋の扉が開いたそうだ。基本的に仕事をするときは同じ部屋の人間としているため、誰かが部屋に戻ってくるということは自分のように、怪我かそれとも体調不良かなにか理由があって帰ってくる以外まずないそうだ。それなのに扉が開いた。だからああ、他の誰かも風邪ひいたのかな位にしか思ってなかったという。


 しかし、その部屋に入ってきた人は真っ先に自分のベッドを目指してきて、そしてその寝ている友人の上に覆いかぶさったそうだ。そして耳元で鼻息荒く、こちらの様子を伺っていた。友人はこれはヤバイ……と思って必死に寝ているフリをしたという。もし自分が起きていることが相手に知られたら何をされるかわからないからだという。


 早く出て行ってくれ。そんなことをずっと思っていた。相手もなかなか折れてくれず、ずっと覆いかぶさったまま今度は布団越しに体を撫で回してきた。友人は出来るだけ反応しないように耐えた。するとようやく諦めてくれたのか、ちっという舌打ちとともに勢いよく扉を閉めて出て行った。友人が安堵しているともしかしたらまたさっきの人が入ってくるかもしれないと思った。即座に部屋の鍵を閉めて布団を被って寝てしまった。


 それからドンドン! という音で目を覚ますと、どうやら同室の仲間が帰ってきたらしく、部屋に鍵がかかってて入れないから扉を叩いていた。鍵を開けると、同僚たちは不機嫌そうにけれど心配そうな様子だった。なのでさっきあった出来事を話すと、三人とも肝を冷やしていた。そしてお互いに気を付けようと話あったということがあった。


 さて、ここで質問だ。ここまで聞いて何か気づいたことはあるかい? 勘の鋭いん人ならもしかしたらこの話の本筋、そして友人の職業にも気づいてしまったかもしれないが、それは言わないでおいてくれ。


 軽く種明かしだけすると、俺の友人というのは女友達も確かにいるが、この話に出てくる友人というのは男友達だ。そして友人の就いていた職場というのは女性もいることはいるが、ほとんど男性ばかりという職場だった。もうそれ以上は言わなくてもわかるな?


 後日、その話を先輩にすると、先輩はああ……やっぱりかみたいな反応をしていたらしい。先輩曰く、お前は狙われやすそうだからなぁとのこと。それに起きていたら間違いなくヤられていたとも。そんなことがあったと笑いながら話してくれたが、まぁ嵐の二宮くんに似ている友人を見てるとなんとなく分からないでもないかなぁと思ってしまった、そんなお話。

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