第89話彼らは貴族であって変質者ではないことを念頭に


 正直少しばかり舐めていたと言わざるを得なかった。






「おぉ君がコウタ・キヤ殿か! よい面構えをしている、息子が気に居るわけだよ」




「そうですねぇ。貴族である私たちを前にしても怖気ない胆力もありますわ」




「ふーん、なかなかね。嫌いじゃないわよ」




「なにより我々を見ても驚かないのが好印象ですな、旦那様」




「「「HAHAHAHA!」」」






 広いハインツナイツ家の客間には申し訳なさそうにヘルムの頬を掻いているナルニィエス、そしてハインツナイツ家の面々がいた。全員騎士ヘルム被っている。繰り返す。この部屋のキヤ達以外の人間全員ヘルムを被っている。一家全員で色々と拗らせ過ぎではないだろうか? ちなみにキヤを迎えに来た初老の方は本当にハインツナイツ家の使用人だった。現時点メイドは見ていないが、メイドもそうだったらどうしよう。この一家全体がニッチすぎる。






「私がハインツナイツ家当主、グランレイ・ハインツナイツだ」




「当主妻、ボーリンですわ」




「ナルニィエスの姉、ヒストリアよ。本当は兄もいるんだけど、今別のとこに住んでるからいずれ会わせてあげるわ」




「歯車鍛冶工房工房長、コウタ・キヤです。こちらが部下のマーソウです」










 くぐもった挨拶に冷や汗垂らしながら挨拶を返すキヤ達。以前にも記述した通りこのハインツナイツ家は土魔法のエキスパートだ。塩湖から流れてくる潮風を松林で止め塩分を含んだ土壌を改善することで農業を可能にし、塩湖に流れ込む数本の河川の氾濫時には岸を補強し領民を助け、有事の際にはその卓越した土魔法で脅威を退ける。最近は観光にも力を入れ始めたが、元々はどこからどう見てもデキる貴族だったのだ。どこからどう見ても変人集団だが




 このヘルムを被る性癖さえなければもっと有名になっていただろうに。とはいえ貴族は貴族なのでキヤもバンダナを外しており礼儀正しい態度を心がける。スイッチのオンオフは慣れたものだ






「お褒めに預かり光栄でございます。それでハインツナイツ様、私ども歯車鍛冶工房になにかお話があるとのことですが」




「おぉそうだった。貴殿とナルニィエスが以前家の裏庭で採掘したというものを見せてほしいのだ。なんでも扱い方を間違えれば大惨事を起こすかもしれないと聞いている」






 そうなのだ。以前発掘した化石を並べそこに魔石を配置したところ、なんらかの反応を起こして魔物となって復活したのだ。裏庭にそんな物騒なものが埋まっているのだ、対処しておくに越したことはない






「わかりました、一からご説明いたします」












ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ








「なるほど……太古の魔物の石化した骨、か」






 くぐもった声で呟きながらヘルムの顎を撫でるハインツナイツ当主。一見ギャグだが真剣である。忙しい貴族当主がわざわざ時間を割いてキヤたちと面会を求めたのだ。危険ではあるものの、使いようによっては資源に化ける可能性のあるものがまさかの裏庭から出土したのだからただ事ではない。






「その魔石とやらを見せてもらえるか」




「こちらです」




「我が執事は鑑定のスキルを持っているのだ、詳しいこともわかるだろう。どうだ?」






 キヤがギアボックスから魔石の化石を大中小取り出し机に並べる。ヘルム執事がそれを取り指で輪を作って石を眺めた。






「正直初めて見るものです……中と小はほとんど魔力は残っておりませんが、大の方はそこそこ魔力が残っているようです。使いようによっては資源になりえるかもしれません」




「ふむ……採掘量次第だが一先ずはいざという時のためのモノだな。魔石の残量も一定ではないだろうからアテには出来まい。そしてもう一つ興味深いものが出土したと聞いたが」




「こちらです」






 今度は小さな巻貝の化石、植物の葉の化石、そして大型魔物の牙の化石を机に置く。すかさず執事さんがグランレイの元へと運ぶ。グランレイは牙の化石を手に取り、興味深そうに見分し始めた






「ふむ……確かにこれは岩だ、岩でできている。だが確かに魔物の持つ魔力の残滓が感じ取れる……興味深い」




「魔物の魔力の残滓がわかるんですか?」




「土属性限定だがね。昔野生のロックゴーレムと出くわしたことがあってな、その時のロックゴーレムの残骸とこれはよく似ている。かなり強力な魔物だったのだろう、ロックゴーレムの残骸よりも、なんというかな? 生命力の残り香のようなものを強く感じる。いやはや、朽ち果て骨が岩と成り果てても未だ残る命の鼓動、恐ろしくも面白い」






 満足したのか執事に牙を返すグランレイ。奥様ボーリンとヒストリア嬢はそれぞれ葉の化石や巻貝の化石を見ている。






「植物は枯れて朽ち果てるが定説だったけど、こんなにもはっきり残るなんて……もしかして植物に影響を及ぼす魔法を使う時の触媒になるかもしれないわね……」




「ウチの裏からこんな水の中に棲む生き物の遺骸が見つかるなんて面白いわねえ。昔この辺りも塩湖の底だったのかしら?」






 奥様ボーリンは中々鋭いことを言っている。ヒストリアは化石の新たな活用法を思案しているようだ。






「してキヤ君。君はこれらをどう活用する気なのだね?」




「魔石はこれも調査が必要ですが、ウチの工房でよく使うカラの魔石の代替品として使えないかと思っています。そして化石ですが……これを組み立て展示することで新たな観光名所にできないかと」




「ほう? それはまた興味深いな」






 グランレイのヘルムの中で彼が不敵に笑ったような気がした。

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