第86話水面より伸びるモノ




 時刻はお昼時。ナルニィエスの実家所有のプライベートビーチに建てられた休憩所にて歯車鍛冶工房メンバーがバーベキューを楽しんでいた。後ろに林があり、適度な影と程よい風通しで心地良い涼しさがある。




 休憩所と言う名は着いているものの、少し豪華な海の家のようなものでキヤ達現代人には割となじみ深いものだ。その休憩所の右側の隅に膝を抱えて蹲る工房長コウタ・キヤの姿があった。






「アイツまだヘコんでるのか」




「仕方ないわよ、男の子なんだもの。でもちょっと可哀そうよね」






 キヤを哀れみながらもムッシムッシとバーベキューを貪るマーソウに、ゴルドワーフは見たこともないほど大きなジョッキでエールを呑んでいる。お察しの通りキヤは股間のテント場が元気に経営しているのをカレンに見られたのである。どうでもいいが男性陣が着ている水着はサーフ型と言われる一見半ズボンに見えるタイプの水着だ。ゴルドワーフはスリングショットを着ている。記述しておいてなんだが書かなきゃよかった。最後の部分。




 そして休憩所の中の涼めるスペースで額に濡れタオルを乗せて目を回しているのはカレン・フェアリスだ。顔を真っ赤にしてなんだか随分とのぼせたような様子だが、ナニを見てこんなにのぼせてしまったのだろうか。






「他人の恋路ってなんでこうも面白いんだろうね、今私の人生スゴく充実してるって感じる」




「わからないこともないけど、あまりキヤちゃん達をいぢめないようにね?」






 ホックホク笑顔で焼きそばを啜るサツキにゴルドワーフは呆れたように諭す。エールをゴクリと飲んだゴルドワーフはふと気になっていたことをサツキに聞いてみることにした






「そういえばサツキちゃんはどうなの? コ・レ」




「私ですか? うーん、今は考えられないかな。そんなに結婚願望無いんだよねー」






 小指を立てて質問するゴルドワーフだが、サツキはなんの感慨もなくモキュモキュしながら答える。






「それじゃサツキちゃんは工房メンバーの中なら誰がいいのかしら?」




「ん~~……キヤかな。アイツほっとくと大変なこと仕出かしそうだしね」




「意外、もっと慌ててくれるかと思った。というか保護者目線なのね……キヤちゃんも可哀そう」




「まぁタイクツはしないだろうしなんだかんだイイ男だよ、アイツ。オサイフとしても、人間としても。アイツが生涯独身になりそうなら拾ってもいいかなって」






  冗談だか本気なんだかわからない笑みを浮かべながらサツキは焼きそばを啜る。サツキの隠さないしたたかさにゴルドワーフは少々面食らった。






「ちなみにマーソ」




「シスコンは論外」




「oh……」










ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ






 そして数十分後、心の傷が若干回復したキヤが休憩所の影から顔を出すと既に皆は食事を済ませ思い思いに水遊びや砂遊びをしていた。マーソウは大量の水をかけてくるゴルドワーフから必死に逃げ、サツキとマーシュンは砂で精巧で巨大な城を建築している。どうやって作ってんだコレ。マーソウは、うん、その。ガンバ。




 近くのテーブルに二人分のバーベキューと焼きそばが置いてあり、仲間たちが気を利かせてくれたのだろうとキヤは推測した。






「ありがてぇっ……ありがてぇッッ……涙が出る! それじゃ、いただきます!!」






 仲間の好意に感激しつついただきますと手を合わせた瞬間テーブルの上のバーベキューが大量の波に流されて湖の方へ行ってしまった。思わず光の国の巨人のような声が出てしまう






「ヘアッ?! なんじゃいなんじゃい?!」






 キヤが湖の方を見ると、水面が大きく盛り上がり巨大な水塊と化していた。ゴルドワーフとマーソウ、そしてサツキとマーシュンがその中でもがき苦しんでいる。ついでにさっきのバーベキューも一緒に浮いている






「コールギアボックス!! 923・巨神之怪腕!!!」






 とっさに取り出したギアボックスから両腕に巨大な機械の巨腕を二対召喚し装着、水塊の中でもがく四人をひっつかんで引っこ抜く。地面に転がった四人は激しくせき込み水を吐き出した。どうやら命に別状はないようだ。サツキとマーシュンは意識はあるものの朦朧としているのか倒れたまま動けなくなっている。バーベキューは諦めるしかないようだ






「ずぇおりやぁぁぁぁぁおんどれぇぇぇぇ!!! クソったれが俺のバーベキューが!!」




「ぶはっ、ゲホゲホ……うげ」




「ぶはぁオヴェ……た、助かったわキヤちゃん……」




「なんなんスかあれ?!」






 目を離したスキに巨大な水塊は生き物のように蠢く触手を数本生やしていた。自然現象ではありえない。流石に四つの腕を同時に自在には操れないので一対収納しある程度身軽になる。






「危なかったわ、もうちょっとでヒドい触手プレイされるとこだったわよ!!」




「需要のナイのでありえないっすよゴルドさん」




「ムッキーーー!!」




「マーソウ! その二人を退避させろ!」




「わかった!」






 キヤのにべもない否定にサイドチェストキメながら悔しがるゴルドワーフ。マーソウはキヤの指示通り倒れて動けないマーシュンを背負い、サツキをお姫様抱っこで抱きかかえて逃げる。そんなコントをしている間に水塊は数本の触手を全員に向けて飛ばしてきた。キヤは慌てず巨神之怪腕をブン回して触手を振り払う。ゴルドワーフは回し蹴りを連続で繰り出し触手を弾き飛ばす






巨神之掌タイタンビンタ!!」




生足魅惑蹴ヴィナス・マーメイドキック!!」






 幸い触手自体の強度は無いのか怪腕が当たった瞬間元の水へと戻り地面にべしゃりとこぼれた。だが振り払う間に触手はどんどん増えている。増えた触手を矢継ぎ早にどんどんキヤたちへと伸ばす水塊、キヤは腕を必死に振り回して迎撃するが潰した瞬間から増えているのでこのままではジリ貧だ






「ゴルドさん、コレなんなんスか?! どうやって倒せばいいんです?!」




「おそらくスライム系か精霊系よ、どこかに水を操る核がないかしら?!」






 ゴルドワーフの助言を受けたものの、二人とも回避や迎撃に必死で核を探すどころではない。だが彼らはあくまで防御手ディフェンスだ。最強の攻撃手オフェンスが遅ればせながら登場した。






「遅れました、アレを倒すんですね?」




「やれ! やれやれやっちまえ!! カレン・フェアリスぅ!!!」




「行きます! 水砕発勁スイサイハッケイ!!」






 キヤの巨神之怪腕を砲台ふみだいにして撃ち出された最強の砲弾が水塊に着弾、際限なく増えていた触手が水塊ごとあっけなく弾け飛んだ。






「魔力を使って水を操るのなら、私の気の一撃で崩せばいいだけ。相手が悪かったですね」

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