第88話もしかして一族揃ってソレですか?



「いやーヒデぇ目に合った。楽しんで疲れるならまだしも楽しめずに疲れるってなんだよ。俺結局カキ氷くらいしか食えてねぇぞ。ウマかったけど」






 夕暮れの迎えの馬車待ちの時間。キヤは一人で砂浜に座っていた。他のメンバーは荷物整理を請け負ってくれている。助けてもらった礼だとか。若干ヤツらの顔がニヤついていたので何かしら企んでいるのかもしれない。




 ちなみにかき氷とは休憩所の冷凍庫にあった氷を削り、そこに近くで売っていたフルーツを荒く潰してかけたものだ。全員大絶賛で、キヤとサツキ以外はあまりのウマさに一気にかきこむように食べて頭痛を起こしていた。ちなみに冷たいものを食べて頭痛を起こした時は頭を冷やせば治るぞ






「キヤさん」




「ン、どったの?」






 現れたのはカレンだ。水着から着替えて余所行きのオシャレな服を着ている。夕暮れの中、美しい金髪がオレンジ色の夕日に照らされ美しく輝いている。それはまるで一枚の絵画のように美しかった。キヤが思わず見惚れてボーッとしてしまうのも無理らしからぬことだろう。少し伸びてきた金髪を指で梳くように耳に掛ける仕草が何とも男心をくすぐる。






「いえ、キヤさんは何をされているかな、と。荷物の整理が大体終わって時間が空きまして」




「……あー、そういうことね。俺は見ての通りボーっとしてるよ」






 自然な流れでカレンがキヤの隣に腰を下ろす。少しの間二人は無言だったが、不思議と気まずさは感じない。夕方になり気温が下がりさらに丁度いい強さの風が吹き抜けて、気を抜いていればいつまでもそこに座っていたくなるような、えも言えぬ心地良さがそこにはあった。




 と、キヤが思い出したようにふと呟く






「おぉそうだカレン」




「なんです?」




「水着もそうだったけど、その服も似合ってンぞ」




「………はい!」






 キヤが照れ隠しに膝の上で肘をつき顎を手で支えながら横目でカレンを見る。彼女は嬉しそうに満開の花のような笑みを浮かべていた。二人の間に空いていた距離がほんの少し縮まった。










ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ






 次の日、昨日はしゃいだので今日は宿に引きこもろうということになりメンバーは思い思いに過ごしていた。女性陣+オネェは新メンバーである水の妖精らしきニケの水芸を見て楽しんでいる。キヤとマーソウはと言えば、化石のトリミング用のドリルを開発している。






「どうにかして魔石モーターのスイッチのオンオフを作りたいけどなぁ……なんかいい素材無いかな? 一回起動するとどうしても魔力が切れるまで回りっぱなしなんだよなぁ。流石に危ないよなぁ。魔動バイクは流し込む魔力の調整とブレーキでどうにかなってるけど、一般向けに販売するなら動力の自在なオンオフは絶対必須だよなぁ」




「魔石の発動は魔力の動きを阻害するものがあればどうにかなりそうだがな。魔石は魔石全体で魔力を循環させて発動している、どこか一部分でも魔力の動きに淀みがあれば止まりやすくなるとは思うが」




「魔法が聞きにくい魔物の素材ならワンチャンありってことか。それなら機構も簡単になるかな……ギルさんにお願いして王城の図書館に入れたりしないかな、そしたらギルバさんに依頼するんだけど」






 そんなことを言いつつギアボックスを使って部品を成形していくキヤ。タッチスクリーンに表示された金属板を付属のタッチペンと専用の定規で魔力を流し込みながらなぞり、キヤが思う形へと加工していく。長時間使えばそこそこの魔力と集中力を必要とする作業だが、キヤが毎晩使わなかった魔力を全てギアボックスに充電することでギアボックスにもキヤ自身にも相当な魔力が溜まっている。無茶をすれば二四時間 はたらくことも可能ではあるが、ブラック労働はキヤのポリシーではない。




 と、部屋のドアを叩く音がした。仲居さんだろうか? ちなみにこの宿は普通のホテルと違い滞在中ならずっと宿に居たままでも問題ない。キヤがハーイと返事をすると、失礼しますの言葉の後にこの部屋担当の仲居さんが入ってきた。






「キヤ様はいらっしゃいますか?」




「オレっすけど」




「キヤ様を訪ねて来られた方がいらっしゃいます。ハインツナイツ家の使者と名乗っておられまして、いかがいたしましょう」




「わかりました、今行きます。マーソウ、ちょいと付き合ってくれ。皆は自由にしてもらっていいから」




「わかった」






 キヤが部屋から出て行こうとすると、急にキヤの服の肩の部分が濡れる。そこにはニケがここが定位置だと言わんばかりに座っていたが、如何せん水の妖精ということでキヤの肩が際限なく濡れてしまう。それでは困るので洗っておいた昨日のビンを再び取り出してビンの口にヒモを巻き付けて首から下げる。そこに入っていてもらうことで妥協してもらうことにした。今度はフタをしていないのでニケがぴょこんとビンの口から顔を出している。なんかカレンが少し羨ましそうな目でニケを見ていたような気がするが気のせいだろう。






 ラウンジに下りるとそこには品のいい初老らしき紳士が姿勢よく座って待っていた。騎士ヘルムを被って。この一族キャラが濃すぎやしないだろうか。






「えー……っと……ハインツナイツ家の方ですか?」




「おぉ、貴方がコウタ・キヤ殿ですな。ハインツナイツ家の使いの者です」






 親にしてこの子にありということだろうか、この紳士も例に漏れずいい声をしている。キヤはハインツナイツ家の面々に会うのが怖くなってきた。全員騎士ヘルム被ってたらどうしよう。十中八九ナルニィエスのお父さんだよね、この人? いや、たまたまナルニィエスと趣味が同じの執事と言うセンもあるだろう。あったらいいな。そうであれ。






「それで、私にどのようなご用件でございましょうか?」




「そんなに身構えずともいいですよ。ナルニィエスが随分とお世話になったようで、どのような方か非常に興味がわきましてな。聞けば天才的な発明家でハナツキ商会にも強いつながりがあるとか」




「未熟故、いろんな人に世話になってやっと立てるようになった程度の若輩者です。利益は支えてくれた人への恩返しの副産物ですよ」




「はははは! 実に良い心持をしている! それでですな、聞けばハインツナイツ家の裏庭で面白いものを採掘したとか。それについて詳しく聞きたいのですよ」




「構いませんよ」




「そうですか、それは重畳。ではぜひハインツナイツ家へ共にいらしてください」






 そういうことでキヤとマーソウはハインツナイツ家に改めてお邪魔することになった。


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